北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。
東直子②
そうですかきれいでしたかわたくしは小鳥を売ってくらしています
この説明しない感がいいですよね。「そうですかきれいでしたか」って言われると、昔の恋人or昔の恋人の妻@結婚式みたいなシチュエーションを想像しますが、もしかすると話し相手が行った旅先のステンドグラスかもしれないし、庭にかかった蜘蛛の巣かもしれないし、昨日の夜の月かもしれないし、昔働いていた職場で同僚が書いたプログラムかもしれないし、離婚してから会っていない母親の死に顔かも。きれいでしたか、って言われてみんな何を真っ先に思い浮かべるんだろう?
まあ実際は松田聖子の結婚に際して郷ひろみが口にした「そうですかきれいでしたか」らしいのですが(笑)。前回、解釈されたくないみたいなこと書きましたが、こんな身も蓋もないネタバレが本人からあったにも関わらずやっぱり好きな歌なので、誰かの解釈を聞いても自分の中の気持ちは大きく変わったりしないのかもしれないって思ったりもしました。
夕ぐれに夢をみました処女だったころのわたしと彼女のけんか
これはなんとなくこの人の背景から、「彼女」はお姉さんかなと思いました。「処女だったころ」喧嘩する相手ってたいていきょうだいだし。でももしかしたら友達なのかな。そして振り返ってみると女性と喧嘩した記憶が長らくないな…。思い当るとすれば母親くらいですが、自分が「処女だった」くらいに若い時、母親のことを「彼女」とは呼ばないだろうな。
「そら豆って」いいかけたままそのまんまさよならしたの さよならしたの
この歌も記憶に残る系ですね。「そら豆」が何なんだよー!気になるじゃん!そして別れ際に言う言葉がそれなのか?別れ際系の短歌ってけっこうありますが、この歌は意味がよく分からないのに忘れられないという点でかなり上位に来ますね。
別れ際系短歌では石川啄木の
かの時に言ひそびれたる
大切の言葉は今も
胸にのこれど
が一番ぱっと思い浮かびますが、こっちは「大切の言葉」だもん…。一方「そら豆」ですからね…。この100年の間に日本語も変わったもんじゃ…。
恋なんてかんたんでいいモーツァルトが好きだってまえ言ってたじゃない (yuifall)
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