書肆侃侃房 出版 東直子・佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。
その窓のむこうに映る人々や死はやわらかく溶けて廻れり
この人は僧侶でボクサーなんですね。僧侶なのかぁ、だから死がやわらかく溶けて廻るんですね。死者の魂に寄り添うまなざしが感じられます。
羊水と湯灌のみずのやわらかく蕩けるように死はやってこよ
という歌もあります。この人にとって死はやわらかい存在なのかもしれないなと思いながら読みました。
その一方で、
一万試合は観てきた俺の眼窩からある日歪みて消えゆくリング
というちょっと荒々しいテーマの歌もあり、ボクサーとしての生き方も滲んでいます。
なんとなく全体的にハードボイルドっぽい感じですね。一人称「俺」の歌って意外に少ない気がする。たまに見るけど、どっちかというとトホホ系というか情けない俺、って感じの歌が印象に残ってますが
(穂村弘の ほんとうにおれのもんかよ冷蔵庫の卵置き場に落ちる涙は とか)、
この人の「俺」は正統派「俺」ですね(笑)。
いくつもの自分があるっていいですね。人って多面性のある存在だなと思います。個人的には理系の人が作ってる歌に心惹かれるような気もします。
目に見えるものを信じる腑を分けて死の奥へ濃く歩み入るとき (yuifall)
排泄物の臭いだね、死は、僕たちが受け取ってきたいのち全ての (yuifall)