書肆侃侃房 出版 東直子・佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。
竹山広
われの死がかずかぎりなき人間の死になるまでの千日千夜
この歌は、ただ一首で読むか、この人の背景を重ねて読むかで意味合いが全然違ってくる歌だなと感じました。
ただ一首で読むと非常に普遍性のある歌で、私やあなたは千日経てば無名の死人になるというごく単純な事実であり、私を愛する人の悲しみもその頃には薄れるだろうという、まあ人は生きて死んでいくという当たり前の営みを率直に語った歌なのかなと感じました。
その一方で、この人は長崎原爆の被爆者でもあり、他に
くろぐろと水満ち水に打ち合へる死者満ちてわがとこしへの川
など、原爆を詠んだ歌を数多く残されており、これらを一連の作品としてとらえると、その死は千日経っても色あせさせてはならないのではないかとも感じます。
「かずかぎりなき」というのは、今まで人間はみな死んできたという文脈なんでしょうか。それとも、一度の爆撃で多くの人が名もないまま命を落としたということなんでしょうか。どんな風に生きて死んでも個人は個人のままだし、「かずかぎりなき」死にしてはいけない死もあるのかもしれないと思いながら読みました。
ただ石に刻まれるだけの名のために八十年の常世を生きぬ (yuifall)