いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

現代歌人ファイル その109-平井弘 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

平井弘 

bokutachi.hatenadiary.jp

言わなくていいことなのに死者のまま死なせてあげていい筈なのに

 

 この歌どこかで見たことがあるな、でもどこで見たのか思い出せない、って考えていて、ある時ふと読み返した俵万智の『あなたと読む恋の歌百首』の

 

紙ひとえ思いひとえにゆきちがいたり 矢車のめぐる からから

 

のページに同作者の作品として紹介されていました。すごく印象に残った歌だったのに記憶が曖昧だったので、ここで出会えてよかったです。

 

 この人は『短歌タイムカプセル』でも登場していて、

 

男の子なるやさしさは紛れなくかしてごらんぼくが殺してあげる

 

を読んでそれが強烈に頭に残っていてそのイメージだったので、上の二首、この人のだったのかって本当に驚きました。1936年生まれで、1961年、1976年、2006年と歌集を出しており、その間のブランクはほぼ歌人として活動していなかったようです。おおー、比べるのもおこがましいですがすごいブランクを経て今人生で3度目の短歌ブームなのでなんか共感する…。こんな歌を詠む人だから伝説的存在になるけど、私のような素人で時々短歌にはまるって人は実はいっぱいいるんだろうな。

 

 他にも、

 

ふと遅れゆきながらいう「恥しくないの見殺したくないなんて」

 

っていう歌が心に残りました。解説には

 

「恥しい」という感情もまた、上の世代に戦争の災禍を一身に担わせたまま生き延びてしまった戦中世代の感慨なのだろう。

 

とあります。見殺しにしたくないなんて恥ずかしくないの、って難しい感覚だな…。「遅れゆきながら」っていうのは戦争に間に合わなかった、ってことなのでしょうか。間に合っていないのに見殺しにはしたくないなんて恥ずかしくはないの、ってことなんだろうか。これはこの世代の人じゃないと出てこない言葉かもしれません。亡くなった祖父はよく戦争体験を語る人だったのですが、生き延びてしまった、とどこかで思っていたのかもしれない、と、この歌と解説を読んで感じました。

 

空に征きし兄たちの群わけり雲わけり葡萄のたね吐くむこう

 

 この「兄たち」というのも実在する兄ではなく、出征して死んだ上の世代の男たちの象徴として登場するそうです。解説を非常に興味深く読んだのですが、

 

平井の短歌の特徴は、「兄」「姉」「弟」「妹」が頻出することである。(中略)戦死した兄というモチーフがとりわけ繰り返し登場する。しかし実際に平井には兄はいなかった。この「兄」というのは出征していったひとつ上の世代の男性たちの総合的な象徴なのである。さらにいえば「姉」は前近代的ムラ社会に縛り付けられたひとつ上の世代の女性たちである。それに対して無邪気すら感じさせる「妹」たちの姿は戦争を直接は知らないひとつ下の団塊世代の象徴なのだろう。

 

とあります。

 おそらくこの手法には「短歌と私」問題、というか、寺山修司が繰り返し論じられたように、死んでもいない、あるいは実在してもいない肉親を詠むということはどういうことなのか、って散々分析されたのだと思いますけど、そういうことはとりあえず一旦置いておいて、もし自分がそういうふうに象徴的に「兄」「姉」「弟」「妹」を詠むとしたらどうなるんだろうって考えました。

 多分「父」「母」は年代的には昭和のサラリーマン&専業主婦モデルですね。兄弟の中では「姉」が一番イメージしやすく、多分フェミニズムのはしりというか、男並みに働いて独身を貫くorスーパーマザーの道を選ぶ、みたいなパワフルじゃないと社会で生きていけない世代の人な感じです。「兄」はなんだろうなー。イメージしづらいな。引きこもりかネトウヨかな…。2chとかニコ動にはまってて夜ごと非処女叩きしてる感じの(笑)。「弟」「妹」はもはや性差を超えてて、SNSを使いこなし、ネットといえばスマホでPCは触ったことがなく、ぱっと見リベラルなんだけど裏サイトでいじめしたり動画再生回数を稼ぐためにとんでもないことをやらかしたり、実物と写真がえらい違ってたりする存在ですね(笑)。

 

 

いもうとのInstagramに1000人の「ともだち」がいて顔は知らない (yuifall)

 

 

短歌タイムカプセル-平井弘 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

「一首鑑賞」-108 - いろいろ感想を書いてみるブログ