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「一首鑑賞」-214

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

214.坂をくだれば腿の高さの突き当たりにガードレールが見えている坂

 (斉藤斎藤

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで井上法子が紹介していました。

sunagoya.com

 ずっと気になってはいたのですが、どう読んでいいかいまいちよく分からずずっと放置して(というか、あたためて?)いました。

 

 多分、内容的には、

坂がある→その坂は下っていくと突き当たりにガードレールが見える(つまり坂はわりときつめにカーブしている?)→そのガードレールは腿の高さ→そんな感じの坂

ってことなのかなと。

 しかしながら、別にガードレールは突き当りじゃなくても見えるはずで、視線が真っ直ぐ前方に固定されているのも不思議だし、「腿の高さの突き当たりに」という語順も分かりません。それとも突き当りにしかガードレールが設置されていないのかな。山にある坂で、突き当り(要はカーブの崖に面した部分)だけにガードレールがある?

 あと、「くだれば」「腿の高さ」からは徒歩を連想するのですが、「ガードレール」という単語から、無意識に車やバイクなどスピードが出る乗り物に乗っているようなイメージに変わり、そういうギャップもあります。

 そして「腿の高さの突き当りにガードレール」という書き方から、ガードレールに衝突して腿に突き刺さる、みたいな光景を想像してしまう。スピード出して衝突する感じ。

 

だがしかしガードレールにぶつかればガードレールの値段がわかる (木下龍也)

 

を連想しました。

 

 井上法子は、

 

しかし、「腿の高さ」は坂を下っていなくて上から見ているのになぜわかるのか。

ガードレールの高さは予想がつくからなのか。

「腿の高さ」が不思議で、こう言うからには何か平行の視線で見ているような気がしてくる。

でも「坂をくだれば」で仮定の形になっているから、上からの視線を想定してしまう。

 

と書いています。これは私が想定していない疑問でした。「坂を上から見ている」とは思わなかったからです。もしかすると、これは「坂をくだれば」という言葉の受け止め方の違いかもしれない。井上法子は「坂を下っていない」と読んでいる。つまり坂の上にいて、

If I go down this hill

です。一方、私は誰かに坂について説明しているような印象を受けました。「この坂はこんな坂ですよ」と。この場合坂周辺のどこにいてもよく、

when you go down that hill

ですね。もしくは、「坂をくだれば」を「雨に唄えば」と同様

I’m going down this hill

という読み方を想定していた。「まさに坂を下っている最中」です。「見えている」んだから、直感的な読み方としては自分はこれに一番近かったように思えます。思考の流れとして、今まさに坂を下っていて、目のまえにガードレールが見えていて、ああ、腿の高さだな、と思って(つまり身を乗り出せば落ちられる高さだなと)、それからあれは突き当りだ、と思い(まっすぐ行けば落ちると思い)、また坂に意識が戻る、って感じ。だから、「上から坂を見ている」とは思わなかったし、「坂を下っていない」とも思わなかった。

 

 総合すると「坂をくだれば」の時点で解釈がまずいくつかに分かれて、次の「腿の高さの突き当りに」であれっ?となって、そして「ガードレール」で交通手段に疑問が生じ(るかどうかは人によると思いますが)、最後「見えている坂」で煙に巻かれたような感じになる、みたいな歌だろうか。あと「坂」で始まって「坂」で終わる構造も面白いなと思います。

 

 井上法子は

 

短歌だと特に、読むときに「腿の高さの」とか「見えている」のような言葉から主体の視線を追跡して位置を把握したり、語順によって意識の流れを追体験したりというようなことがけっこう特徴的に、ときに無意識に行われている。

 

そのへんの構造、ひいては日本語の構造の深部のようなところに手を入れてさぐろうとしている。

 

と書いていて、確かにそういうところ、主語がIなのかyouなのか、Ifなのかwhenなのかbe ~ing なのか、というところが非常に曖昧で、どう読むかによって受け止め方が違ってくるところが、日本語の深部に手を入れて、ということになるのかもしれない。斉藤斎藤の言語感覚はとても面白いなーといつも思います。感覚ではなくて理論なのかもしれませんが。

 

 それにしても他の人の読み方を読むのって本当に面白いですね。自分一人では考えられなかった読み方があって、視野が広がる感じがします。もともと人の感想文とか読むのとても好きなのですが、こういう、一首鑑賞してくれるコーナーとてもありがたいです。

 

 

思うのは自分の顔を知らぬまま生きては死んだ人たちのこと (yuifall)

 

 

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