いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

短歌タイムカプセル-荻原裕幸 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

 荻原裕幸

 

ぼくはいま、以下につらなる鮮明な述語なくしてたつ夜の虹

 

 「以下につらなる述語を述べよ」的な問題文を想像しますね。それをなくしてたつっていうのが、よく分からないけどなんとなくいいですね。

 この人はプロフィールに「前衛短歌の影響を受け」って書いてあり、確かに前衛的というか…。「(ケチャップ+漱石)」とか、「戦争が(どの戦争が?)」とか、「ぽぽぽぽぽぽ」とか「ぶたぶたこぶた」とか、表現が独特です。

 正直私は短歌に限らず前衛作品ってよく分からないですね。「戦争が(どの戦争が?)」とか「ぽぽぽぽぽぽ」はまだ分からなくもないけど、「(ケチャップ+漱石)」は分からん。これは看板とか、見たまんまの何かなのかな?

 

 前衛、っていうかこの場合ニューウェーブ短歌なのかもしれませんが、いわゆるニューウェーブって私にとってはクラブ(踊る方)的存在なんですよね…。なんというか、正統派古典和歌から連なる文語短歌は和食とかフレンチの懐石レストランっぽくて、そっちは若干ハードルは高いけどドレスコードとかマナーを守れば入れる感じするし、いわゆる現代短歌やライトヴァースと言われる口語短歌はカジュアルレストラン、ファミレス、ファストフード、コンビニって感じで親和性高いのですが、前衛?ニューウェーブ?定義がよく分かんないのですが、記号とか使ったり、全く脈絡がなく内容が飛躍するやつはクラブっぽい。イケてないと入れないの(笑)。もう全然感性がイケてないと入れないので、しんどいんですよ…。

 

 とはいえこの人の歌、全部ニューウェーブ系って感じでもなく、

 

たはむれに美香と名づけし街路樹はガス工事ゆゑ殺されてゐた

 

これとかは分かる!この歌好き。迫力がすごい!美香とはどれだけの付き合いだったんだろうな…。時々遠くから眺めるだけだったのか、毎日通勤とか営業の時にちょっとした日陰を提供してくれていたのか…。何の木だったのだろうか…。行きつけのクラブ(女の子がお酒出す方)の女の子的存在だったのだろうか…。

 

 とまあここまで2020年の4月頃に書いていたのですが、最近になって、書肆侃侃房出版の『ねむらない樹 別冊 現代短歌のニューウェーブとは何か?』ってムック本読んでたら、この人と穂村弘加藤治郎、西田政史の4人がいわゆる「ニューウェーブ」として紹介されててちょっとびっくりしました。この人が「ニューウェーブ」なのは全然びっくりしないのですが、4人限定っていうのがびっくりした。そういう「流れ」的なもんだと思ってたから。

 

 もともと私の短歌の入り口はごく一般的に俵万智穂村弘東直子林あまり枡野浩一あたりで、でもこの頃はライトヴァースにはあんまりはまらなくてむしろ逆行的に百人一首万葉集石川啄木寺山修司寺山修司は前衛かな…)あたりが好きだった。まあ古典的文学少女だったので。

 次に短歌にはまったのは北溟社の『現代短歌最前線』というアンソロジー本がきっかけで、この時は千葉聡、辰巳泰子、谷岡亜紀、吉川宏志の歌が好みでした。この頃すでに『短歌ヴァーサス』って雑誌が出てて、「ネット短歌はだめなのか?」みたいな特集も読んだ記憶があるのですが、この頃もいわゆるポストニューウェーブのネット短歌みたいな作品にはそれほどはまらなかった。

 そこからしばらく短歌とは離れていたので、戦後前衛~ニューウェーブ~ポストニューウェーブに至る流れ、塚本邦雄とか岡井隆から加藤治郎荻原裕幸、それ以降に至る流れにそれほど親しまないまま今回いきなりポストニューウェーブに接する感じになってしまって。

 短歌の潮流を全然知らない状態で『短歌タイムカプセル』を読んで、今回はニューウェーブ以降の若手作品も全く抵抗なく好きになったのですが、私個人の感じ方からすると、加藤治郎は前衛を取り入れつつも古典の流れにも比較的親和性の高いライトヴァース(わりと読みやすく、前衛作品はヴィジュアル重視)、荻原裕幸はエッヂィな前衛(すごい好きな歌とすごいイラつく作品が両極端)、西田政史はサザンオールスターズ(歌謡シーンに大きな影響を与えたのではないかと思われ、歌詞の意味は分かるようでよく分からないがキャッチー)、穂村弘森博嗣(「意味のないジョークが最高なんだ」)もしくは中田ヤスタカ(シティポップ)っぽいと思ってて、この4人がまとめられてんの?そうなんや…ってちょっとびっくりしたんです。

 あと東直子穂村弘とほぼ同じカテゴリのニューウェーブ東直子は天然で穂村弘は意図的)だと思ってたので、外されてたのもびっくり。しかも外された理由が「女性歌人はそういうカテゴリに入らない」というちょっと意味不明な理由であった。

 まあそれはともかく、「ニューウェーブ」を定義するときに、全然方向性が違うように見えても当時の大きな流れを作ったこの4人に限定します、ということなのか、それとも全然方向性が違うと考えることがそもそも誤読なのかはよく分かりません(笑)。

 まあなんとなくですけど、荻原裕幸=ホリエモン穂村弘=ひろゆき加藤治郎=孫正義ニューウェーブ=ジャパニーズIT革命って感じかな(笑)。

 

 ちなみにそのムック本では東直子水原紫苑、江戸雪のシンポジウムも掲載されているのですが、加藤治郎俵万智、梅内美華子をエピソード型、穂村弘東直子水原紫苑をポエジー型、と分類していて、江戸雪が「吉川宏志や梅内美華子の歌には詩を感じないし時間のねじれも感じない」って言ってて、これは2人がポエジー型でなくエピソード型だっていう文脈であって、優劣をつけているわけではないというか歌そのものを否定しているわけではないと解釈しているんですけど、私はどっちかというと吉川宏志とかの方が好きで読みやすかったので、「詩を感じない」って言い方にちょっとへこみました。ポエジー系の歌も私は好きなんですが、作るときはいわゆる「詩的飛躍」というかポエジーをあまりうまく使えない方なので、「詩を感じない」って言われちゃうんだろうなー。まあ私の場合はそれ以前の問題すぎますけど。

 しかしこの本めっちゃ面白かったな。夢中で読んだわ。石川美南と平岡直子と林あまりの寄稿が面白すぎました。あとやっぱ千葉聡好き♡って思った♡

 

 

こんなにも空は綺麗で食べ物が黄色いけれど明日に着かない (yuifall)

心臓に触ったこともないやつの捏ねる理屈がturns me on (yuifall)

 

 

現代短歌最前線-荻原裕幸 感想1 - いろいろ感想を書いてみるブログ

現代短歌最前線-荻原裕幸 感想2 - いろいろ感想を書いてみるブログ

現代短歌最前線-荻原裕幸 感想3 - いろいろ感想を書いてみるブログ

現代短歌最前線-荻原裕幸 感想4 - いろいろ感想を書いてみるブログ

現代短歌最前線-荻原裕幸 感想5 - いろいろ感想を書いてみるブログ

現代歌人ファイル その200-荻原裕幸 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

「一首鑑賞」-109 - いろいろ感想を書いてみるブログ