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「一首鑑賞」-109

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

109.妹とわれとあはせて百キロの巨漢となればあはれ自転車

 (荻原裕幸

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」で石川美南が紹介していた歌です。

sunagoya.com

 この歌、何気なくリンクを開いたら作者が荻原裕幸だったのでびっくりしました。こんな歌もあったんですね。いつ頃詠んだ歌なのだろう。『青年霊歌』(1988)とあり、荻原裕幸は1962年生まれだそうなので、20代の頃の歌でしょうか。

 鑑賞文に

 

100kgといえば石塚英彦よりやや軽いくらいの体重で、一人ならば巨漢といえるが、男女ふたりの重さとしては軽い方に入るのではないか。大きな兄が小さくて軽い妹を後ろに乗せてすいすい走っているパターンと、ふたりとも50kg前後で体格差のないパターンが考えられるが、個人的には、後者の方がしっくりくる(というか、ちょっとどきどきする)。「あはれ自転車」に、今にも倒れそうな危なっかしさを感じるからだ。

いずれにせよ、この歌の肝は「巨漢」だろう。ただ単に「あはせて百キロ」と事実を述べるだけでは別に面白くないが、「百キロの巨漢」という幻の像が立ち上げられたことによって、ゆらゆらと進んでいく自転車の重みが、生々しく伝わってくる。兄と妹の影が完全に一つに重なっているように感じられるところも、妖しくて魅力的だ。

 

とあります。妹さんと何歳差か分かりませんが、確かに30kg(小学生)と70kg(大人)と考えるよりも、45kgと55kgと考えた方が現実的だし、ちょっとどきどきする、という気持ちも分からないでもないですね。

 

 この読み、いいなあって思ったのは、「巨漢」に注目したところです。確かに、「妹と自分と合わせると体重は百キロくらいで二人乗りをしてる」っていうよりも「百キロの巨漢が自転車をこいでいる」っていう絵面の方が真に迫った感じがあるし、妹は荷台に座っているとかじゃなくて後輪の脇に足をかけて立っている、不安定な方の2人乗りだろうな、って想像しました。

 それにしても20代で妹と2人乗りするかなぁ。学生時代の歌なのかもしれん。

 

 他にも

 

たはむれに釦をはづす妹よ悪意はひとをうつくしくする

 

なんて歌も紹介されています。鑑賞文には「兄妹モノが好きな人は確実にぐっとくるだろう。」とありますが、兄妹モノにぐっと来ない私としては、これってどういう気持ちで作った歌なのだろうか、と考えてしまいますね。「妹」は何かの象徴なのか(替えのきかない女性、守るべき若年者、手の届かない女、禁断の関係、ロリータ的小悪魔など)、それとも何のメタファーでもないのか。

 例えばこの歌だったら、「妹」が「たはむれに釦をはづす」ことを「悪意」と書いていて、それは、「妹」、つまり絶対に手の届かない女だからこその「悪意」なんだと思うんですよね。単純に「本当に妹がそうだったからそう詠んだ」って捉えるよりもそういう暗喩的存在として読んだ方が面白いし、「妹」が「恋人」になり得る(互換しうる)と逆につまらないと思いましたが、うーん、でも、「妹」的な存在(私の場合「兄」か「弟」ですが)に性的メタファーを重ねようと思ったことがないので結局よく分からんな。

 

 

清潔な顔して笑うまだ兄の子供を産んでいない女は (yuifall)

 

 

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