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現代短歌最前線-小島ゆかり 感想4

北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。

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小島ゆかり

 

二重瞼にあくがれわれを責めやまぬ娘らよ眼は見るためにある

 

 そして娘がもうちょっと大人になるとこうなると(笑)。顔写真載ってるんですけど綺麗な方ですけどね。全然余談なのですが、娘の小島なお角川短歌賞受賞したときの雑誌『短歌』が家にあって(何でかよく分からん。他には齋藤芳生の回もある)、確かこの時現役高校生で、写真載ってたのですが娘もかわいかったですよ(笑)。まー短歌に顔は関係ないんですが、顔に関する歌なので、どれだけ似てるんだろうとか気になりました。一重かどうかってあんまり意識しなかったなー。

 

 『桜前線開架宣言』の解説に「小島」は母の旧姓でペンネームだから、小島ゆかり小島なおも本名ではなくて、「小島ゆかりの娘であることわざわざアピールしている」と書かれていてちょっとびっくりしました。花山多佳子と花山周子とかはどうなんだろう?永田紅は父の「永田」姓を使ってますね。本名なのかな。それとも旧姓のまま、ってことなのかな。

 

さうぢやない 心に叫び中年の体重をかけて子の頬打てり

 

 この歌なんか赤裸々ですごいですよね…。思春期くらいの娘との葛藤なのかしら…。「難しい年ごろ」の女の子って大変そう…。しかも「難しい年ごろ」長いからね(笑)。6~8年くらい続きますからね(笑)。

 

屈折光、透過光さす春の窓傷つけば楽になるものを 子よ

 

 そしてこんな愛情に満ちた呼びかけもあります。もう子供は「球体」ではなくなって、自分の手を離れてしまって、自分の力の及ばないところで悩んだり傷ついたりしているんだろうな。傷つくまいとするよりも傷つけば楽になるものを、って親は思っても、渦中にいる子供にはそれが気づけなかったり、傷つくことで楽になるっていうことが信じられなかったりするんだろうなと思いました。

 無垢のガラスがあって、それは一生守り通すことはできないのだから、ついた傷を慈しんだ方がいい、というふうに感じました。でも、一生負わなくてもいい傷もあるし、親は子供をどこまで守れるんだろうな。そして自分は親にどこまで守られてきたんだろう、と思います。

 

 

二藍の紗を纏はせつ「あなたつてきれい」と笑ふ母似なり我は (yuifall)

 

 

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現代短歌最前線-小島ゆかり 感想3

北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。

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小島ゆかり

 

虻一つつとひるがほの花に入り出て来るまでを耳こそばゆし

 

 この人のこういう情景描写の歌に心惹かれます。自分の耳に虻が出入りしているみたいなこそばゆさを感じるってことですよね。ただ虻が花に出たり入ったりするのを見ているだけなのに、自分の耳に虫が出入りしているようなごそごそした臨場感があります。

 

柿の朱は不思議なる色あをぞらに冷たく卓にあたたかく見ゆ

 

 これも衝撃系の歌ですね…。柿を見てとっさにこんなことが思い浮かぶなんて…。そして深く納得する。柿の木を下から仰ぎ見るとき、冷たい秋の空、さびしい、つめたい朱、って思うのに、食卓に並ぶと団欒のあたたかさみたいな感じする、確かに。「不思議なる色」って素朴な書き方してるのもいいです。下の句で圧倒的な修辞が来るから、上の句の素直な表現が効いてるんですね。

 

子供とは球体ならんストローを吸ふときしんと寄り目となりぬ

 

 この歌かわいい♡どの歌も情景が鮮やかに浮かびます。ストローを吸ってるほっぺも膨らんでるのかも。手もむちむちしてて、目がまんまるで寄り目で。でも、柿の歌と同様、分かる!って思いながらも自分の中にはない言葉、ない発想だなって思います。

 赤ちゃんとか子供って、むちっとしててまるまるとしてるなって思うときと、骨格が細くて薄くてなんてきゃしゃなんだろうって思うときがあります。そして、男性が女性を守りたいって思うのもこういう豊満で柔らかいのに小さくて華奢なところなのかなーとか想像するけど、やっぱり女性は「球体」じゃないなー。子供ならではだな。

 ストローでジュースかなにかを飲みながらそのストローを一生懸命見ている「寄り目」が愛おしいですよね。大人じゃこうはいかないですもん(笑)。

 

 

「むしさされはれた」ときみが指し示す尺骨茎状突起愛しも (yuifall)

 

 

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現代短歌最前線-小島ゆかり 感想2

北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。

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小島ゆかり

 

われながら女の情の恐ろしく夜のうなじに木枯らしを巻く

 

 これとか、どうですか、もう。この人の歌も語彙力奪う系ですね…。すごいしか言うことないですね…。同じく好きだなとかすごいなって思っていても、どうも (私を)饒舌にさせる系と沈黙させる系の歌人がいて、沈黙系の人はあんまり感想とか書けなくて困ってしまいます。なんか、とにかく、好き!みたいな貧困な感想しか出てこないんだもん…。ていうか、別に私がどうこう言わなくたって歌読んだらすごさが分かるよね?みたいな感じです(笑)。

 

水流にさくら零る(ふる)日よ魚の見るさくらはいかに美しからん

 

 この歌は古典和歌の匂いがしますね。

 

ちはやぶる神代もきかず龍田川からくれないに水くくるとは (在原業平

 

とか

 

ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ (紀友則

 

を思い出しました。

 

 大塚寅彦の歌にもありましたが、「魚の目に映るなにか」に想像が膨らむのは、「魚眼レンズ」の景色からの連想なのかな。昆虫とか無脊椎動物までいっちゃうと、一体どんな世界が見えているのかちょっと簡単には想像しづらいもんなー。昔トイカメラにはまってたこと思い出しました。ホルガとかで撮ってたよ。サブカル女子が通る道(笑)。

 魚の目に映る景色を自分の見る世界とは違うと思うように、もしかしたら隣にいる人が見ている景色も私が見ているものとは全然違っているのかもしれないって時々思います。

 

いちまいの水面のうへ滑り来て水鳥一羽こころに入りぬ

 

 現実なのか幻なのか分からない光景ですね。水面は「いちまい」でちょっと平面的で、水鳥はそこを滑ってきてこころに入るのか。この歌も好きだけど全く解釈できないしなぜ好きなのかもうまく説明できないです。解釈できないのはともかく、どうして好きなのか自分で分からないけど好きな歌って不思議だなー。

 鳥に関連した秀歌ってたくさんありますけど、どうも鳥の歌って自分は作れる気がしない。「古代」と同様、自分の脳内に鳥って馴染みがないです。図鑑とか見てみたけど、どの地域に生息しててどの季節にどんな行動してどんなときにどんな声で鳴くとか分からないと思い描けないんだよな…。現実の鳥見ても種類がよく分かんないし。。自分のこういう理系っぽい理屈っぽさが時に嫌になります。鳥の歌って作れないからこそ心惹かれるのかも。

 

 

並びつつ異なる景色を見ておらむわれと蝗に注ぐゆふぐれ (yuifall)

 

 

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現代短歌最前線-小島ゆかり 感想1

北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。

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 小島ゆかり

 

渡らねば明日へは行けぬ暗緑のこの河深きかなしみの河

 

 今回『現代短歌最前線』を読み返してみて、昔はよさが分からなかったけど今読むとすごいなって思ったのがこの人の作品です。『短歌タイムカプセル』の時もすごいなって思ったのですが、やっぱり200首読むと迫力ある!末尾の「寺山修司論」も骨太な文章で、すごいかっこいいです!さっきからすごいしか言ってねえ!

 

 この歌は解説に「青春の決意を述べた歌」とあり、かなしみの河を超えて明日へ行くんだな、と思いました。前回の川野里子の感想でも「悲しみ」に触れましたが、やっぱり究極的には自分自身で「深きかなしみの河」を渡って行くしかないんだと思います。

 

ゆふぞらにみづおとありしそののちの永きしづけさ ゆふがほ咲く(ひらく)

 

 この歌、俳句っぽいですね。なんか。「みづおと」「しづけさ」からの連想かな。解説には「世紀末修辞短歌の最後を担った歌人」と書かれており、特に「比喩表現」の豊かさに言及されています。

 

いつもからだのどこか濡れゐる梅雨の日々 締めても締めても蛇口がゆるむ

 

 この歌なんて読んだ瞬間衝撃を受けたよ。「締めても締めても蛇口がゆるむ」んですよ。この表現…。なんだか恐ろしくさえ感じますね…。この人の歌をスルーしていたかつての自分が信じられん…。やっぱり大人になると感性も変わるもんだなと思いました。でも若い頃から鋭い感性を持ってる人もいるし、逆に大人になって昔は感じられていた痛みが感じられなくなったりとかもあるし、それぞれの人の人生のステージで感じ入る歌が違っていてもいいのかなって思うことにします(笑)。

 

 

さあ石を積んで見給へ 烏羽のまなこに濡れてゐる曼珠沙華 (yuifall)

 

 

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Ross And Rachel (Jake Miller) 和訳

洋楽和訳の注意書きです。

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Ross And Rachel (Jake Miller)

Songwriters:David Hodges, Jake Harris Miller, Justin Slavin, Whakaio Taahi

www.youtube.com

Started out as friends, only friends

But I knew from that moment (I knew from that moment)

That I was falling fast, falling fast

But you never noticed (You never noticed)

 

I lived right down the hall

Like a flat, on the one

Knew you better than you knew yourself (Yourself)

Couldn't get you alone, so I'd sit by the phone

I, put myself through Hell

Could you even tell?

 

Thank God I waited

Thank God that I waited

'Cause my love never faded

I, just needed patience

It was always you

Yeah it was always you

Oh yeah, yeah-yeah

 

Thank God I waited

Thank God that I waited

'Cause my love never faded

I, just needed patience

It was always you

Yeah it was always you

Oh yeah, yeah-yeah

 

Remember when you slept at my place

We were kissin' and touchin' (Kissin' and touchin')

I thought you mind had changed

But you woke and said it was nothin'

We're nothin'

 

I lived right down the hall

Like a flat, on the one

Knew you better than you knew yourself (Yourself)

Couldn't get you alone, so I'd sit by the phone

I, put myself through Hell

Could you even tell?

 

Thank God I waited

Thank God that I waited

'Cause my love never faded

I, just needed patience

It was always you

Yeah it was always you

Oh yeah, yeah-yeah

 

Thank God I waited

Thank God that I waited

'Cause my love never faded

I, just needed patience

It was always you

Yeah it was always you

Oh yeah, yeah-yeah

 

Thank God I waited

Thank God that I waited

'Cause my love never faded

I, just needed patience

It was always you (Always you, yeah, haha)

Yeah it was always you

Oh yeah, yeah-yeah

 

Thank God I waited

Thank God that I waited

'Cause my love never faded

I, just needed patience

It was always you (Always you, yeah, haha)

Yeah it was always you

 

Yeah it was always you

Yeah it was always you

Yeah it was always you

Yeah it was always you

Oh yeah, yeah-yeah

 

 

直訳

 

Started out as friends, only friends

友達から始まったんだ、ただの友達から

But I knew from that moment (I knew from that moment)

だけど僕はその時から知っていた

That I was falling fast, falling fast

恋に落ちていたことを

But you never noticed (You never noticed)

でもきみは全然気づかなかった

 

I lived right down the hall

僕は玄関に住み着くみたいにして

Like a flat, on the one

馬鹿みたいに待ってたんだ

Knew you better than you knew yourself (Yourself)

きみよりもきみのことよく知ってた

Couldn't get you alone, so I'd by sit the phone

きみを一人にしないためにずっと電話のそばに座って

I, put myself through Hell

地獄に自分を投げ込むみたいに

Could you even tell?

分かってくれる?

 

Thank God I waited Thank God that I waited

神様ありがとう、待っていてよかった

'Cause my love never faded

だって僕の愛は決して消えなかったんだ

I, just needed patience

ただ忍耐が必要だっただけ

It was always you Yeah it was always you

いつもきみのことだけ

 

Remember when you slept at my place

きみが僕の部屋で泊っていった時のことを覚えてる

We were kissin' and touchin' (Kissin' and touchin')

僕たちはキスして触れ合ったね

I thought you mind had changed

僕はきみの気持ちが変わったと思ったんだけど

But you woke and said it was nothin'

目覚めるときみは、なかったことにしようって言ったんだ

We're nothin'

わたしたちは何もないわ、って

 

 

*この曲はメロディを聴いて好きになったのですが、元ネタの「FRIENDS」のことをまるで知らないので、ROSSとRACHELがどんな関係なのか、どういう状況を歌ってるのかよく分からず。。ググってみても、和訳や解説をしてくださっているサイトさんを探せませんでした。なので、ドラマのファンの方には「ええ?そこはこうだよー」みたいなもどかしい訳になっているかも…。一人称さえよく分からずとりあえず「僕」と「きみ」にしてみた。

*a flatって何でしょう?名詞のflatには「平ら」「平面」という意味のほかに、いわゆる「フラット(イギリス英語で「住居」)」「階」という意味があるようですが、Like a flatだから「a flatみたいに」ってことですよね。イギリス英語の古い言い方で「間抜け」って意味もあるみたいなのでそれなのかな?あとは「貧乳」という意味もあるみたいですがさすがにそれではないだろう(笑)。

*I'd by the phoneは「電話をしている」という状況なのか、懐かしの固定電話のそばでずっと「きみがいつ電話をかけてくれてもいいように待ってた」って意味なのか…。

*Could you even tell?は疑問形だけど、evenを使っているということは、「きみは知りさえしないけど」ってことなんじゃないかと。ってことはやっぱり単に「電話のそばで待ってた」ってことなのかな。

*この2人って最後は結ばれたんでしょうか?「FRIENDS」、Wikipediaで見ても長すぎて理解できません…。

 

 

意訳

 

最初は友達だったよね、ただの友達

でも僕は出会った瞬間から恋に落ちてた

きみは全然気づかなかったけど

 

僕は馬鹿みたいにずっと玄関で待ってた

きみよりもきみのこと分かってるって知っていたから

強がってたけど、一人になりたくなかったんだろ?

だからずっと、鳴らない電話のそばで待ってた

これって地獄みたいだよね、きみは知りさえしないんだけど

 

神様、待っていてよかった

だってきみをずっと諦められなくて

ちょっと時間はかかってしまったけど、

いつもきみだけ、きみだけが僕の愛なんだ

 

きみが泊っていったときのことを覚えてる

僕たちはキスして、ベッドで抱き合ったよね

ついに気持ちが通じたって思ったんだ

でもきみは目を覚ますと、「なかったことにしましょう」って言った

「わたしたち、何でもないわ」って

 

僕は馬鹿みたいにずっと玄関で待っいた

きみよりもきみのこと分かってるって知っていたから

強がってたけど、一人になりたくなかったんだろ?

だからずっと、鳴らない電話のそばで待ってた

これって地獄みたいだよね、きみは知りさえしないんだけど

 

神様、待っていてよかった

だってきみをずっと諦められなくて

ちょっと時間はかかってしまったけど、

いつもきみだけ、きみだけが僕の愛なんだ

 

きみだけ、きみだけが僕の愛なんだ

 

 

*追記

後から聴きなおしたら、I'd sit by the phoneって言ってますよね?「電話のそばに座って」ですね。歌詞と直訳のとこ修正しました。

 

 

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現代短歌最前線-川野里子 感想4

北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。

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 川野里子④

 

夜の町に三人の影を重ねゆくわれよりわれらの寂しきことある

 

 家族の歌の中には、こんな寂しい歌もあります。この「三人」は自分と夫と子供なのかなと思いながら読みました。一人でいるよりも三人の方が寂しいこともある。まあ、そうなんですよね。一人でいたら知ることのなかった寂しさもあります。

 

君の想ひにわが思慕うまく重ならずなだれむばかりの灯を積む街は

 

 この「君」は夫のことなのかな。この人の歌をこうやって200首読んで、「夫や子供を得ることで女は否応なしに変わっていかなくてはならない」という一種諦念のようなものを感じたので、もしかしたら、男である夫の変わらなさ、そして自分はその変わらない夫について行くことでふるさとを捨て、親を捨て、かつての自分を捨ててこなければならなかった、という苦しさがあるのかな、と思いました。

 

清潔な包帯空に翻り届かぬところで膿む悲しみは

 

 末尾のエッセイではアメリカでの暮らし、異国から日本語で日本を思うこと、異国を日本語で感じることについて描かれていますが、短歌で詠まれている家族についてはほとんど語られていません。

 

心というのはなぜこうも置き場のないものなのだろう。

 

そう書かれています。なぜだかしんと寂しい気持ちになりました。これほど清潔な包帯があるのに、悲しみはそれの届かないところで膿み続けているんですね。沢口芙美

 

息あつくわれをまく腕耐へてきしかなしみをこそ抱かれたきを

 

を思い出しました。

 

 私の悲しみにあなたは届かない、だから一緒にいても寂しい、というのはすごく分かるけど、その一方で、じゃあ私はあなたの悲しみに届いているんだろうか、って考えることがあります。誰かが自分の悲しみを抱いてくれないことより、私があなたの悲しみを抱けないことの方が寂しいんじゃないだろうか。そして多分80%くらい、他人の悲しみというものには届きようがない、と諦めている面もある。

 この人は「三人」と家族を詠っているので、「わたし」と「あなた」だけじゃなくておそらく「子ども」がいるはずなんですよね。だから、もしかしたらこの「膿む悲しみ」は子供のものなのかもしれないと思いました。私が「清潔な包帯」を持って助けようとしても、子供の持つ悲しみには届かない、という寂しさなのかも。だけど、自分が子供の頃、「悲しみ」を親は救ってくれたかと考えると、多分親が救える「悲しみ」は救ってくれたかもしれないけど、親には届きようがない「悲しみ」、あるいは肉親には救いようがない「悲しみ」ってどうしてもあって、だから仕方ないって思う。みんな、どんなに愛する人であっても届きようがない「悲しみ」を抱えて生きているものなんだと思ってます。

 

 

頭蓋に回転花火の燃ゆる夜はわがたましひのしこりを思ふ (yuifall)

 

 

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現代短歌最前線-川野里子 感想3

北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。

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川野里子③

 

背のびしてセロリ見てゐる幼子の発芽のやうなひたむきに逢ふ

 

おもしろき男なりけり妻と仕事といづれと問ふに苦しみをりぬ

 

 他に記憶に残ったのは家族を歌う歌です。子供の「セロリ」の歌はすごくかわいいなと思ったのですが、佐佐木幸綱

 

サキサキとセロリ噛みいてあどけなき汝を愛する理由はいらず

 

を彷彿とさせますね。

 この歌、ずっと若い恋人のことを詠っていると思っていたのですが、川野里子の歌と並べてみると、もしかしたら子供なのかなって気が急にしました。「あどけなき」「汝を愛する理由はいらず」って、相手が子供と読んだ方がしっくりくるな。でもだからこそ、年若い恋人という読みにもなるのかもしれませんが…。うーんでもなんかじゃあいずれ「あどけなく」なくなった場合、それでも我が子であれば「愛する理由はいらない」けど、恋人or妻であった場合はどうなのだろう…とか考えてしまいました。

 セロリってどうしてあどけないイメージなのだろうか。セロリって葉っぱの部分がわんさか茂ってるから、「発芽のやうなひたむき」なのかなぁ。もしかしたらこの歌の舞台はアメリカかもしれず、日本とはスケールの違う大きさの野菜かもって妄想しました。

 

 夫の「妻と仕事と」の歌は、前回書いた「ふるさとを遠く離れて」、というのにも通じてきて、ああ、この人は夫についていく道を選んだのかな、と感じました。夫の仕事に着いていく形で、山形県、カリフォルニアとふるさとから遠く移動を繰り返したのかなって。

 しかしこの「おもしろき」のニュアンスがよく分からないのですけど、「妻か仕事かどっちが大切か悩むなんて変なの」ってことかしら?これを「おもしろき」って感じるというのは、どちらが大切かは明らかでしょ、って意味なの?私は全てを捨ててあなたの仕事に着いてきたのに、ってことなんだろうか。

 

死んだならまた父さんに逢ふといふ母は葛にて一夜に伸びぬ

 

 両親を歌った歌も多数あります。『短歌タイムカプセル』の感想を書いた時に、

 

わが裡のしづかなる津波てんでんこおかあさんごめん、手を離します

 

という歌を紹介したのですが、この人のお母さんはきっとお父さんに会えたんだ、って、この歌を見てなぜかすごく救われた気持ちになった。人ってみんないつか死ぬし、残された人の心が少しでも軽くなるといいよね。お母さんは、「手を離した」娘に対して、「お父さんに会いに行くのよ」って言ってくれたんじゃないかなと思いました。

 

 

きみだけは光の下を歩めよと石で膨れたはらわた抱ゆ (yuifall)

 

 

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