「一首鑑賞」の注意書きです。
62.問ひつめて確かめ合ひしことなくてわれらにいまだ踏まぬ雪ある
(小島ゆかり)
前回、言葉を使ったコミュニケーションの美しい歌を紹介しましたが、今度は言葉を使わないことで交わされる愛です。
これは、すごく分かる。というか私自身が、「いまだ踏まぬ雪」をたくさん抱えていて、それを問い詰めてこない人が好きだからです。どんなに大切な相手であっても、誰とも分かち合いたくないものを心の中に持っていて、それを多分知っていながら問い詰めない、確かめない、そのことに救われていると思う。だから、私だけじゃなくて誰にでも、誰にも踏み荒らされたくない新雪のようなものが心の中にあって、それはその人だけのものなんだと思っています。
鑑賞文には
恋は相手を知りたいという熱病のようなものだから、いろいろと訊きたい。傷つけることがわかっていても、「問ひつめて確かめ合」うことだってあるだろう。けれども、少しずつ愛を深めてゆくうちに、互いに触れてはならない部分を意識するようになる。それは、過去の恋愛であったり、生い立ちや親族に関することだったりするかもしれない。訊けば話してくれるかもしれないが、自分から言わないのであれば、敢えて訊くのは憚られる。
とあります。
過去の恋愛や生い立ち、「いまだ踏まぬ雪」はその人のそういう「事実」に関わる部分でもあるかもしれませんが、私はもっと精神的な領域の何かとして読みました。例えば、短歌にしても、前回の加藤治郎の歌
薄闇のあなたの底へ降りてゆくわれは言葉の梯子をかけて (加藤治郎)
みたいなことを、人は口にしたりはしないと思う。こういう気持ち、心の中の柔らかい部分があること、その全てを確かめ合ったりしないし、あなたがそれを持っていることを私は決して知らない、と思います。
でもそれはそれでいい。それは、恋人に内臓があることを普段意識しないで暮らしていいのと同じくらいそういうものだと思うから。
波でありそして粒子であることを詩のはじまりの一行として (yuifall)
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