書肆侃侃房 出版 東直子・佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。
「死ぬときは一緒よ」と小さきこゑはして鍋に入りたり蜆一族
おー、これは怖いですね。怖いです。大虐殺ですね。伊坂幸太郎の『グラスホッパー』だな。日常に潜む大虐殺。
『おべんとうバス』(真珠まりこ)という絵本があるのですが、おべんとうの具材たちが「ハンバーグくーん!」「はーい!」とか言いながらバスに乗り込んで出発!というほのぼのした感じの絵本なのですけれども、最後のページが「いただきまーす!」で、おうってなった。完全にconcentration campである。大人にしか理解できないトラウマ絵本です。
しかし、アサリと違って蜆は身を食べられなかったりもするからなお虐殺感漂いますね。なんか、米澤穂信とか、湊かなえ的というか、何か嫌なんだけど見ずにはいられない、もっと読みたいというイヤミス感がすごいです。
月ひと夜ふた夜満ちつつ厨房にむりッむりッとたまねぎ芽吹く
とかさ。
こういう不快感、って言ったら言葉よくないですけど、怖いけど見たい感を醸し出せる人って本当に才能があるなぁと思います。心の触れられたくない部分に切り込んでくるというかさ。私はそういうの苦手でぬるいハッピーエンドしか思い浮かばない質なので、ものすごく憧れます。
ところでこの人は
父のなかの小さき父が一人づつ行方不明になる深い秋
とお父さんの多分認知症について詠んでいますが、前ページの娘の小島なおが
祖父に会いに行くこと減りしわれのこと誰も咎めず春嵐くる
と詠っていて、だんだん娘や孫のことも分からなくなってきた祖父に会いに行かなくなったことを、一番後ろめたく思っているのは自分自身なのかなって感じました。そしてもしかしたらその間母の小島ゆかりは介護とか祖母のサポートとかで実家に通っていたのかも。で、娘はそれを横目で見つつもなんだかんだ自分の用事が忙しくて祖父母に会いには行かなくて…、みたいな、そういう親子のストーリーを想像しました。
やっぱり祖父母への気持ちと親への気持ちって違うし、自分もかつて通ってきた道だからそれを祖父母も親も分かってて、そのわがままさが子供の特権だとも思っていて咎めないのかなって。「父」の喪失と「祖父」の喪失が違うことは、「娘」でもあり「母」でもあるこの人には分かっているはずだから。
生命の価値は等しくあらざれば胸には常に燻りし野火 (yuifall)
幼子の指の向かうに羽搏ける鴉 死者とも媾ふと言ふ (yuifall)
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