山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
永井祐
200円でおいしいものを手に入れろ 残暑のゆれるところをすすむ
これって、遠足のおやつのことかな?って気がするんですが何だか全然楽しそうじゃないですね。この人の歌の、全然楽しそうじゃない感というかだるい感が都会っぽいです(笑)。
この人の歌は、以前も何度か書きましたが、登場当時すごい批判されたようです。「リアリティのなさ」に対する批判だったようなのですが、それにしてもこれから未来に向かってさらにいわゆる「リアリティ」が欠如した短歌だらけになってくるのだろうか。むしろすでにヴァーチャル空間がリアル化しているというか。解説には
現代社会に閉塞感を感じつつもそれを打破しようとする意志がまったくみられない作風で、作者の意図とは別に作品だけ一人歩きして勝手に歌壇の問題児扱いされているような気配です。しかし僕は永井祐こそ同世代で最大の才能を持つ歌人であることを確信しています。(中略)「死」とか「生活」といったものがまるでリアリティを失っていて、面白くもありつまらなくもある毎日が永遠に続いていくような倦怠感ばかりが広がっています。僕はこのような社会への眼差しにものすごく共感を覚えます。
と書いてあり、その「リアリティのなさ」こそが当時の若者にとってのまさにリアルだったんだっていうのがまざまざと伝わってきます。それに、現在の短歌界における永井祐の立ち位置を考えると、当時の山田航の見る目はすごいなって思いました。
1千万円あったらみんな友達にくばるその僕のぼろぼろのカーディガン
とかさ、解説にもありますけど、1千万っていうお金が全然リアルじゃないんだよな。なんか、「1千万円」っていうとおそらく多くの人が「憧れの年収一千万円」的なものをイメージするような気がするのですが(勝手な印象)、ここにある1千万円はそういう汗水垂らした感はゼロだし、かといってYoutuberとかになって汗水垂らさず月収1千万!とかそういう雰囲気でもなく、「ぼろぼろのカーディガン」です。「1千万円」っていうわざわざアラビア数字を使った記載も、なんか小馬鹿にした空気を感じるよね(笑)。しかし、20代前半で友達とつるんでる間はそれでもいいが、妻子を得たらどうなってしまうんだろうか。
なんというかこれらの歌からは人生の背景とか将来がない感じで、この人は現代っ子的な感覚で独身実家暮らしを貫くのか、DINKSでそこそこの暮らしするのか、共働きで子供をもつのか…、奥さん専業って気配は感じないですね…。もし家族がいたら、1千万円友達には配れないと思うんだよなー。多分、上の世代から批判されるのはこういうとこなんだと思う。地に足つけろよっていう。だけど、この背景も希望も未来もない感じがまた当時のリアルだし、そこに分かり合えなさがあったのかなって気がしました。一生懸命がんばれば1千万行ける!結婚して子供持て!って思ってる世代と、いやマジで何言ってんの、現実分かってる(笑)?って思ってる世代と。
解説には
必死に出世してたくさんのお金を稼ぐという価値観の崩壊した現代で、下流層に固定された若者がどのように社会を見ているか。
とあり、やっぱりこの人の現実はどうあれ、この歌の世界観の中に結婚はないなと思ったりもします。今は当時よりさらに閉塞感が増しており、良くも悪くも「あ、ですよね。無理ですよね」ってのが世代を超えて伝わってきた感もあります。。「結婚!子供!」はセクハラとして認知されつつあるし。
パーマでもかけないとやってらんないよみたいのもありますよ 1円
この歌を取り上げていて、
全角アラビア数字の「1円」まで含め、やけっぱちのような、それでいて楽しくふざけているような感じがおかしくて、それからはこの歌を見るたびに吹き出しそうになる。「みたいのもありますよ」だから本当にパーマをかけているのかどうかもわからない。そして何の前触れもなく結句に置かれる「1円」が言いようもなくおかしい。上記の歌会のあとしばらく、その(早稲田短歌会の)先輩が何の脈絡もなく発言のあとに「1円」と付け足すというのをやっていたような記憶がある。
と書いていて、なんか大学生のノリ楽しいな!って、この文章読むたびにときめきます。もう4回以上アクセスしてる(笑)。
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