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現代短歌最前線-梅内美華子 感想4

北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

梅内美華子④

 

みつばちが君の肉体を飛ぶような半音階を上がるくちづけ

 

シャボン玉壊れる音を待ちながら二度目のくちづけ思い返しぬ

 

 くちづけの歌2首です。キスの最中に音を聴くひとなんですね。何かが身体の中を飛んでいて、上がってきて弾ける音がするのか。こういう、誰かの身体感覚に触れるとき面白いなって思います。やっぱり思想、というか、言葉って、身体を通して生まれるものだと思うので。別にセックスとかって意味じゃなくて、あらゆる感覚は身体あってのものだよなって。

 

真逆さまに落ちゆくものをいまだ見ず恋の時間はたわいなく淡し

 

 これはAlanis Morissetteの”Head Over Feet”思い出した。

 

あなたは私を虜にしたの

真っ逆さまに恋に落ちても怖がらないで

あなたの全てを愛してしまっても驚いたりしないで

Head Over Feet (Alanis Morissette)和訳 - いろいろ感想を書いてみるブログ

 

って。そういう真っ逆さま感がまだないから「たわいなく淡い」恋なんだよね。

 でもそういう穏やかな恋もいいんじゃないかなぁ。「こひぞつもりてふちとなりぬる」じゃないけど、たわいなく淡いと思っていた時間が重なればいつの間にか大切なものになっていたりするのかもしれません。真っ逆さまに落ちなくても。

 

 というか、”Head Over Feet”の歌詞を見てて思ったんですけど、これって一目で真っ逆さまに恋に落ちた、っていう内容じゃなく、多分比較的長く一緒にいる相手に向かって、あなたはいつの間にか私を夢中にさせていたわ、っていう内容かなーと。だからもしかしたらこの人も、相手の男性と「たわいなく淡い」時間を積み重ねている間に、いつか全てを愛してしまっていることに気が付くのかもしれないと思いました。

 

 『冷静と情熱のあいだ』(江國香織)とか『月のこおり』(狗飼恭子)とか読んでた頃、若かったけど、どうして主人公が一緒にいて安らげる優しい男を捨てていくのかよく分からなかった。実は多分今もよく分かってません。何もかも捨てていいっていうほどの燃え上がる恋への憧れって当時も今もあまりなくて、一緒にいて楽な相手がいいなって思います。でも、恋愛小説はだからこそいいのかもなあ。大多数の人は私と同じようにきっと一緒にいて心安らぐ相手を手放せないから、それを切り捨てて熱情の恋に生きる姿をせめてフィクションの中では見たいと思うのかもしれません。

 

 

ナトリウム味のくちづけ きみだけがいける融点まで届かせて (yuifall)

 

 

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