いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

短歌タイムカプセル-小池光 感想

書肆侃侃房 出版 東直子佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

小池光

 

廃駅をくさあぢさゐの花占めてただ歳月はまぶしかりけり

 

 草紫陽花を画像検索してみたら、小さくて可憐な花ですね。もう使うことのない駅に花が咲き乱れる様子は切なくも美しいです。「歳月はまぶしかりけり」っていう表現が好きです。廃駅になってしまってから経った時間がこうして草紫陽花を咲かせたんだなと。

 

ひとたばの芍薬が網だなにあり 下なる人をふかくねむらす

 

 これも花の名前の入った歌で、芍薬の花綺麗ですよね。芍薬の花束を持ってどこへ行くんだろう。電車で、持ち主は深く眠ってしまっている。この人は宮城県在住のようなので、地方のローカル線のゆったりとした時間を連想しました。

 なんかこの人の歌を読んでいると今年の春のことを思い出して切なくなるな。特定の曲を聴くとその曲を何度も聴いていた頃のことやその時の気持ちを思い出すことってよくあると思うのですが、それと同じような感じです。この本(『短歌タイムカプセル』)自体、春頃にずっと読んでいたのですけど、この人の短歌が一番その時の気持ちを思い出させます。心にすうっと染みてくる感じで。

 

 そしてどうも私は女性が先に逝くというシチュエーションに弱いのか、

 

夏雲のよるべなき下に抗癌剤点滴三時間の妻を待つなり

 

っていう、むき出しの歌を読んでいてすごく苦しい気持ちになりました。この人、多分歌人としてすごくベテランだと思うし、おそらく私などには分からない高度なテクニックを駆使して歌を詠んでいるのだと思うのですが、奥さんと猫を詠う歌は言葉がまっすぐで、愛に対してはテクニックを捨ててぶつかる人なのかな、って感じて胸が痛くなった。「妻運のうすきを嘆き」とあるので、多分奥さんは亡くなってしまったんだろう。

 

 

三本目の軌条となりて仰ぎ見る駅の墓には真四角の空 (yuifall)

七月は雨にあげてもいいよ、ベガ、杜の都に八月会おう (yuifall)

 

 

「一首鑑賞」-76 - いろいろ感想を書いてみるブログ

「一首鑑賞」-93 - いろいろ感想を書いてみるブログ