「一首鑑賞」の注意書きです。
342.傘といふすこし隙ある不思議形にんげんはあと何年つかふ
(米川千嘉子)
砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで棚木恒寿が紹介していました。
建築家ルイス・サリヴァンの言葉に「Form follows function」というものがあります。一般的には「形態は機能に従う」と訳され、機能的な側面を満足させれば形態的な美、完成度はついてくるのだという考え方であるようです。その点、傘はどうだろうか。「不思議形」なのは、機能を満足させた結果そうなったのか?
ここでは「すこし隙ある」と言っています。これは形態のことですが、機能的にも隙はありまくりますよね。基本的に、垂直に降ってくる弱い雨しか防げないと言っていいでしょう。でもなんとなく許されてるのは、頭や顔に雨がかからず前が見えればどうにかなるという観点のような気がする。フードやレインコートだと顔に雨がかかるんだよなぁ…。あと、濡れたそれをどうするかという問題。傘なら傘立てに置けばいいけど、レインコートは脱いで畳んでる間に結局自分が濡れます。そうなると、機能的に完璧ではなくても結局は傘かな…ってなる。もちろん自転車に乗っている時や両手が開いていてほしいとき(トレッキングなど)はレインコートですが…。
この「にんげんはあと何年つかふ」も面白いです。何か進化系傘が登場する期待も感じるけど、それよりもむしろいつかにんげんは傘など必要なくなる(絶滅とか、全然出歩かなくなって全てオンライン+ドローン宅配になるとか)という厭世観のようなものを感じます。
この歌を読んで思い出したのは、永田和宏の
形態が機能を統べると君は思うかたとえば風に転がるパラソルのような
という歌です。これは瀬戸夏子の『白手紙機構』で引用されていて知りました。永田和宏はこのように書いているそうです。
現在の私は、著しく岡井隆の影響を受けているだろう。だがそれは自分では十分意識的なものなのであって、人にそれを指摘されても別に痛くも痒くもない。言わせてもらえば、岡井隆をどのように相対化してしまうかというそれは挑戦なのであり、岡井さん少しは青ざめてくれたかしらん、などとほくそ笑んだりするひそかな楽しみでもあるのだ。「形態が機能を統べると君は思うかたとえば風に転がるパラソルのような」などという歌を、そのように捉えてくれる人はなかなか少ないのであるが。
私には「岡井隆を相対化する」という意図はうまく汲み取れないのですが、この「形態が機能を統べる」という五七は形態学の世界にいる人間の言葉だと思ったし、なので細胞生物学者(特に蛋白質の構造と機能)である永田和宏がこのように言うのも分かるし、医師である岡井隆の言葉としても違和感はないというか。そこに具体例として出てくるのが「パラソル」なのが面白いなとこの「傘」の歌読んで思います。みんな、傘の形に疑問を持ってるってことかな。これ完成形なのか???と。そしておそらくそれは「人間」に重なる問いなんだと思います。これ完成形なのか???と。瀬戸夏子の
ではなく雪は燃えるもの・ハッピー・バースデイ・あなたも傘も似たようなもの
を思い出しました。そうか、「あなた(人間)」も「傘」も、形態的にも機能的にも不完全であるという意味で「似たようなもの」と言いたいのかもしれない。これら一連の歌を読んでそんな読み方にも気づきました。
形態に機能・起源を見るべきで今でも二層式洗濯機 (yuifall)
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