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現代短歌最前線-米川千嘉子 感想3

北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

米川千嘉子

 

母なるゆゑいのちの重さ知るべきか母なるものは人も殺めむ

 

 「母親」の歌シリーズです。『短歌タイムカプセル』の時に

 

<女は大地>かかる矜持のつまらなさ昼さくら湯はさやさやと澄み

 

を紹介しましたが、子供を育てながらも「母性」というもの、あるいは「母性神話」というものに対する疑問を抱いているような歌が散見されます。子供を深く愛していることを窺わせながらも、もっと遠くを見ているというか…。命の繋がりは確かに尊いけれども、長く連なる流れの一滴にすぎないという意識もあるんじゃないかな。

 いのちの重さを知るのも、人を殺すのも「母」に限ったことではないですが、いのちを産んだことがあるのは「母」だけ、という意味で非常に特異な存在ではあります。

 

子は蝉を重しといへり樹に啼けど土にしたがふ生の暗さを

 

 「重し」という言葉から、子供が蝉を手に持っている想像をしました。で、とっさに死んだ蝉だと思ったのですが、「啼けど」「生の暗さ」だからまだ生きている蝉なのかな。「土にしたがふ生」です。

 蝉は7年間(ないしは17年間くらい)土の下にいて7日間啼きわめいて死ぬ、というのがどこか暗く儚く感じさせる存在ですが、その7日の命を燃やし尽くすという意味でどこか明るさをも感じさせます。大騒ぎして生殖して、この世の春の絶頂で死ぬわけですから…(夏ですが)。それ言ったら現代の人間なんて30年くらい土の中にいて5年くらい生殖して残り35年くらいはまた土の中っていう感じと言えなくもなく(笑)、どちらかといえば「樹に啼けど土にしたがふ生の暗さ」は人間の人生の暗喩なのかもしれません。

 蝉といえば、堀口大學の詩に『蝉』というものがあります。

 

ラ・フォンテーヌのは寓話

さてこれはわたくしの愚話

 

蝉がゐた

夏ぢゆう歌ひくらした

秋が来た

困つた、困つた!

  (教訓)

それでよかつた

 

これ読んですごく面白かったし、なんか色々考えました。まあ、蝉はそれでいいよ、秋が来たら死ぬんだし(笑)。しかし人間の場合、夏じゅう遊んで暮らして秋が来たら困ったなあー、で済むのだろうか…。自分はそんな生き方できないって思う一方、そういう生き方できる人にもいてほしい、そういう人の遊びとか困窮を支えるのが社会なんじゃ、という思いもあります。

 

ママも老いて死ぬよといへばつくづくと子供は泣けり銀の雨の夜

 

 この歌の突き放し方が好きです。「ママも老いて死ぬよ」って事実なんだけど子供には重いよなー(笑)。子供の頃よく母親が死ぬ夢見たな。多分それが自分に想像しうる一番の悪夢だったんだろうな、当時は。

 「いつまでも一緒よ」なんて嘘を言わないのが子供に対する優しさ、誠実さなのかと感じました。しかし、現実的には老いはするがなかなか死なないということもあり得ますね…。先に子供が死ぬ方が嫌だよなー。

 

 

もろき骨抱えて母よぼくたちのために生きたと言わないでくれ (yuifall)

母といふ夢うつくしくわれを責む岡本かの子も母でありしや (yuifall)

 

 

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