いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

現代短歌最前線-米川千嘉子 感想4

北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

米川千嘉子

 

土掘るはひかりを掘るにあらざれば母の手汚れて種子を播きゐつ

 

 今度は両親の歌です。この人の歌ってリアルな現実を直視してきますね。母だって人を殺すし、ママも老いて死ぬし、土を掘るのはひかりを掘るのとは違いますね、確かにね。土を掘れば手は汚れますね。「母」が手を汚しながら「種子を播く」という、生の営みの暗喩のような内容です。

 

たましひに着る服なくて醒めぎはに父は怯えぬ梅雨寒のいへ

 

 今度は「父」なんですが、父は母に比べて幻想寄りですね。「たましひに着る服なくて」ですからね。「母」は肉体を持った生々しい存在としても、また何らかの理想を投影した幻想としても描かれがちですが、「父」はわりと精神的な存在で、リアルな肉体としての「父」ってあまり見ないような気がします。こういう意識って時代とともに変わっていくんでしょうか。それとも、「産む性」「産まざる性」と固定している以上変わらないんでしょうか。分からん。

 全然関係ないのですが、ある日、朝起きたら急に「たましいに着る服なくて」というフレーズが頭に浮かび、絶対に自分の考えではない、どこかで見た短歌のはずだ、と思ってずっと悩んでいたので、自分で書いたこの記事読んで、ここにいた!!って気持ちになりました(笑)。お父さんの歌でしたね。美しい言葉ってワンフレーズが頭に残ることがありますよね。

 

刻々に死にゆくいのち見るべしと病棟に女ばかり置かるる

 

 これは前後の歌を見るに「父の死」のようです。確かに、病棟っていうか病人の世話するのって女ばっかだよなー。病人に家族がいても、妻や娘がいなくて夫や息子しかいなかったりすると大丈夫かなってなっちゃうし。

 前、総合病院の待合に座ってた時、近くで乳癌の患者さんたち(40代~70代くらいの女性たち)が井戸端会議してて、「うちは旦那が男兄弟ばっかりだから姑を見送るまでは死ねないわよー」とか言ってんのがふと耳に入り、この人癌なのにそんな心配までしなきゃないのか…としみじみした。この人の旦那さんとお姑さんは幸せ者だな…大事にしてあげてね…そしてお大事に…と思いました(笑)。

 まあ、こういうのはそれこそ時代と共に変わっていくのかもね。そういえばまた病院話でしかもまた小耳に挟んだ話で恐縮ですが、若いパパが自分の母親(赤ちゃんのおばあちゃん)と一緒に赤ちゃんを病院に連れてきてて、その母親が「もうー、私の時代は考えられないわー、パパが病院連れて来るなんて!」って第三者に話してたな…。あれってどういうニュアンスだったんだろうか…。うちの息子ってイクメン!なのか、嫁が働いてるなんて…こういうのは女の仕事でしょ!なのか…。

 でも、これからの時代は一人っ子とか多くなるだろうし、女性も仕事してるし、「病棟に女ばかり」では立ちいかなくなるのではないかとは思います。

 

 

老いる日のために娘が必要と言ふ 水銀を匙で混ぜつつ (yuifall)

 

 

現代短歌最前線-米川千嘉子 感想1 - いろいろ感想を書いてみるブログ

現代短歌最前線-米川千嘉子 感想2 - いろいろ感想を書いてみるブログ

現代短歌最前線-米川千嘉子 感想3 - いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌タイムカプセル-米川千嘉子 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ