北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。
それはできないやり直すなど 桜木が発作のごとく紅葉を落とす
『現代短歌最前線』で知ってからずっと好きな歌人の一人です。ニューウェーブ全盛期から活躍されているのに、崩れなく端正な歌を詠んでいて、しかも(私が読み切れない分野なのであまり引用はしませんが)巧みなレトリックを使った社会詠がなんというか巧いな、って感じます。すうーっと読んでしまうんだけど、実はそんな簡単な内容じゃないっていうのがなんか匠っぽいですよね(笑)。
ちなみに「塔」という結社のインタビューを読んだのですが、
吉川宏志インタビュー 「見えないものを見つめるために」 | 塔短歌会
それがめちゃくちゃ面白くて、引用しまくりたいけど自粛します(笑)。
1969年生まれだから、この本に載ってるのは主に20代の歌かと思われます。「二十五歳の父であること」っていう歌もあります。この歌もなんか若い男性の力強さというか勢いを感じる気がします。「それはできないやり直すなど」と一息に言っておいて、「発作のごとく」という比喩を後で持ってくることでドラマチックな光景が目に浮かんできました。赤く色づいた葉っぱが激しく舞い散る中、多分女性と向き合っていて、「やり直せない」って静かにでもきっぱり言い切る感じ。
全体的に大人っぽいですよね…。『短歌タイムカプセル』で紹介した
風を浴びきりきり舞いの曼珠沙華 抱きたさはときに逢いたさを越ゆ
とか
花水木の道があれより長くても短くても愛を告げられなかった
が20代の時の歌か…って考えるとすごいときめくな…。これを捧げられた奥さん(前田康子)が同じアンソロジーに載ってるのも萌えます…。歌人同士の夫婦が相聞歌詠みあってるの、すごい萌えるんだよな…。若くして作歌を始めると、若い情熱迸った歌が残ってていいですね。
なぜ思いつめたのだろうカセットの余りに入れた曲も古び
この「それはできないやり直すなど」とか「なぜ思いつめたのだろう」とか、男性っぽい感じがときめくー。千種創一の歌に感じるときめきと種類が似てます。そして「カセットの余り」の時代感よ…。一穂ミチの『off you go』思い出したわ(BLです)…。
白桃を電話のあとに食べておりゆうぐれ少し泣いた ほんとだ
これとかもさー。男性に「少し泣いた ほんとだ」とか言われちゃったらこっちはひれ伏すしかないわ。この「電話」ってコード付きなんだろうな…。
歌集ではなくアンソロジーではありますが、前後の歌を読むと、結婚して第一子が産まれてから、第二子が産まれるまでの間に詠まれた歌のようです。てことは20代後半くらいの、小さい子供がいる父親が詠ってる歌なんだよね。一体どういう状況で少し泣いたんだろうか。そしてこの場合の「白桃」は一体何のことなんだろうか。
前田康子の
白桃に深き傷ありその面を隠して父の食卓に置く
と何か関係あるのかな、ないのかな。
酔ったふりするには齢をとりすぎてやり直すには若すぎるんだ (yuifall)
ヒュプノスの兄を想いつ午後の陽にきみのうなじの産毛をなぞる (yuifall)
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