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現代短歌最前線-水原紫苑 感想4

北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。 yuifall.hatenablog.com

水原紫苑

 

針と針すれちがふとき幽かなるためらひありて時計のたましひ

 

 これはなんか分かる!針と針がすれ違う時の針の動きのあの一瞬ブレる感じというか、ちょっとどきっとしながらすれ違ってくような様子がイメージされます。「幽かなるためらひ」、「時計のたましひ」って言葉が好きです。

 

死者たちに窓は要らぬを夜の風と交はる卓の薔薇へ知らせよ

 

 これはまた分からない系ですね。「死者たちに窓は要らぬ」は分からんでもないが、「卓の薔薇へ知らせよ」は分からん…。「夜の風」「卓の薔薇」はなんのメタファーなんだろうなー。夜に窓が開け放たれていて、卓の薔薇にも風が届いているんだけど、「死者には窓はいらないんだ」という。窓やこの夜の風、薔薇は生きている人のため、という意味なんだろうか。なんか、ゴシック式教会の「バラ窓(ステンドグラス)」を連想しました。こうやって飾るのは生きている人の心を慰めるため、みたいな感じ。

 だがその解釈では全然読み切れていない感じは否めず、自分でも全く納得してはいません(笑)。

 

うつくしき沈黙(しじま)流れしひとときはけものの世にもありき濃かりき

 

 これも好き!最後の「濃かりき」がいいですね。でも「うつくしき沈黙」は「けものの世にもありき」と言ってますが、むしろけものの世の方がうつくしき沈黙は多そうです。

 

 そういえば、

 

閑さや岩にしみ入る蝉の声 

 

という松尾芭蕉の有名な俳句について、蝉の声は一匹か複数か?を議論した本をこの間読みました(北村薫の『詩歌の待ち伏せ』)。

 北村薫は、「閑さ」なんだから一匹だと思った、と書いていたのですが、私は昔からずっと、複数(というかたくさん)の蝉が鳴いている状況だと思っていたので、その解釈にすごく驚きました。夏の山寺に行ったこともあり、蝉が一匹で鳴いている状況が全く想像つかなかったということもあるのですが…。確かに、「閑さ」と「蝉の声」ってちょっと相反する状況ではあります。でも、たくさんの蝉が鳴きわめいている(ような状況)にも関わらず、ふと「閑かだ」と思う瞬間、「岩にしみ入る(無数の)蝉の声」を聞きながら、ふっと無音になるようなその一瞬の「ああ、閑かだな」って気持ちなんじゃないかとずっと思ってました。まあ、それが正しいかどうかはともかくとして…。

 一方で

 

奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿のこゑ聞く時ぞ秋は悲しき (猿丸太夫

 

の「鹿の声」は一頭だと思うなー。一頭だからこそ「悲しい」んだと。

 

 話が逸れたのですが、もしかしたら「けものの世」の「うつくしき沈黙」は必ずしも無音ではないのかもしれない、と思って色々考えてみました。

 

 

裸でも生きらるるものを 赤銅のNurembergに抱かれたがる (yuifall)

 

 

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