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「一首鑑賞」-297

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

297.同性を愛するけもの在りと聴き冬のくちびる水に寄せたり

 (水原紫苑

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで中津昌子が紹介していました。

sunagoya.com

 スカイツリーだったかなぁ。どこかの水族館に行った時に、ペンギンの人物?相関図を書いたクリアファイル買ったんですよね。ペンギンが色んな子と付き合ったり別れたりしてて、超モテてる子もいれば見境なくちょっかいかけて振られてる子もいたりして。女同士の恋はなかったような気がするけど、男同士だと時々関係持ってる子たちもいたり。

 この歌読んでて引っかかったのは「同性を愛するけもの」というところで、「けもの」と「愛する」という言葉がうまく結びつかなかったからです。一体そこにあるのは「愛」なんだろうか。ペンギンの相関図見てると「愛」なのかもしれないと思ったりもします。でも一方で、ただの性欲や何らかの社会的行為にすぎないのではないかと思う気持ちもあります。

 

 先日、『Marine Mammal Science』にザトウクジラの交尾を捉えた史上初の映像が公開されたそうなんですが、それはオス同士の行為だったそうなんですね。でその理由について科学者たちは、「メスと間違えた」「メスと出会った時の練習」「相手のオスが弱っていたので襲った、あるいは仲間として認めようとした」などの説を唱えているそうです。他にも、ライオンやゴリラなど多数の生き物で同性間の性行為は確認されていて、その意義はまだよく分かっていないそうです。一方で異性間の性行為は基本的には生殖行為として認識されていると思います。動物の間の行為は異性間でも同性間でも別に「愛」ではないんじゃないかと。

 ひるがえって人間はというと、確か海野弘の『ホモセクシャルの世界史』で知ったんだと思いますが、1981年にシェアー・ハイトが発表した『ハイト・リポート』によれば、43%の男性が少年時代に他の男性と性的関係を持った経験があると答えているそうです。これは43%の男性が潜在的に同性愛者と言っているわけではなく、単に「性的な行為を同性間で行った」と言っているにすぎません。実際、1948年のキンゼイ・リポートでは完全な男性同性愛者は4-8%と報告されているみたいです。つまり、ここで報告されているのは愛やアイデンティティとは切り離された性行為です。これは当然男女間でも起こることですが、一体「愛」ってなんだろう、と思いますよね。結局、ただの性欲や何らかの社会的行為を我々は愛と呼んでいるのか。

 

 鑑賞文にはこうあります。

 

同性を愛するということは、少なからぬ場合に、精神の匂いを深く感じさせるところがある。

そこに、理解の届かない精神のありようが潜んでいるようで、遠いあこがれをもつ。

 

 ここで想像されているのはおそらくはもっとプラトニックなラブなのかなぁ。女子高でかっこいい先輩に恋しちゃうみたいな。そうなるとやっぱり「けもの」という言葉からはずれてくるように感じます。

 多分ですが、同性との愛は、生殖と切り離されている部分に精神の匂いを感じ取るんだろうと思う。サナトリウムの恋みたいな。だからここで詠われているのは「けもの」にも生殖と無関係の「愛」があったんだ、ということへの感動みたいなものかもしれない。実際は精神性とはあまり関係のない営みなのだと思うんですが。

 

 

何もかも自然が正しいわけじゃないひとさし指がすくうワセリン (yuifall)

 

 

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