山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
小林久美子
つなぐ手をちょっとはずしてはめてみるさそり・がいこつ・こぶらのゆびわ
たいようにちかいくらしはおわろうとしていることがとてもわかるよ
ブラジル、サンパウロで暮らしていた時の歌だそうです。もともと
この街と話をしたいこの街と寝てこの街に溶けていきたい
という歌を知っていて、バブルの東京か?と思っていたのですが、異国と知ると感じ方がだいぶ変わります。冒頭の二首も、夫と2人で市場とかを歩いていて、変わった形の指輪をはめてみたり、太陽が落ちていくとああ、一日が終わるんだな、って分かったりする感じなのかな。
南米って行ったことがないので雰囲気が分かりませんが、サンパウロでググったらめっちゃ都会だなー。日系人が多くて日本人街もあるみたいです。解説には
「たいようにちかいくらし」を素直に享受し、ラテン系の人々の明るさや優しさに触れながら、それでも小林の問題意識は基本的に日系移民という歴史感覚の中にある。岡井隆の解説にもあるように、河野裕子や米川千嘉子らのアメリカ在住経験の歌とは決定的に異なる部分である。日本とブラジルの文化を比較しぶつけ合うことをひたすらに拒否し続け、両者を自らの身の内に混ぜ合わせて消化しようとしているのだろう。
とあります。
水鳥とピラルクしずかに惹かれあい満月のよる結婚をする
この歌なんて読んでると、なんとなくですけど「水鳥」は日本っぽくて「ピラルク」はブラジルっぽいイメージなので、結婚で混じり合うってことなのかなぁって思いました。歌集のタイトルも「ピラルク」だそうです。魚の歌が好きです。
ボサノーバがながれる店にひとりきり魚の化石を神妙にみる
もう雨は少なくなっていくでしょう冬の夢にはピラルク眠る
また、この人は記者として働いていたのだそうです。
暴動がおこりそうなの革ぐつをぬがずにねむる 村の色彩
地下鉄の小窓を軍靴またとおる ほんとうはかれ絵描きだそうだ
を読んで切なくなりました。絵描きが軍靴を履いて歩くのですね。そういう現実を記者として見ていたのかもしれません。
恋の歌も紹介されています。
胸のうち告げてきた こい紫のぶどうのしずく眼におちてくる
あねのように夫をしかってあげました東洋市のきんぎょのまえで
『短歌タイムカプセル』で知った歌人ですが、そこに載っていたなかった歌も色々読むことができてよかったです。背景を知ってより好きになりました。
ピラルクの水槽前でくちづけのむごさをきみは語っていたが (yuifall)