「一首鑑賞」の注意書きです。
271.ゆうぐれの電車静かにポイントを渡る今からおまえが好きだ
(中澤系)
砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで江戸雪が紹介していました。
これはたまりませんね。くらくらするほどかっこいいですね。電車に乗っているバージョンと、電車を見ているバージョンの両方で想像しました。多分乗ってるバージョンが正しいのかなと思うのですが(ポイントを渡る、という表現から)、見ているバージョンの想像もお気に入りです。踏切とかじゃなくて陸橋とかフェンス越しとかに電車を見ていて、空はゆうぐれで、「今からおまえが好きだ」と。
心の中だけで思ったのかな。それとも言ったんだろうか。江戸雪はこう書いています。
なにかきっかけがないと「好きだ」といえない。
とても近くに居すぎて、長いあいだ友だちでいたから、今さら「好きだ」と自分でも認められないってこともある。
(中略)
「今からおまえが好きだ」。
その告白は、おもいのほかかんたんに力づよく言えた。
「言った」バージョンですね。
花水木の道があれより長くても短くても愛を告げられなかった (吉川宏志)
を彷彿させます。
個人的には、言ってないバージョンで妄想します。ただ思っただけ。「あ、この人が好きだ」って。
先日『美徳と悪徳を知る紳士のためのガイドブック』(マッケンジー・リー著、桐谷知未訳、二見文庫 *注:LGBTQ小説です)を読んでて、こんな一節に心惹かれました。
パーシーとぼくの壮大なる悲劇の恋物語は、壮大でもなければ、実際には恋物語でもなく、片想いという点で悲劇的なだけだ。また、意外かもしれないが、少年時代からの悩みが綴られた記念碑的な叙事詩というわけでもない。むしろそれは単に、ふたりの人間が互いにとって一生ものの大切な存在になり、ある朝一方が目覚めてみたら、まったくそんなつもりもなかったのに、その大切さが相手の口に舌を差し入れたいという突然の激しい欲望にまで拡大していた、という物語だ。
長い時間をかけてゆっくり落ちていったあとの、突然の衝撃。
英語圏の翻訳小説によく見られる非常に回りくどい表現で好きです。こういうの読むと原文が読みたくなるのですが(一体どういう文章なの??)、「今からおまえが好きだ」っていうのは、言葉に出して言う状況に限らないんじゃないかなぁと思いました。こういう、幼馴染だったのが突然恋と気付くバージョンもありですし、全然知らん相手に対して「あ、好きだな」って思う瞬間でもいいし。いつの間にかじゃなくて「今から」ってとこがほんと好きだな。
あとこの部分読んでいて、なんか宇都宮敦の
だいじょうぶ 急ぐ旅ではないのだし 急いでないし 旅でもないし
を思い出しました。壮大でも恋物語でもなく記念碑的な叙事詩でもないと。
中澤系の「ゆうぐれの電車静かにポイントを渡る」にはあまり「衝撃」は感じなくて、そういう淡々としたところも好きです。多分、中澤系+電車で思い浮かべる歌、
3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって
は激しいのに、こんな側面もあったんだ…ってとこがよりきゅんとしちゃうのかな。
選べたら愛さなかった 鳥の眼であんたが俺を真っ直ぐに見る (yuifall)
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