いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

「一首鑑賞」-143

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

143.The world is mine とひくく呟けばはるけき空は迫りぬ吾に

 (黒瀬珂瀾

 

 相聞歌の気分だったのについこの歌に心惹かれてしまいました。最初に出会ったのは『短歌タイムカプセル』で、次に『桜前線開架宣言』ですが、いずれにおいても

 

厳かに雨が都庁を隠すとき「私は遍在する」といふ声

 

みたいな歌と一緒に出会ったためか、「The world is mine」も何かのアニメとかゲームの台詞なのかなあ、と思ってあまり深く気に留めていませんでした。ググってみると、『ザ・ワールド・イズ・マイン』という漫画があるそうです(新井英樹、1997~2001)。

 

 今回、永井祐が砂子屋書房「一首鑑賞」で取り上げていたのできちんと読んでみようと思ったのですが、実はここでは最初の「The」の読みに99%を費やしていて、他のことはあまり触れられていません(笑)。

sunagoya.com

 永井祐の文章、面白いなーと思いました。「The world is mine」の「The」だけでコラム書けちゃうんですから…。

 

頭の中ではじめのところを「ワールドイズマイン」と覚えていたのですが、

読もうと思って歌を見てみると「The」がある。

この歌のはじまりって、「ザワールドイズマイン」なのか。

それで、「ザ・」を入れて音をとってみると、とてもかっこよく感じました。

 

とあります。

 いや、逆に、「ワールド」の前に「ザ」がなかったら収まり悪くないですかね??world にはtheじゃない??

 むしろこれ読んでて思い出したのが、ある地方ローカルラジオ番組をたまたま聞いていた時、番組名かコーナー名かは知りませんが、「アラウンド・ザ・ワールド」みたいな感じで「〇〇・ザ・地名」ってなってて、いや、その地名の前に「ザ」いらなくない?固有名詞じゃん?って思った記憶が…。

 

余談ですが、音読するときに「ザ・」か「ジ・」か迷いました。世界観を考えれば、「ジ・」もいいのかもしれない。でもすこし恥ずかしい気がして「ザ・」にすることにしました。

 

ともあって、「ジ・」は次に来る言葉が母音で始まる場合だから、「ワールド」の前は「ザ・」でいいんじゃ?とも思いましたが…。

 この間Twitter見てたら永井祐のツイートに英検準一級合格!ってあったので絶対英語できる人なはずなんですけどどういうことなのか(笑)?なんか、全体的にめちゃ面白かった。面白いというか、かわいいというか?

 

邦題になるとき消えたTHEのような何かがぼくの日々に足りない (木下龍也)

 

 鑑賞文の中で、この歌が引用されています。この歌も好きです。なんか分かる気がする。だから、英語に戻す時(もしくは和文を英訳する時)に冠詞がつくのか付かないのか、つくとしたらどの冠詞なのか、分からなくなっちゃうんですよね。「THE」は「その」だから、「まさにその」みたいな「替えのきかない」ニュアンスを指す冠詞であるはずなのに、邦訳すると失われるのが不思議ですね。私も直訳の時は意識して「その〇〇」って書くけど、意訳の時は、日本語として不自然になる場合は飛ばしてしまいます。

 

 この「The world is mine」の場合はどうだろうな。まあワールドにはもともと「ザ」がつくので「The」に深い意味はないのかもしれませんが、でもやっぱり「この、たった一つの、唯一の世界は僕のものだ」というニュアンスに思える。しかしながら実は「the earth」とか「the planet」に比べて「the world」って定義があいまいな言葉だし、「ひくく呟く」という言葉からは「僕だけのワールド」感もあります。つまり、「この世をば我が世とぞ思ふ」ってことではなく、「僕の世界は僕のものだ」という宣言にも感じられます。

 今、この瞬間だけ、世界は僕のもの。「ひくく呟く」「空は迫りぬ」からは、あまりポジティブな感じは受けません。超ハッピーな瞬間に、高い空に向かって「今俺が世界の覇者だー!」ってことではない気がする。むしろもっと鬱屈した時に、「それでも僕の世界は僕のものだ」って思っているような。

 

 まあ、純粋に漫画のオマージュなのかもしれないですけどね。

 

 

2秒だけ世界は私のものになる氷の王子様を裏切って (yuifall)

 

 

短歌タイムカプセル-黒瀬珂瀾 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

桜前線開架宣言-黒瀬珂瀾 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

桜前線開架宣言-黒瀬珂瀾 感想2 - いろいろ感想を書いてみるブログ

現代歌人ファイル その40-黒瀬珂瀾 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ