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03x23 - Deus Ex Machina 感想

 POI感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

 「機械仕掛けの神」は演劇用語で「強引に全ての結末をつけてしまう存在」です。「夢オチ」もその一種ですね。POIでも時々「マシンorサマリタンのシミュレーションでした」回がありますが…。まあ、ここでは単純に「万能のAIという神」みたいな言葉通りの意味合いだろうな。

 

 今回はヴィジランスのいんちき裁判(ここでもKangaroo court使われてておおっってなった)がメインと言えばメインなのか?陪審員(誰?)とマスコミを入れて、「ノーザンライツ」関係者を集め、一人一人に証言させて「政府が国民を監視している」と衛星放送で公開しようとします。

 しかしここにグリアとフィンチがいる理由がいまいち分からんし、証言の途中で射殺するし、コントロールには完全に迫力負けしてるし、何がしたいのか全然分からんわ…。

 

 それにしてもコントロールはずっといけ好かない悪役だったのですが、「国を救いたい」という点で一切ブレないしコリアー君と格が違いすぎるので徐々に好感を抱いてきてしまいそんな自分に困惑する(笑)。ハーシュを従え、ショウですら殺せなかった女傑には確かに一種のカリスマ性があります。「そのような質問には答えられないし、あなたが私の頭に鉛玉をぶち込むまで何も答えない」とはっきり言って譲りません。マシンの秘密についても一切を語りません。

 そんな彼女が処刑されそうになり、ついにフィンチが立ち上がります。全世界に公開されているテレビモニターの前で、ついに「私が作った」とアメリカ全土を監視するシステムがあることを明かします。

 フィンチはもうマシンのために人が死ぬところを見たくない。もし自分がマシンと心中すれば、国民を監視するシステムは止められることになるだろう。つまりはサマリタンの起動も阻止できる。テロの脅威を感知するのは遅れるだろうが、それが最善だと考えたのだろう。

 裁判ではフィンチはコリアーに揚げ足を取られまくり、だってコリアーは法律の専門家でフィンチはエンジニアだもんなー。ジーニアスって言っても方向性が違いすぎるし…。S3はとにかくフィンチが不得意分野で追い詰められていく様子がかわいそうだった。

 

 しかしヴィジランスの中継所がデシマに襲われて全滅し、移動中にデシマの襲撃を受けて裁判はぐだぐだで終わります。更に、ヴィジランスそのものがデシマによって裏で操られていたこと、裁判は放送などされていなかったこと、これから裁判所がデシマの手によって爆破されることが分かります。陪審員としていて来ていた無辜の市民やマスコミ、踏み込んだ警察官が巻き込まれる大規模テロ…。

 デシマはそれをヴィジランスの責任とし、サマリタンがあればテロは防げたのだ、と言って事件をサマリタン起動の後押しにしようとしています。何年もの時間を経て精巧に組み上げられた計画でした。コリアーは「いつか真実は明るみになる」と言って射殺され、次はフィンチに銃口が向けられます。

 

 その間、リース、ショウ、ハーシュの3人はフィンチとコントロールの奪還に向かいます。途中でルートから電話が来るのですが、ルートが死ぬ気でことを進めようとしていると気づいたショウはルートの元へ向かいます。ルーショウ盛り上がってまいりました♡

 で、なぜか全然友好関係でも何でもないリースとハーシュが2人で行動することに。2人は敵対関係ですが、ボスを救出したい一心で手を組みます。「次会ったら殺さなくてはならないだろう」「やってみろ」って台詞のやり取り萌えたね♡

 

 後はヴィジランスの裁判映像にフィンチが写っていたのを見たリースが「フィンチ、なんてことだ…」って呟くシーン萌えた。あんなに秘密主義者で何よりも身を隠さなくてはならなかったフィンチが、まだ最愛のグレースにすら生存を打ち明けていない彼が、全世界に放送されている(とこの時点ではリースは思っている)裁判に顔を晒している。もう生きては戻れないと思っているのだろうと分かる。すごく辛いシーンですが、フィンチを全てから守り抜こうとしているリースにときめいてしまってすみません。。

 なんやかんやあってファスコが助けてくれたりして(S3特典映像のエマーソンさんの解説で、「ファスコは人気だからちょっとのシーンでも出るんだ」って言われててときめいた。視聴者サービスだったんだ~)、2人はヴィジランスの本拠地に辿り着きますが、時すでに遅くデシマに襲撃されていました。2手に分かれて探す中、ハーシュは爆弾を発見します。爆弾を解除しようとするハーシュはリースに「来るな」と伝え、爆発に巻き込まれて死亡します。

 POI、悪役を魅力的に描くよね…。S3ラストはコントロールとハーシュがかっこいいし、コリアー君は超かわいそうだし(役者さんの演技うますぎるし)、グリアは超嫌な奴でした。最初から最後まで好感度上がらないのグリアくらいか?でもこの人も、なんか嫌いじゃないんだよな。結局、私利私欲感があんまないからかなぁ。

 

 さて、射殺されそうになったフィンチを間一髪救ったのはリースとベアーでした。相変わらずかっこいい。でもフィンチは右肩に被弾します。2人は逃げますが、グリアは「追わなくていい、すぐに捕まる」と。サマリタンが起動すれば、すぐに特定して排除できると言います。

 

 この回、皆が「この事態を引き起こしたのはフィンチのせい」と言う。グリアも、「こうなったのはハロルド、あなたのせいだ。あなたが作ったもののためだ」と言い、ルートは「マコート議員を殺さなかった時からこうなることは分かっていた」と言う。

 みんな、何でもかんでもフィンチのせいにしすぎじゃない??市民ごと建物を爆破してんのはデシマだし、マコート議員を抱き込んだのもデシマだし、それどころかヴィジランスを巻き込み、ケーシーを襲ってラップトップを強奪してカーラにウイルスを仕込ませ、はっきり言って全ての元凶はデシマじゃん。ルートもさ、死ぬ気でサマリタンのサーバーに罠を仕掛けるつもりだったんなら、グリアと直接会った時に撃たれるの覚悟で撃ち殺すべきだったのでは?殺せなかったというなら自分も同じでは?フィンチを責めて何をどうしたいのか分からん。

 ストーリー上「フィンチのせい」というよりも、メタ的に「この人が重要人物である」とアピールされてるような感じが否めないですね。

 

 ようやく廃図書館に戻ってきた2人。撃たれたフィンチの手当をしてリースは言います。

 

Have Shaw take a look at it when she gets back.

ショウが戻ったら診てもらえ

First time's the worst, huh?

最初が一番ひどい。そうだろ

Why would you ever choose a career where this was an occupational hazard?

こんな危険な職業をなぜ選んだんだ?

Well, I tried to quit, but some jackass told me I needed a purpose.

俺は辞めようとしたんだが、どこかの馬鹿が俺に、目的が必要だと言ったんだ

 

 見つめ合う2人。でもそこにルートから電話が入り、「今すぐ逃げて」と言われます。「もうそこは安全じゃない。サマリタンは起動した。新しい身分になって生き延びるの」

 サマリタンが起動して最初の30分で大勢が殺される、とルートが言った通り、ヴィジランスの残党がテロリストとして始末されます。

 

 このシーン、マジで意味分からんと思ったんですが、もしもグリアの言うようにサマリタンが「論理的」で、ピュアなロジックに基づいて全く不正のない判断を行う存在であるのなら、ここで排除されるのはデシマの方でしょ。ヴィジランスを陰で操って“裁判所”に爆発物を仕掛けさせ、多くの市民ごと吹っ飛ばしたのはデシマなんだから。でもサマリタンが排除したのはヴィジランスです。つまりサマリタンにはデシマが黒幕だと分かっていないか、分かっていてなおヴィジランスの排除を選んだということで、どちらにしても起動直後から「正しく」も「公平」でも「論理的」でもないのですがどうなの?デシマがコントロールしてるじゃん、結局。デシマが「必要な情報を寄こせ」とコマンドして、サマリタンは唯々諾々と従っているわけですよね?仮に逆(サマリタンがデシマを利用している)だとしても、そのために無辜の市民が虐殺されることを許容するってことですよね?

 ほんと、サマリタンの意味が分かんない。こいつが何をどうしたいのか方向性が理解できないし、共感もできない。最後、「コマンドは?」と尋ねるサマリタンに、グリアが「それはこちらが聞きたい。何をすれば?」と、「神」に従う姿勢を見せたところで終わります。なんだそりゃ。茶番極まりないわ。だってサマリタンは起動直後で何の善悪も分からない赤ちゃんです。超知能があれば赤ちゃんでも従うの?世界全土に核爆弾撃ち込めって言われたらやるの?“自業自得”だから?

 

 グリアは「神が人と人とを戦わせるのだ」とか言いますけど、「自分(サマリタン)に従えば殺さない(いいようにしてやる)」って結局「自分に従う部下をえこひいきする政治家」と何が違うわけ??秘書と寝て、選挙資金を横領するのと何が違う??サマリタンが本当にピュアに良悪を判断するなら、自分の手足になって動くか否かに関わらずデシマを全滅させるべきだったのでは?“裁判所”のmassiveなテロリズムを諒解するのか?それこそがサマリタンの信じる「正しい」世界へのマイルストーンなのか?

 マシンは善を行うものも手助けしないし(ルート以外ね…)、悪を行うものも排除しません。危険が迫れば平等に「番号」を出す。それこそが「公平」なんじゃないの?

 

 てか、このストーリーラインは、要はドイツの国会議事堂放火事件のオマージュなのかなぁって思いました。これは1933年2月27日に国会議事堂が放火され、共産党員が犯人とされたことからドイツ共産党が実質的に潰され、それをきっかけに(ざっくり言えば)ナチス・ドイツが独裁への道を歩むことになる…という事件です。国会議事堂に放火したのもナチスの仕業、自作自演なのではないか?という説も根強く存在します(まだ分かっていないはず)。

 ヴィジランスは右翼の革命テロ集団でドイツ共産党は左翼の革命政党であるという違いはあれど、彼らのテロ行動を逆手にとって政治介入し暴力集団を操りながら独裁を樹立していく、という流れは一緒です。サマリタンってやってることがナチスっぽいよね。この後も、「選ばれた人間が」云々言い出すし。サマリタンのエージェントはいわゆるSA、SSっぽいですね。アセットに番号付けられてんのもそれっぽい。

 

 AIバトルに突入してから話が茶番と化すので(サマリタンとデシマが意味不すぎる)、S4以降のストーリーの破綻が見づらくて…。でも正直ストーリーが多少破綻してようがドラマなんでスルーできるんですけど、S4は萌えにも乏しいんでそれがきついっすね。妄想力で補うしか…。冒頭は面白かったのになー。なんかちゃっかり普通に暮らしちゃってたりして。

 

 ちなみにですが、ヴィジランスが使用していた放送機材はライラテック社のものだったっぽいです。デシマに乗っ取られてた企業ですね。とはいえ、あんな大々的にスパイであることが公表されてFBIの捜査まで入った企業の製品使うかあ??コリアー君、ちょっとツメが甘すぎん??てか最初から誰かに操られてること分かり切ってるのに正体を探ろうともしないし、ちょっと意味が分かりませんね。ヴィジランスといいS4のブラザーフッドといい、黒人キャラの使い方微妙なのがちょっと納得できない。

 そういえば途中でマシンが Admin を探すシーンで、放送に対して"transmission anomaly"と表示され、正常な放送ができていないことが示唆されています。

 

 最後のルートのモノローグ。

 

The machine and I couldn't save the world.

マシンと私は世界を救うことはできなかった

We had to settle for protecting the seven people who might be able to take it back, so we gave Samaritan a blind spot.

私たちは世界を取り戻せるかもしれない7人を守ることで妥協せざるを得なかった、だからサマリタンに盲点を仕込んだの

Seven key servers that hard-codes it to ignore seven carefully crafted new identities.

7つのキーサーバーに、慎重に作った7人の新しい身分をコードし、それを無視させるようにした

When the whole world is watched, filed, indexed, numbered, the only way to disappear is to appear, hiding our true identities inside a seemingly ordinary life.

世界中が監視され、ファイルされ、分類され、番号を与えられている時、身を隠す方法は身を隠さないこと、平凡に見える人生の中に本当の人生を隠すこと

You're not a free man anymore, Harold.

あなたはもう自由な人間じゃないわ、ハロルド

You're just a number.

あなたはただの番号

We have to become these people now, and if we don't, they'll find us, and they'll kill us.

私たちは今新しい人間にならなくては。そうしなければ、彼らは私たちを見つけ、そして殺すでしょう

I'm sorry, Harold.

残念だわ、ハロルド

I know it's not enough.

これは十分じゃないって分かってる

A lot of people are going to die.

たくさんの人が死ぬでしょう

People who might have been able to help.

助けられたかもしれない人たちが

Everything is changing.

全ては変わってしまう

I don't know if it will ever get better... but it's going to get worse.

良くなる時が来るのか分からない、もっと悪くなるでしょう

But the machine asked me to tell you something before we part.

でもマシンが、離れ離れになってしまう前にあなたに伝えてほしいことがあると言っている

You once told John the whole point of Pandora's Box is that once you've opened it, you can't close it again.

あなたはかつてジョンに言ったわね。一度パンドラの箱を開けてしまえば、二度と閉じられないと

She wanted me to remind you of how the story ends.

彼女は私に、あなたにその物語の最後を思い出させてほしいと願ってる

When everything is over, and the worst has happened, there's still one thing left in Pandora's Box... hope.

全てが終わった時、最悪なことが起きた時、それでもパンドラの箱の中にはたった一つのものが残されている…希望が

 

 S3ラストはとても、ファイナルシーズンのラストを想定させる終わり方でした。このルートの静かな語り、それにパンドラの箱

 このパンドラの箱の話、字幕では表示されていなかったのですが、「フィンチがリースに言った」話として語られています。いつこんな話してた?と思ったのですが、S1DVD特典のS1E1のlong versionでマシンの説明をするときにフィンチがリースにパンドラの箱の話をしていたのでそのことかもしれません。放送版ではカットされてましたけどね。

 ちなみにルートの台詞はイギリスのドラマ「プリズナーNo. 6 (The Prisoner, 1967)」のオマージュだそうです。

"I will not be pushed, filed, stamped, indexed, briefed, debriefed, or numbered!" "I am not a number, I am a free man!"

 

 ベアーを連れたフィンチとリースは図書館から外に出て、それぞれ別々の方向へ引き裂かれます。何度も振り返りお互いの顔を見つめながら、とうとう正反対の方向に。チームマシンだけでなく、この2人さえも。たった2人で始めたことだったのに、その2人さえもバラバラにされてしまうところでS3が終わります。「家」だった図書館は壊され、カーターの写真が床に散らばって…。生きていたら、マシンの存在に気づいていた彼女も標的だったんですよね。ファスコはマシンのことを知らないので追跡を免れます。

 

 ここで、RedioheadのExit Music (For a Film) がかかります。

yuifall.hatenablog.com

「逃げ出そう、めちゃくちゃになる前に」

「息をし続けて、一人じゃだめなんだ」

 その曲に合わせてリースとフィンチ、ルートとショウが引き裂かれる。すごく切ないシーンなんですけど、ロミオとジュリエットの映画で使われた曲でリース&フィンチとルート&ショウの別離がエモーショナルに描かれるの萌えるわ…。

 そしてサマリタンが起動し、最後に

 

We hope that you choke

僕たちはお前が窒息して欲しいと願う

 

という歌詞が流れます。これはグリアがカーラに語った神話の中で、息子を殺そうとした父が窒息して死んだ、という部分のミラーになっているのだとか。“父”をフィンチ、“息子”を人工知能になぞらえていることが分かります。

 あと、S5ラストのグリアとフィンチの一騎打ちシーンでサマリタンが2人とも窒息死させようとしたのは、多分この伏線回収かと思われます。

 

 廃図書館で2人きりだった時のPOIが一番好きだったので、S3ラストはほんとに辛かった。1シーズンかけてようやくチーム体制に慣れたところだったのに全部破壊して一からスタートかよ。

 まあ、海外ドラマのこういう容赦ないとこ嫌いじゃないけどね…。最後までリース、フィンチ、ファスコが降板なかったのでそれだけでもよかったのかも。

 

POI:コントロール、グリアを含めた5人(全員被害者)

本編:2014年4月15日(裁判)~16日(サマリタン起動)

フラッシュバック:

2010年、コリアー(ヴィジランス加入)

2012年、コリアー(破壊行動中)

2013年、コリアー(FBIを射殺)