書肆侃侃房 出版 東直子・佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。
一斉に都庁のガラス砕け散れ、つまりその、あれだ、天使の羽が舞ふイメージで
これ面白いですね。つまりその、あれだ、って(笑)。ちょっとアニメっぽい演出だよね。バーンって都庁のガラスが砕け散って、全部それが羽になっちゃうの。なんかイメージできます(笑)。他にも、
厳かに雨が都庁を隠すとき「私は遍在する」といふ声
というものもあり、「私は遍在する」って何だろうと思って調べたところ、『serial experiments lain』というメディアミックス作品の中の台詞らしいです。何か都庁に対するこだわりがあるんでしょうか…。そしてゲーマーかアニオタなんでしょうか…。
サブカルモチーフの耽美な感じの歌が多いなーと思いながら読んでいたのですが、後半は父になっていて、
長き会議に倦みたる妻は帰り来て桃色の保育所日誌をひらく
と生活感が溢れている感じの歌も見られます。妻が帰ってきて保育所日誌をひらくのは、妻が子供を迎えに行って帰って来たんだろうか。それともこの人が家にいるわけだから、この人が子供を連れて帰ってきて、妻は家に帰ってきて保育所での様子を見るために日誌を開いているシーンなんだろうか。後者だといいなって勝手に思ってます。
なんとなくですけど、男性っぽい耽美的な歌を詠みながらどこか優しいというか、性差を超えた感じもします。加藤千恵の感想の時に紹介したのですが、「孕みえぬ男たること申し訳なし」って歌もあって、これを読んですごく切なくなりました。栗原寛の
男にて生ませざること男にて生みたしと思ふこと罪なりや
って歌は、男性同性愛者であるがゆえに「生みたしと思ふこと罪なり」っていう意味なのかな、って感じて苦しくなったのですが、この人の歌は異性愛者でありながら「孕みえぬ男」っていうことを深く意識しているところがすごく、なんというか、ぐっときました。
この人はプロフィール欄に住職とあるのですが、この珂瀾という名前は『禅海一瀾』と関係あるのかな??毎朝お寺のそばを歩くのですが、時々若い女性が赤ちゃんを負ぶったまま掃き掃除していて、時々旦那さんと思しき若い男性も一緒に掃除してて、なんかこの人のこと考えます(笑)。
前半の耽美系サブカルモチーフの歌から後半の妻子を詠った歌に移行する間にどんな心境の変化があったんだろうな、って思います。だけど、それが普通なのかも。男性も女性も、寄る辺ない感じの恋の歌から子供や家族を詠む歌に変わっていく作風の変化をアンソロジーで一気に読むと、切ないような胸があったかくなるような複雑な気持ちになります。
膝下に鋭くナイフ入れながら「Nice boat.」ときみはつぶやく (yuifall)
東京を捨てておいでよ ひぐらしがなくまであなたを待つわ、何度も (yuifall)
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