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現代歌人ファイル その192-笹原玉子 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

笹原玉子 

bokutachi.hatenadiary.jp

墓碑銘に書く死亡時刻「ゆふぐれが扉のまへに着いたとき」

 

 この人は『短歌タイムカプセル』でも登場しましたが、歌の解釈が難しくて、うーん?読みこなせないなー…、と思いながら読んでました。今回解説を読んでみると、

 

 歌集『南風紀行』では塚本邦雄が解題にて〈良質の不可解〉というタームでもって作風を総括している。確かに笹原の作品はリアリズムではなく、かといってファンタジーというのもまた違うように感じる。まさに「不可解」なのだ。

 

とあります。おお!「不可解」でいいのか!分からないまま好きになっていい系の歌なんですね。

 「ゆふぐれが扉のまへに着いたとき」という墓碑銘?死亡時刻?はかっこよすぎますね…。そんじょそこらの人間の墓には刻めません。

 

君の渇きが増してゆくとき南方の町のどこかで水位がさがる

 

 これ、全然関係ないけど千種創一の

 

下がってく水位があって、だめだな、あなたと朝を迎えるたびに

 

を連想した。

短歌タイムカプセル-千種創一 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

 単に「水位がさがる」っていう言葉しか共通点がないのですが、これらの歌で「水位」とは一体何を意味しているんだろうか。

 笹原玉子の歌の方はなんとなくですけど、「君」が乾きを潤すために「南方の町」のどこかの水を大量に飲んでしまって、というファンタジー系怪談な気がしないでもないですね。

 千種創一の方は、あなたと朝を迎えるたびに僕の中で湖の水位が下がっていって、中に沈めて隠していたものがむき出しになっていく、という、彼女に自分をさらけ出していくときの快感のようなものを感じます。

 

地球のたつたひとつの遺言は簡潔です「くりかへすな」

 

五月の風が通つたあとでまつさきに第一ヴァイオリンをはじめてください

 

 「ですます調」の歌も多く引用されています。解説には

 

こうした口調は対話相手への尊敬の意という高度なコミュニケーションが図られていることを意味する。しかし具体的な誰かに言っているというよりも、不特定多数に向けた預言の言葉のような印象も受けるのである。

 

とあり、「預言」かぁー。

 以前にJonas BrothersのRemember Thisという歌の和訳を紹介した時に、

Remember This (Jonas Brothers) 和訳 - いろいろ感想を書いてみるブログ

we’re gonna wanna rememberという歌詞が出て来て、gonna wannaって何だろうって思ったのですけど、少し上から目線の「~したらいかがでしょうか」みたいな丁寧な命令形らしいんですよね。道を教えてあげる時に、You’re gonna wanna go straight「まっすぐ行ったらいいですよ」みたいに使うっぽいです。この「第一ヴァイオリンをはじめてください」を読んで、なんかそれを思い出しました。指揮者がオーケストラに言うみたいですよね。

 

 不可解な言葉を表出することができる回路って、生まれつき持っている人と持っていない人がいるんだろう、と感じることがあります。それとも、そういう文学作品に触れることで養うことはできるのだろうか。生まれつき持っていなくても、繋ぐことはできるんだろうか。現実と幻想がシームレスになっていくような文章憧れるのですが、自分にはその文体を獲得するのは難しいといつも思います。

 

 

思考など残せはしない黒線で擦って描く重機のように (yuifall)

 

 

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