山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
大崎瀬都
故郷の川に下りて手を洗ふわれの儀式を知る人のなし
かき氷の氷の粒を飲みながらかちりと光る海を見てゐる
前回、自分は情景を詠うのが苦手だと書きましたが、風景を切り取るこういう眼差しを持つ歌人に憧れます。この人は高知県出身で千葉で養護学校の先生をしているとか。
病棟より出でしことなき少年に海の蒼さをいかに伝へむ
という歌もあります。「川」(四万十川)、「海」(太平洋)をテーマにした歌が多数引用されており、どれも「唯一のもの」という感じがしてとても憧れます。心の中のどの「川」や「海」であってもいいわけじゃなくて、「ふるさとの四万十川」、「太平洋」なんですよね。自分の暮らしに近い光景をどうしてこんなに詩にできるんだろう。
闇の夜に灯れる電話ボックスはメロンソーダのみどりを満たし
感傷は親だけのものアトピーの首赤くして子は卒業す
これらは都市詠です。「みどり」「赤」の色彩から、自分の愛したふるさと、海や川の「蒼」と遠く離れてきたという感じを受けます。それでも、解説によれば
非常に技巧的で美しい自然詠が大崎の持ち味であるが、こういった都市詠にも惹かれる部分が多い。気付くことは、都市を詠むときもまた「水」の属性に着目する傾向があることだろう。「水」のイメージでつながることで、いつも心だけは故郷へワープしようとしているのだろう。
とあり、
水槽に半歩近寄り光る魚ソルソルテトラの名を覚えたり
このような歌でふるさとの「蒼」に近づこうという思いがあるのかもしれません。
ところでソルソルテトラ、気になってググったら、赤や黄色のヒレを持つ熱帯魚でした。やっぱり都市のイメージは「赤」なのかなぁ。「ソルソル」はペルーの言葉で、「夕陽」という意味らしいです。ペルーの公用語はスペイン語みたいですが、Solはスペイン語などで「太陽」ですよね。ソルソルだと夕陽なのか…。ちなみにペルーの通貨は「ソル」らしいです。
あの夏のついに降りざる海の駅喪失はいま郷愁を超ゆ (yuifall)