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現代歌人ファイル その199-谷岡亜紀 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

谷岡亜紀 

bokutachi.hatenadiary.jp

黄昏の世界がおれに泳がせる50mプール32秒で

 

 谷岡亜紀は『現代短歌最前線』で知って当時すごくハマった歌人だったので、『短歌タイムカプセル』では取り上げられてなくてちょっとびっくりしました。そういえば前田康子や大田美和も入ってなかったなー。逆に言うと、歌人の層ってすごく厚いんだなって感じました。確かにどのアンソロジーにも載ってるような有名な人もいるけど、あるアンソロジーには載ってて違うアンソロジーには載ってないみたいな歌人も多くて、本当にたくさんの人が活躍してるんだなーと。まあ、とはいえ、他のジャンルに比べたらめちゃくちゃニッチな世界なのかもしれませんが…。

 この歌も『現代短歌最前線』の頃からめっちゃ好きだった。なんか、無生物主語にすごく心惹かれるんですよね…。

 すごく個人的な思い出ですけど、中学校の時に俳句を作るって授業があって、私俳句作るのめちゃくちゃ苦手なので全然思い浮かばなかったのですが、その時仲良かった友達が中学生とは思えないハイレベルな俳句詠んでて(他人の作品なので載せませんが今でも鮮明に覚えてる)、ものすごくびっくりしたし、というか当時の国語の先生も「これ、〇〇さんが作ったんだよね?すごい作品だなー!」と思わず確認するほどうまかったのですが、その作品が無生物主語だったんですね。その時、こういう日本語の使い方もあるんだ…、って思った。

 短歌とか俳句を読んでいて楽しいのは、そういう時です。こんな言葉の使い方ってあるんだなー、って思うとき、なんか得したなって気になる(笑)。

 

おれの中の射殺魔Nは逃げてゆく街に羞(やさ)しい歌が溢れても

 

毒入りのコーラを都市の夜に置きしそのしなやかな指を思えり

 

 これらは現実の事件を詠ったもののようです。解説には

 

現実に起きた事件をモチーフとすることからも「暴力」への関心がうかがえるが、同時に「暴力」を「都市」と密接に結びついたものとして捉える傾向がある。都市が暴力を生み、暴力が都市を生むのである。

 

とあります。

 

まこと我は血の詰まりたる袋にてレバー・テンプル・ボディ打つべし

 

という歌もありますね。この歌は「アジア詠」の中に含まれているので、もしかしたら屋台で売ってる血の煮凝りみたいなやつを見て思ったのかなぁ。もともとは、ボクシングの歌だと勝手に思ってました。

 

激つ瀬の婚姻色の春の魚 恋を季節と決めて清しも

 

いつか王子様がやって来る朝よく晴れてジャングルジムが激しく冷えて

 

 この人の相聞歌は相変わらずセクシーですね。「ジャングルジムが激しく冷えて」とか、歌の意味はよく説明できないのにああ、分かるなって心を掴まれる感じです。こういうハードボイルドな歌に出会うとき、どうしてこんなハードボイルドな精神性を短歌にしようと思ったのかなーって不思議に思うのですが、もしかしたら標語っぽい言い切りがある意味ハードボイルドと相性いいのかもって思ったりもしました。

 

 

消費せよ 恥がおまえの膝を折り閲覧数が肉を削ぐまで (yuifall)

 

 

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