山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
白瀧まゆみ
後ろから抱きしめるとき数一〇〇〇(いっせん)の君のまわりの鳥が飛び立つ
ヘイ・バード僕ら翔べない鳥だから彼(か)は誰(た)れどきの夢を見るのさ
1990年、「Bird lives − 鳥は生きている」で第1回歌壇賞を受賞されたそうです。この「鳥」はどういう意味なんだろうなと考えながら読んでいたのですが、「ヘイ・バード」の方は解説によれば
「ヘイ・バード」の歌はジャズミュージシャンのチャーリー・パーカー(通称バード)に題をとったものらしいが、「ヘイ龍(ドラゴン)カム・ヒアといふ声がするまつ暗だぜつていふ声が添ふ」(岡井隆)の影響を受けた歌でもあるのだろう。
とあるので、必ずしも実際の「鳥」ではないのかもしれません(この人は岡井隆に師事していたとか)。この2首すごい好きです。
限りなく狭いところをくぐり抜け外に出たがる私がいる
解説には
「球体」や「この世の橋」「狭いところ」は何かの比喩ではなく、作者の頭の中に浮かんでいるイメージそのものという印象を受ける。
とある一方で、
「飛ぶこと」と「生まれること」が白瀧のなかでは非常に近い位相にあるのだろう。
ともあり、「狭いところ」は産道の比喩なのではないかという気もしました。くぐり抜けて生まれる、という。
水のなかにゆらぐ太陽このように生まれるときもふるえたろうか
「生まれる」歌もう一首です。これはどこかの水(川?海?グラスの中?水たまり?)に浮かぶ太陽のふるえ、という具象であると理解できる一方で、具体的な景色よりも心情を詠っている印象を受けます。
この人の歌を読んでいて、唐突に宮沢賢治の「心象スケッチ」という単語が頭に浮かびました。
まなうらの鳩がうたうよ鳥の歌 僕らは括弧でくくれないから
銀河系で何番目なのか知らないが新月はきっと寒いだろうね
まだ知らないことがあるなら生きようよオオミズアオの羽化する前に
みたいな歌、どれも具体的な光景という感じはしないのですが、いいなって思ったし言葉の使い方が好きでした。
自分は具体的な光景や状況を歌にするのが苦手でずっとコンプレックスだったのですが、必ずしも具体的な光景や状況を緻密に詠みこむスタイルを取らなくても心に響く歌を詠える人もいるんだと思いました。
ペンギンでいるいいわけをしたいから枷も翼も知性というの (yuifall)