いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

「短歌と俳句の五十番勝負」感想43.ふるえる

「短歌と俳句の五十番勝負」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

鳥交る天のふるえてゐたりけり (堀本裕樹)

 

 この俳句はとても言葉が美しいし、それに先人の句も踏まえた作りになっているそうで、興味深く読みました。

 

そのことも真空のなかや鳥交る (森澄雄

 

という俳句があるそうです。空で交わる鳥のつがいの様子を描いており、それを尊いものとして見上げる詠嘆の句だとか。堀本裕樹の句は、鳥が交わる天の方が光り輝きながら歓喜にふるえる、という作りになっています。

 

 「鳥交る」という季語は初めて知りました。「猫の恋」は知っていたのですが。これらの季語について、エッセイで

 

(前略)まだ俳諧連歌と呼ばれていた頃の遥かむかしの先輩方が、鳥や猫の発情を面白がり、句材に「季の詞」として取り入れたことが、まことにあっぱれだと敬服するのである。それは和歌や連歌で扱われていた「鹿の恋」の雅に対しての、「鳥の恋」「猫の恋」の鄙びであり、アンチ・テーゼでもあって、俳諧精神の滑稽かつ新しさの探求ともいえるだろう。

 

とありました。

 多分「生殖」「発情」みたいな動物の季節の営みって、詩にするときにすごく上品にもすごく下品にもできるのかもしれないのですが、「鳥交る」「猫の恋」という季語は絶妙なラインで、俳句って面白いなと思います。なんというか、そういうものを無視せず、だけど昇華しすぎずに取り入れてしまうというか。

 

 最近『天の川銀河発電所 Born after 1968 現代俳句ガイドブック』( 編著:佐藤文香 )を読んでいて、俳句って作風がほんと幅広いなって思いました。

 

キャバ嬢と見てゐるライバル店の火事 (北大路翼)

 

みたいな句や、

 

ヤベエ勃つたと屈むお前と春の暮 (関悦史)

 

みたいなやつ、初めて読んでびっくりした(後者はBL俳句らしいです笑)。でもそういう句もあって、一方で

 

鳥交る天のふるえてゐたりけり

 

みたいな言葉の使い方もあって、すごくいいなって思います。うまく言えないけど…。短歌に色々な作風があることは分かっていたのですが、俳句のような短さでここまで幅広い表現があることに改めて驚きました。

 

 

 ちなみに「猫の恋」の季語を使って以前俳句を作ったことがありました。

 

恋猫はしぐれ言葉は掻き消へて (yuifall)

 

鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)の恋の呼吸、「恋猫しぐれ」を題材にしてます。いわゆる二次創作俳句ですね。ここでは「蝉しぐれ」みたいな感じで「猫しぐれ」って言葉使ってますが、「蝉しぐれ」は夏の季語で「しぐれ」は冬の季語なので、「猫しぐれ」になるとどうなんだ、とか思いました。一応「恋猫」で春のつもりで作ってます。

 

 

「はじめてでええええ」きみの語尾と指、それからチェーンソーがふるえる (yuifall)