「短歌と俳句の五十番勝負」 感想の注意書きです。
切り口の楕円うつくし胡瓜漬け (堀本裕樹)
この句はまさに正統派俳句、という感じで(よく知らないのでイメージですが…)心惹かれました。夏、胡瓜、切り口の楕円、ですね。
最近バラエティ番組『プレバト』の俳句のコーナーを見ていて(しつこいようですがこの記事2022年に書いたので…)、「炎帝戦2022」だったかなあ、俳句がうまい15人で優勝を競う!みたいな感じだったのですが、お題は「メール」でした。で、上位に入った作品は破調が多く、また「メール」という言葉が詠みこまれていない句も多くて、「メールという言葉が入っていないがメールでの連絡であったことがはっきり分かる」と絶賛されている流れだったのですが、私はそういうのあんま好きじゃないな、って思った。単純に好みの問題ではあるんですけど、「メール」って言葉をそのまま詠みこんで、定型に合わせて、それでもなお人を新鮮に驚かせるような句に勝ってほしかった。非定型の句は定型よりずっと説得力が必要だと思うのですが、上位入賞句の多くにそこまでの説得力を感じられなかったです。正直1位、3位とか、それほど上位かなあ、って感じでしたし。
ちなみに「メール」という言葉を入れて定型で詠んでいたのは10位以内だと2人だけで、
羽蟻わく今宵ロマンス詐欺メール (東国原英夫)
緋ダリアや「メール不達」のメール来る (千賀健永)
でした(まあ、前者は「羽蟻わく今宵/ロマンス詐欺メール」で切れる句である可能性もありますが…)。そのうち後者を夏井いつき先生が
ダリアは緋「メール不達」のメール来る
と添削していたのですけど、この句が一番好きだと思いました。
そういうTV見てから堀本裕樹の俳句読むと、プロはやっぱりすごいな、って思います。出題された言葉をきちっと詠みこんで、季語も入れて、基本的には定型でびしっと決めてくるので、すんなり読んでしまうけど本当にレベルが高いんだなと思わされました。この句なんてまさに、「楕円」のお題でかっちりとした古典俳句です。
エッセイでは実家の紀州の思い出が語られます。この「胡瓜漬け」は浅漬けや味噌漬けや醬油漬けではなく、糠漬けのことだそうです。エッセイでは「夏痩せ」という季語を使った句を引用して故郷の胡瓜漬けを勧めており、面白かったです。
夏痩せて嫌ひなものは嫌ひなり 三橋鷹女
こんな人にはどうだろうか。千葉出身の鷹女さんは、おかいさんを食べたことはあったのだろうか。それにしても「鷹女」とは勇ましい俳号である。背筋が通っている。
恐る恐るおかいさんと胡瓜漬を夏痩の鷹女さんに出してみたらどうなるのだろう。どうか「嫌い!」などと言わずに、一度食べてみてほしい。
とありました。三橋鷹女は
鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし
で知っていましたが、この句といい、「嫌ひなものは嫌ひなり」といい、「鷹女」の名にふさわしいきっぱりとした句でかっこいいです。ググって代表作品を読むと、他の句も全体的にかっこよかったです。俳句界ではどういう存在なのかなあ。確かに「恐る恐る」になってしまいそうです。
それにしても「夏痩せ」って経験したことないのですが、昔の友達で夏と冬で体重が6kgぐらい変動すると言う子がいて、聞いた時かなりびっくりしました。世の中には自分の知らないことがたくさんあるんだなあと思います。エッセイで言われている、「ふるさとの味」もそのたぐいかもしれません。
この距離の和が規定する楕円形横滑りしていく言葉の輪 (yuifall)