北溟社 「現代短歌最前線 上・下」 感想の注意書きです。
辰巳泰子④
午後。唇といふうすき粘膜にてやはく他人の顔とつながる
この歌はリズム感が不思議で好きだなと思いました。キスを、ちょっと不思議な言い方で表現してるの。「うすき粘膜でやはく他人の顔とつながる」と言われると、なんかすごく変な、でも特別なことをしている感じがしますね。
抱かるる危機を失くした心象は陽だけがあたつてゐる白い部屋
これは「水のほかなにも流れぬ河」と似ている感じがしました。抱かれるのは「危機」でもあったけれど、失うともう何も残っていない、白い部屋だけなんだって。陽だけがあたつてゐる、という表現からは、ぽっかりと明るいという感じがします。詩的ですね。虚しいんだけどどこか明るいの。明るいけど虚しい、と書いた方がいいのかな。この白い部屋はあかるくて、きっとまた違う人が訪れるだろう、というところまではまだ感情が届いていない感じがします。ただ淡々と事実だけ、引っ越しを終えた部屋みたいに、ここにあったはずのものがなくなってしまった、と。
性欲のあはき男に選ばれて値札の赤き鉢植ゑの花
この歌は不思議でした。今まで「乳ふさをろくでなしにもふふませて」とか「抱かるる危機」って書いていたので、相手はわりと男っぽいというか、下町っぽい感じというか、無造作に女を抱きそうな感じの男性をイメージしていたのですが、「性欲のあはき男」なのか。。だから「性愛は打ち消しがたく」って、自分の中の情欲を深く意識する方向へ行くのかな。「値段の赤き」っていうのは、ディスカウントされたっていう感じがするので、売れ残りのあんまり人気なくて盛りがすぎたような花を自分に重ねてるのかなって気がして読んでました。そんな私にも女の情があるのよ、って。
初夏。ただ呆然とするために社会学部のキャンパスへ行く (yuifall)
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