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ぼくの短歌ノート-「ミクロの世界 空間編」 感想

講談社 穂村弘 著 「ぼくの短歌ノート」 感想の注意書きです。

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ミクロの世界 空間編

 

 この「ミクロ」シリーズ(今回の「空間」と次回の「時間」)は、着眼点としてはすごく面白い!と思うのですけど、解説についてはどうも承服しかねます(笑)。一体何をもってミクロ≒どうでもいい、とみなすのか?

 

食事中むせてご飯が飛びましたまだ原型をとどめてました (渡辺崇晴)

 

なんか、そもそも米粒一個ってミリ単位ででかいじゃん(笑)。

 いやー、しかも、私、米粒のことよく考えるんですよね。こうやって一粒飛んだやつとか、茶わんのふちにこびりついてるやつとか、食洗器の中で干乾びてるやつとか見ると、稲穂の映像がうわっと脳内に浮かぶんですよ…。でも別に「米粒1個には7人の神様がいるんだから無駄にするな」的な意味合いじゃなくて、米粒の運命っつーか、田んぼにいる間に鳥に食べられたり、収穫前に落下したり、脱穀に失敗したり、米びつに移す際に床に落ちたり、人間に嚙み潰されたり、食べ残されて流されたり、もしくは形がよかったりすると来期の種に使われたりするじゃないですか。で、別に米粒的にはどの運命であっても等価だよなって。

 こういうことって多かれ少なかれ、そして対象は米粒でないかもしれないけど、誰でもある程度は考えるんじゃないかな?『いっぽんの鉛筆の向こうに』(谷川俊太郎)って本あるけど、米粒だろうが鉛筆の芯だろうが1枚のティッシュだろうが、我々の手元に来るまでにはドラマがあるわけで。どうでもいいことなんかないと思うよ!

 でもこんな短歌は確かに作れないので、作者とそれに注目した著者はすごいなーとも思います。

 

黒ゴマの一つ浮きたる牛乳というもの見たり夜のテーブルに (花山多佳子)

 

 これに関しては、解説には

 

<私>はその体験を誰にも語らないだろう。

 

とありましたが、果たしてそうだろうか?私の妄想世界では、この人の家族の誰かが牛乳と一緒にアンパン食べたんですよ。アンパンって上に黒ゴマのってるじゃん。で、アンパンを牛乳で流し込んだ際に牛乳に黒ゴマが混入し、さらにはその犯人は牛乳を飲み残した上に片付けずにその場を立ち去ったと。だから私がこの人なら、「誰にも語らない」どころかめっちゃ切れるね(笑)。一家の母ならなんとなく誰が犯人か見当がついてるだろうし、そいつのところに行って、「飲み残しの牛乳置きっぱなしにすんな!片付けろ!せめて中身を流して水ですすいでシンクに置いておけ!」とブチ切れますね!

 ちなみにこの歌は『短歌タイムカプセル』でもこの人の代表歌の一つとして取り上げられているので、みなさん何か感じるところがあるようです。この静物画っぽい感じは何となく俳句を彷彿とさせますね。だから「誰にも語らない」というか、しんとしたイメージなのかな。

 まあ上に散々妄想書きましたけど、もしかしたら本当にこの人は「誰にも語らなかった」んじゃないかなって気もしてます。なんか、「置きっぱなしにしやがって!」みたいな勢いが感じられない歌なんだもん。だけどそれではこの牛乳はどうなったんだろう、って思う。人の飲み残しを黙って片付けたんだろうか。それとも、犯人が片付けるまでそのままほっといたんだろうか。だってそこから消えちゃうわけじゃないんだから。やっぱり、「誰にも語らないだろう」っていうのは男性の発想な気がするな。男性っていうか、主体的に家事に関わってない人の発想な気がする。飲み残しの牛乳をテーブルに置いておいて朝になれば片付いてるって思ってる人の発想というか。

 まあなんにせよ、夜のテーブルに黒ゴマ1個浮いてる牛乳を見た、ってのが詩になるのがすごいなって思うし、みんなそれに感じ入るからこそこうやって色々語りたくなるのかなと思いました。

 

髪の毛がいっぽん口に飛び込んだだけで世界はこんなにも嫌 (穂村弘

 

 は、比較的分かりやすいですね。髪の毛が口に入るとか、睫毛が目に入るとか、コンタクトがずれるとか、小石が靴に入るとか、ささいなことで人の世界はがらりと違っちゃいますもんね。

 

 

つま先に石のかけらを潜ませて いたい、ほんとはそこではなくて (yuifall)

 

ぼくの短歌ノート-「貼紙や看板の歌」 感想

講談社 穂村弘 著 「ぼくの短歌ノート」 感想の注意書きです。

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 貼紙や看板の歌

 

「軽井沢に跳梁跋扈する悪質な猿の特定が急がれます」とぞ (花山多佳子)

 

って面白かった。だって、ほぼ全部貼紙かなんかの文章ですよ?そんで「軽井沢に跳梁跋扈する悪質な猿」って(笑)。妖怪かよ。西遊記かよ。この文章作った人って役所の人なのかなぁとか考えちゃいますね。なんか、面白さのおすそ分けを貰った気分です。

 同じ人の歌で、

 

眉間に蜂迫りきて背ける目は見たり「蜂に注意」といふ看板を (花山多佳子)

 

も面白い!うわっ!蜂!看板に気付くの遅っ!ってか看板意味ある!?みたいな(笑)。病気になってから健康を意識する的な?

 

 最後解説につっこみたいのですが、

 

肉饅に虫が混入(アザミウマ)などと書かれた詫び文貼らる (前田康子)

 

に対して

 

「アザミウマ」とは「混入」した「虫」の種類らしい。だが、こう書かれると、人間の意識は反射的に「アザミ」や「ウマ」を感じてしまう。

 

とあるのですが、感じません!!カマドウマ的な虫を一瞬で連想したわ!「肉まん」じゃなくて「肉饅」って書き方もなんか、肉々しいし、肉+虫で一気にグロワールドに突入しました。

 いやー、ほんと、同じ歌を読んでても人によって感じ方って違うんだなぁ。解説付きの本ってこういうとこが好きです。

 

 

日曜を路上にまき散らすんじゃねえ「たばこは心の日曜日」なら (yuifall)

 

Barely Breathing (Duncan Sheik) 和訳

洋楽和訳の注意書きです。

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Barely Breathing (Duncan Sheik)

作詞:SHEIK DUNCAN

作曲:SHEIK DUNCAN

 

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I know what you're doing

I see it all too clear

I only taste the saline

When I kiss away your tears

 

You really had me going

Wishing on a star

The black holes that surround you

Are heavier by far

 

I believed in your confusion

You were so completely torn

Must have been that yesterday

Was the day that I was born

 

There's not much to examine

There's nothing left to hide

You really can't be serious

If you have to ask me why

I say goodbye

 

'Cause I am barely breathing

And I can't find the air

Don't know who I'm kidding

Imagining you care

 

I could stand here waiting

A fool for another day

I don't suppose it's worth the price

It's worth the price, the price

That I would pay, yeah yeah, yeah

 

Everyone keeps asking

What's it all about?

I used to be so certain

Now I can't figure out

 

What is this attraction?

I only feel the pain

There's nothing left to reason

And only you to blame

Will it ever change?

 

'Cause I am barely breathing

And I can't find the air

Don't know who I'm kidding

Imagining you care

 

And I could stand here waiting

A fool for another day

I don't suppose it's worth the price

It's worth the price, the price

That I would pay, yeah yeah, yeah

But I'm thinking it over anyway

I'm thinking it over anyway

 

I've come to find

I may never know

Your changing mind

Is it friend or foe?

 

I rise above or sink below

With every time

You come and go

Please don't come and go

 

'Cause I am barely breathing

And I can't find the air

Don't know who I'm kidding

Imagining you care

 

And I could stand here waiting

A fool for another day

But I don't suppose it's worth the price

It's worth the price, the price

That I would pay, yeah yeah, yeah

But I'm thinking it over anyway

I'm thinking it over anyway

 

Well, I know what you're doing

I see it all too clear

 

 

 

直訳

 

I know what you're doing

僕はきみがしていることが何か分かってる

I see it all too clear

全てがとてもはっきり見えるよ

I only taste the saline

ただ塩味だけが感じられる

When I kiss away your tears

きみの涙をキスで拭ったとき

 

You really had me going

僕はほんとにきみを信じるところだった

Wishing on a star

星に願いをかけて

The black holes that surround you

きみを取り囲むブラックホール

Are heavier by far

圧倒的に重いんだ

 

I believed in your confusion

きみが混乱してるだけって信じてた

You were so completely torn

きみは完全に引き裂かれてた

Must have been that yesterday

それは昨日だったに違いないよ

Was the day that I was born

僕が生まれた日は

 

There's not much to examine

試すべきこともあまりないし

There's nothing left to hide

隠すべきことも残っていない

You really can't be serious

きみはまさか本気じゃないよね

If you have to ask me why

もしきみが理由を尋ねるのなら

I say goodbye

僕はさよならを言うよ

 

'Cause I am barely breathing

だって僕はほとんど息もできない

And I can't find the air

そして僕は空気を見つけられない

Don't know who I'm kidding

僕が騙そうとしているのが誰なのか分からない

Imagining you care

きみが僕を思ってるって想像しながら

 

I could stand here waiting

僕はここに立って待ち続けることもできた

A fool for another day

あと一日、馬鹿みたいに

I don't suppose it's worth the price

それが価値のあることって思えないんだ

It's worth the price, the price

価値のあることだって

That I would pay, yeah yeah, yeah

僕が支払うような価値のあることだって

 

Everyone keeps asking

みんな尋ね続ける

What's it all about?

一体何のこと、って

I used to be so certain

以前はすごく確信があったんだけど

Now I can't figure out

今ではもう分からない

 

What is this attraction?

この魅力は何なんだろう

I only feel the pain

ただ痛みしか感じない

There's nothing left to reason

考えるべきことは残っていないし

And only you to blame

責めるのはきみだけだ

Will it ever change?

これって変わるのかな?

 

But I'm thinking it over anyway

でもどっちにしろ僕はよく考えてしまう

I'm thinking it over anyway

どうせ考えてしまうよ

 

I've come to find

見つけるために来たんだ

I may never know

僕が知ることはないだろう

Your changing mind

きみが心を変える

Is it friend or foe?

それは友達、それとも敵?

 

I rise above or sink below

僕は浮いたり沈んだり

With every time

毎回

You come and go

きみは来ては去る

Please don't come and go

お願い、来て去ったりしないで

 

Well, I know what you're doing

そう、僕はきみのしてることが分かってる

I see it all too clear

とてもはっきり見えるよ

 

 

*had me goingで「してやられる」「騙す」みたいな感じで、「きみの言うことを信じるところだった」みたいな。

*I'm kidding with youで「僕はきみを騙す」だから、Don't know who I'm kiddingで「僕は誰をだまそうとしているのか分からない」なのかな。

*What's it all aboutで「これって一体何のこと?」だそうです。

*動詞のreasonは「理論的に判断する」「納得する」「議論する」「推論する」「説得する」だそうです。

*Think it overで「よく考える」という意味みたいですが、「それを終わりにする」とも解釈できるし、どっちなんだろう。。

*文章のつながりがよく分からない箇所が多くて…。

You really can't be serious If you have to ask me why

理由を聞くなんて正気じゃないよ

なのか、

If you have to ask me why I say goodbye

もしきみが理由を知りたいんだったらぼくはさよならだからって言うよ

なのか?

*I've come to find I may never know Your changing mind

は、「きみが心を変えることを僕が知ることはないだろうと分かるために来た」だろうか。でもその後のIs it friend or foe?とのつながりがよく分からん…。このitって何を指すの?

*Is it friend or foe?の意味が分からん…。itってなんだよ。youじゃないんか。しかもaとか冠詞もないし。普通だったらAre you a friend or foe?だよね?それとも「friend or foe」でワンセンテンスだから冠詞がないのかな。。「きみは敵なの、味方なの」って読んでたけど、普通に考えるとIs itなんだから、itは前の文章をそのまま受けて…ってことになりますよね。で、itで指し示す何かが不加算名詞に相当するから冠詞がないんだろうか。てか歌詞なんでメロディに載せるために詩をいじってるだけなのか、ちゃんとした英文として意味を取るべきなのかが分からない。。

 

glee S4でフィンとブレインがデュエットしてる曲です。NYで華やかな生活をしてるレイチェルとカートに捨てられた、みたいな2人の気持ちと思って聴くと切ないですね。まあ、「悪いのはきみだよ」みたいな歌詞はちょっとうーんって感じですけど(笑)。だけど、「きみに愛されてないのは分かってる、もう終わりにしたいんだ、だけどどうしても考えてしまうよ」って思いを重ねながら聴いてました。

*この2人のデュエット何気に好きだ。S3ボーナストラックのGood Riddanceとこの曲しかデュエットないなんて信じられない…。Finchel & Klaineで歌った曲ももしかしたらDon’t Speakだけ??あー、フィンが生きてたら多分フィンとブレインのデュエットも、Finchel & Klaineの歌ももっとあったかもなって思うととても悲しいです…。こんな悲しい曲だけじゃなく、レイチェルとカートに向けた2人のラブソングのデュエット聴きたかったな…。

 

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意訳

 

きみの気持ちは分かってる、はっきり分かるんだ

涙をキスで拭うと、ただ塩気だけを感じる

 

きみは僕をその気にさせたよ

星に願ったりして

だけどきみを包むブラックホールは僕には重すぎる

 

きみは混乱して迷ってるんだと信じてた

僕にそう思わせるなんて簡単だっただろ

赤子の手を捻るみたいにさ

 

もう確かめることも隠すこともない

まさか本気で言ってないよね

理由を知りたいなんて

そんなの、たださよならだよ

 

だって僕は息もできない

空気がなくなったみたいだ

きみにまだ愛されてるって思うことで僕は誰を騙そうとしてるんだろう

 

あと一日だけって思いながら馬鹿みたいに立って待つことだってできたけど

それに意味があるなんて思えない

僕が心を捧げる価値があることだって

 

みんなに「どうなってんの」って聞かれるよ

前はよく分かってたんだけど、今は何て返していいか分からない

 

痛みしか感じないのにどうして引き寄せられるんだろう

もう議論の余地なんてない、悪いのはきみなんだ

変えられない事実だよ

 

だって僕は息もできない

空気がなくなったみたいだ

きみにまだ愛されてるって思うことで僕は誰を騙そうとしてるんだろう

 

あと一日だけって思いながら馬鹿みたいに立って待つことだってできたけど

それに意味があるなんて思えない

僕が心を捧げる価値があることだって

 

それなのに僕はまだ考えてる

どうしても考えてしまうよ

 

振り向いてはもらえない、それを確かめに来たんだ

僕にとっていいのか悪いのか分からない

 

きみは近づいては離れてく

そのたびに僕は浮いたり沈んだり

お願いだよ、僕をそんな風に振り回したりしないで

 

だって僕は息もできない

空気がなくなったみたいだ

きみにまだ愛されてるって思うことで僕は誰を騙そうとしてるんだろう

 

あと一日だけって思いながら馬鹿みたいに立って待つことだってできたけど

それに意味があるなんて思えない

僕が心を捧げる価値があることだって

 

それなのに僕はまだ考えてる

どうしても考えてしまうよ

 

そう、きみの気持ちは分かってる

はっきり分かるんだ

 

 

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ぼくの短歌ノート-「暗示」 感想

講談社 穂村弘 著 「ぼくの短歌ノート」 感想の注意書きです。

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 暗示

 

 孫を蠅に置き換えて詠むってすごいよなぁ…。蠅なんて思いもよらないもん…。

 この回も面白いです。「暗示」なので、解説と私の受け止め方が違ってたりして面白かった。

 

三階の教室に来たスズメバチ職員室は一階にある (ハレヤワタル)

 

って、解説では

 

生徒の危機に先生は気づかない。騒ぎが起こってから駆けつけても間に合わない。(中略)スズメバチ」とは生徒のひとりひとりを襲う運命が可視化されたものではないか。

 

とあって、そうかーって思いました。私は、直感的に、一階の職員室に行けばいいのになんで行かねえんだよって読んでたから(笑)。てかスズメバチが教室に来たくらいでいちいち先生呼ばなくない?先生呼んでどうすんの?イケてる系女子が「きゃあ」って叫んでその他は無言で逃げ回り、誰かが追い出して英雄視されるか勝手に出てくって感じでは(笑)。

 

 だけど、

 

廃品を集めてめぐる軽トラはわたしの前でゆっくり止まる (鈴木美紀子)

 

なんかはあからさますぎて「暗示」とは言わないのではないかと感じましたが。。

 

「わたし」が「廃品」だという感覚の暗示

 

と解説にはあったけど、他にどんな読み方ができるのか逆に分からん。

 とはいえ、

 

その時刻なれば未だにはためきを弛めぬ旗を降ろさむとする (丹羽利一)

 

なんかは暗示的すぎてどう読めばいいのかも私のような若輩者には分かりません…。でも、「読み手の数だけ解がある」って解説にあったから、自分的な「その時刻」「旗」を当てはめて読んでもいいということなのかも。

 

 

体育館のトイレでうちあけられたとき「あたしも」って言えなくてごめんね (yuifall)

 

ぼくの短歌ノート-「ドラマ化の凄み」 感想

講談社 穂村弘 著 「ぼくの短歌ノート」 感想の注意書きです。

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ドラマ化の凄み

 

 この章は大西民子特集なのですが、この人といえば

 

かたはらにおく幻の椅子一つあくがれて待つ夜もなし今は (大西民子)

 

のイメージだったので、

 

わが使ふ光と水と火の量の測られて届く紙片三枚 (大西民子)

 

にはマジで驚きました。こんな歌作ってたんだ!面白すぎる!これってネタなの?それともマジなの?この人すごいな。解説も面白いです。

 

内容を要約すると→水道光熱費の請求書が来た。

光熱費の請求書が言葉の力によってこんな見事な歌になるとは、と驚かされる。ここまでいくと、ドラマ化というよりもむしろ形而上的異化の趣がある。

 

とあります。形而上的異化…。この人にかかれば何でも詩にしてくれそうな魔力を感じますね…。

 他にも

 

日のくれに帰れる犬の身顫ひて遠き沙漠の砂撒き散らす (大西民子)

 

(解説には)

→犬がぶるぶるした。

 

って書いてあって笑った。犬のぶるぶるが詩に!!今までのアンソロジーとかで全然触れてこなかった系統の歌を読めてよかったです。

 

 それからこれは有名な短歌ですが、

 

妻を得てユトレヒトに今は住むといふユトレヒトにも雨降るらむか (大西民子)

 

の「ユトレヒト」は虚構らしく、穂村弘同様私も驚きました。

 この人の歌って、長年別居した夫と離婚して夫が再婚しているという事実を背景にどうしても読んでしまうので、ああ、元夫は再婚してユトレヒトにいるのか、って今まで普通に思ってた…。オランダか…。でも嘘なのか…。いや、自分だって短歌内で嘘つきまくりですけど(というか自分を主人公に設定してないんですけど)、ユトレヒトだけが嘘っていうのは、音重視なのかなぁ。「ユトレヒト」=「雨がしとしと」みたいな。

 なんつうか、

 

そのときに付き合ってた子が今のJR奈良駅なんですけどね (伊舎堂仁)

 

とはわけが違うじゃん…。「現実をドラマ化する大西ワールド」か…。光熱費の請求書を詩にしちゃう人の魔力は底知れませんね。。

 

 自分なりの短歌作ろうと思って色々考えたのですがマジで駄作しかできませんでした。テーマも中身も凡庸だし、何度か別のものを作ろうと試みたのですがどうしてもうまくいかず…。まあ、大西民子レベルを目指したって無理だな、と潔く諦めて駄作のまま載せときます(笑)。

 

 

サンダルを振るたびまたもまたも落つ密輸入せし楽園の砂 (yuifall)

 

ぼくの短歌ノート-「身も蓋もない歌」 感想

講談社 穂村弘 著 「ぼくの短歌ノート」 感想の注意書きです。

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身も蓋もない歌

 

 こういう「そのまんまやろ」シリーズの歌、面白いですよね…。特に今回は、雑誌の短歌欄に投稿されてきたというアマチュアの人の作品、

 

ハブられたイケてるやつがワンランク下の僕らと弁当食べる (うえたに)

 

の歌の身も蓋もなさに打ち震えました。スクールカーストや…。高校生かな。自分を「ワンランク下」と見据える冷静なまなざしもありつつ、でも「イケてるやつ」の「ワンランク下」ってことはそこそこの上位グループという自覚もありつつ、自分ももしかしたらさらに「ワンランク下」へ行く可能性もあるかもという予感をはらみつつ、「イケてるやつ」を受け入れて一緒に弁当を食べてるわけですね。面白いなー。

 

 後半は死や社会批評的な目線を孕みつつも私情を排した身も蓋もなさですが、

 

「百万ドルの夜景」というが米ドルか香港ドルかいつのレートか (松木秀)

 

疑わずみな鶴と見る折り鶴は現実の鶴には似ていない (松木秀)

 

とかめっちゃ好き。そうだなぁ、って感じ入りつつ笑っちゃうわ。そこ突き詰めて考えちゃうのか、みたいな目線ですね。みんなが分かってるけどスルーしているあたりに切り込んでくると。たくさん紹介されているのですが、読んでいてニヤッとします。まあ、時事ネタとかエンタメネタとか、よく分からないのもあるのですが…。分かればもっと楽しいだろうな。

 

 

イケメンがやってるだけの小説を頭痛がするほど読みまくる秋 (yuifall)

温暖化 世界が海に沈んでも地球は別に困りはしない (yuifall)

 

ぼくの短歌ノート-「感謝と肯定」 感想

講談社 穂村弘 著 「ぼくの短歌ノート」 感想の注意書きです。

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 感謝と肯定

 

 これはある意味「素直」とか「身も蓋もない」の系列ですね。

 

座るとき立ち上がるとき歩くとき ありがとう足そして重力 (東直子

 

すべての今にイエスを告げて水仙の葉のようなその髪のあかるさ (加藤治郎

 

解説には

 

歌人の多くは資質的に世界を丸ごと受容する力が強く、塚本邦雄や葛原妙子といった少数の例外を除いて、それに対して異議申し立てをする感覚が稀薄だと思う。

 

とありました。

 そうなんかなぁ。いや、もちろん私ごときが反論できるほどの材料はないのは分かってるんですけど。確かに雪舟えまの歌とか全肯定系ですごい可愛いなーって思うけど、歌人の多くが世界にありがとうな感じかと言われると分からん…。なんかピンと来ないです。そういう歌の方が作るの難しそうな気がするし。。悲しい…よりも、嬉しい!ありがとう!な歌で傑作作るのって大変そうじゃないですかね?

 

 文豪たちの破天荒な生活を書いた本が好きなのですが、その中でも特に嵐山光三郎の『文人悪食』が好きで、その斎藤茂吉の章で、以下引用

 

 茂吉は青山脳病院院長であり、精神科医として日本を代表する権威であった。社会的体面は当然ながら必要である。日本の歌人は『万葉集』の時代から社会的敗者の伝統があり、敗者でない人は、みな不幸になりたがるという傾向がある。そんな文学風土のなかで茂吉が最後まで崩れなかったことは、むしろ奇蹟といっていい。(中略)歌人としてぎりぎりの断崖に立っても、医者としての茂吉は敢然として自立して、乱れるところはなかった。

 

とあります。一方で石川啄木なんかはそもそも私生活からしてしっちゃかめっちゃかなのですが(笑)、なんか、文学者とか詩人とか歌人とかとにかくアーティストってどこか不幸っぽいところがあるのが売りなんじゃないのかなーみたいな…(←漠然とした感想)。モーツァルトとか一握りの人だけじゃないの?僕天才!ハッピー!で一生を終えられるのって(笑)。イケメンでモテモテだったリストも晩年は鬱病だったらしいし…。

(※とか書きましたけど、モーツアルト、晩年はわりと不幸でした。。一生ハッピーだったのは画家のルーベンスですね)

 

 ていうか前回の「システムへの抵抗」で、「裡なる死こそが詩の故郷」「システムは裡なる死をも同時に殺してしまう」と言っているのに、今回「歌人は資質的に世界を丸ごと受容する力が強い」というのはなんだか矛盾があるような…。てことはシステムをも受容してしまうの?そうなると「裡なる死」なるものは排除されてしまうけどそれはいいの?

 

 私見ですけど、やっぱり幸せよりも不幸の方が芸術のネタにはしやすく、かつその不幸を弄んでどこか戯画化したところに共感が生まれるのではないだろうか。そして、ここで取り上げられているような「感謝と肯定」は、灰色の中で際立つ輝きだからこそ掬い上げたい何かなのではないだろうか。加藤治郎の歌なんて、不意に彼女の髪が太陽にきらめいて見えて、ああこの瞬間だけは全てを肯定したい、という刹那の輝きだったからこそ価値のある「今」、ということではないかと思われます。

 

 ちなみにですけど、医者として権威だった斎藤茂吉が天然短歌作ってて、人間のクズの石川啄木が「われ泣きぬれて 蟹とたはむる」なのが面白いよなって思いました。この歌、上述の『文人悪食』では、

 

だが、なに、泣きたいのは宮崎郁雨と金田一京介のほうだろう。

 

と突っ込まれてて笑った。啄木については、

 

 啄木の歌は、誰にでもある実生活の挫折した隙間に、殺気をもって斬りこむのだ。誇張された想念は、ここでは圧倒的な力を発揮する。啄木はハイカラである。辛酸をなめつくす貧困のなかからは、啄木のようなハイカラな歌は生まれない。(中略)啄木の分不相応な贅沢と傲慢、あるいは過度の貧乏幻視は、あたかも言葉の化学反応のように結合して、透明の結晶となった。

 

と書かれています。この本めっちゃ面白いのでお勧めです(笑)。

 

 

50メートルプールに落としたコンタクト片目拾ってくれてありがとう (yuifall)