「一首鑑賞」の注意書きです。
303.イヤフォンのコードに手繰るiPod nano わかさぎを釣る要領で
(光森裕樹)
砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで黒瀬珂瀾が紹介していました。
この歌は2008年12月初出だそうです。長い短歌の歴史の中では iPod nano は新しいデバイスだし、イヤフォンのコードを手繰る仕草をワカサギ釣りに例える比喩なんて面白いのですが、それから16年経った今(2024年3月に書いてます)、すでにこの歌の内容すら古くなってしまっていることに驚きます。iPod nanoどころか iPod touchすら廃盤になり、またイヤフォンはコードレスが主流になってます。
鑑賞文にはこんな風に書いてました。
私たちの生活はテクノロジーの変化によって姿を変え、身の周りは次々と新商品にとって変わられる。そうして情報やデータの価値、活用法も変化し、それに伴い、私たち自身の感性、抒情にも変化が訪れる。光森の一首は、そうした新技術との出会いと、ずっと変わらない自然の姿とを、対立するものとしてではなく、渾然一体となるべきものとして描く。時代の流れが招聘した、新しい抒情を光森は掴み取ろうとしている。それはもちろん、長きにわたって蓄積された短歌の修辞を充分に体得している作者だからできることだ。
北海道では氷上のワカサギ釣りが完全解禁になったころ。ワカサギを釣りながら、「これって、iPod nano を手繰るようだな」と、逆の方向から抒情を感じる人も、表れてくるのだろう。
ワカサギを釣りながら、「これはイヤフォンを手繰るようだな」と思ったことがある人もいるのかもしれない。そんなことをしたこともないままワカサギ釣りをする世代も出てくるのかもしれない。そう考えると面白いですよね。イヤフォンのコードは廃れてもワカサギ釣りは続いていくんだな。
ドア二枚隔ててきみの歌を聴くbluetoothのフィールドのなか (yuifall)
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