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「一首鑑賞」-304

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

304.トラックの屋根に積もった雪がいま埼玉県に入って行きます

 (相原かろ)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」コーナーで山下翔が紹介していました。

sunagoya.com

 これは「ただごと歌」の系統なんだろうか。それともそういうわけではないんだろうか。多分トラックは北から南へ向かっていて、埼玉県にはなかった雪を運んでくる、と。そんな感じかな。これは誰視点なんだろう。神視点?それとも隣で走っている車に乗っている人視点かな。高速道路とか走ってる時、「〇〇市」とか「〇〇県」って看板見ると嬉しくなってしまいます。そういうノリで、「あ、埼玉に入ったー。あ、雪載ってる」みたいな感じだろうか、って思いながら読んでいたら、鑑賞文はめちゃくちゃ面白かったです。

 

川端康成『雪国』は、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」とはじまる。「夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった」とつづく。この「長い」トンネルを抜けるというところに、物語世界への導入があって、「雪国」のはっとするような光景にわたしは立ち会う。

(中略)

実況解説さながらの「入って行きます」という敬体が、どこか飄々としたうたのわたしを映し出す。このあっけなさがリアルであり、と同時に、それはどこかおそろしくもある。「長いトンネル」もなしに〈境〉をこえていいのか、という、薄ら寒い予感がのこる。

 

 ああー、そうか。「境界」を超える、ということか。

 

『准教授・高槻彰良の推察』(澤村御影)というラノベがあって、新刊出ると読んでます。都市伝説とか怪異にまつわる民俗学みたいな内容が面白く、そこで「境界」というものが取り上げられます。つまり、怪異は「日常」と「非日常」の境界で発生するものだと。

 もし「国境の長いトンネル」が境界を示すなら、多分それは「日常」から「非日常」への入り口を示すんだと思う。だから、この「雪」は「非日常」の存在です。多分文脈的にも、埼玉県にとって雪は非日常に属するものなのかもしれない。それが、トラックに乗って、「トンネル」もくぐらずにあっさり入ってきてしまう。それが「薄ら寒い」と。この読み方すごすぎてほとんど感動しました。

 

 この歌から川端康成の『雪国』を薄ぼんやりと連想するのは私にもできますが、ここまで読めるかなぁ。読めないな。何度も書くけど、鑑賞文読むのとても好きです。

 

 

ほんとうは「つながる」ことはこわいこと愛と正義に吸い込まれそう (yuifall)