いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

読書日記 2025年2月12-18日

2025年2月12-18日

三上延ビブリア古書堂の事件手帖5 ~栞子さんと繋がりの時~』

三上延ビブリア古書堂の事件手帖6 ~栞子さんと巡るさだめ~』

三上延ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~』

三上延ビブリア古書堂の事件手帖 スペシャル掌編』

・オンリー・ジェイムス(冬斗亜紀訳)『花にして蛇シリーズ(1) アンヒンジ』

マイケル・オンダーチェ土屋政雄訳)『イギリス人の患者』

・M・W・クレイヴン(東野さやか訳)『ボタニストの殺人』上下

 

以下コメント・ネタバレあり

三上延ビブリア古書堂の事件手帖5 ~栞子さんと繋がりの時~』

三上延ビブリア古書堂の事件手帖6 ~栞子さんと巡るさだめ~』

三上延ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~』

三上延ビブリア古書堂の事件手帖 スペシャル掌編』

 以前途中まで読んでいたと思っていたのですが、最後まで読んでいたっぽいです。2人がどうなったかあまり覚えていなかったのですが(まあ、どうせうまくいくんだろうとあまり気にしていなかったのかもしれない)、最後の方のトリックに見覚えがあります。ラストの三つ巴バトルは『地雷グリコ』(青崎有吾)なみの頭脳戦を期待していたので肩透かしでしたが、伏線は全て回収されハッピーエンドに終わりました。意外に短かったです。どっかわりと遠くの家に出張で宅買いに行って2人で泊まることになり、その家で実の親と対決みたいな話なかったっけ…と思っていたのですが、それは三浦しをん『月魚』のエピソードでしたね。

 娘を主人公にした続編シリーズあるみたいですがとりあえずいいや。次セールしてたら考えます。

 

・オンリー・ジェイムス(冬斗亜紀訳)『花にして蛇シリーズ(1) アンヒンジ』

 これはつまんねー。モノクロームロマンス文庫の海外BLです。例によってレーベル買いしてるので買った本ですが、つまんねー。

 ちょっと前にXで「女の理想の男は白馬の王子様ではなく、私だけを守ってくれる殺人鬼」というワードがバズってましたが、まさにこれです。白馬の王子様(大金持ちの息子で大人気ファッションモデル)兼サイコパス殺人鬼のスパダリ攻がトラウマ持ちでトレーラー暮らしのゲイ男性を溺愛する話です。児童ポルノがらみのサスペンスを絡めて話が進みますが、サスペンス部分は取るに足らない内容で、読みどころが分からん。BLミステリのミステリ部分がつまらなくても許せるのは恋愛小説だからじゃん。BLの醍醐味は恋愛が進展していく部分ではないですか。しかし即落ち二コマ並みの展開の速さで「俺は誰も愛せない…」とかいうサイコパス設定が馬鹿馬鹿しくなるほど一瞬で恋に落ち、オメガバースかよってほど意味もなく強く結びつくので恋愛面での面白さはゼロ、あとはソフトポルノと3流サスペンスが交互に挟まるという退屈すぎる展開…。『校閲ガール』(宮木あや子)でエロミステリ書いてる大御所のおじさん出て来たけど、それ思い出したよ…。「おじさま…」とかなんとか言ってる女子高生とおっさんの濡れ場が挟まりつつ展開するミステリ小説を主人公が「何じゃこりゃ」とか言いながら校閲してんの。ほんと何じゃこりゃって感じでした。そもそも白馬の王子様も殺人鬼もスパダリも好きじゃないし全然ぐっとこねー。

 モノクロームロマンス文庫、アドリアン・イングリッシュシリーズとかヘルハイ、ドラッグチェイス、叛獄の王子などわりと骨太のサスペンス&ひねくれた男たちの恋愛が楽しかったのに、最近の作品どれもハズレだなー。まあ続きも買うとは思うけど、文句も言うと思います。

 

マイケル・オンダーチェ土屋政雄訳)『イギリス人の患者』

 ゴールデン・マン・ブッカー賞受賞作です。詩的散文と帯にあり、危惧していた通り私には読みにくかったよ…。『風立ちぬ』(堀辰雄)みたいな感じです。美文で切々と恋愛が綴られるのですが、まー、恋愛だよね…、っていう。特に『イギリス人の患者』に関しては、不倫だし。正直恋愛パートは読むのダルくて、これは美文に酔える人じゃないと無理だな、と思いました。この小説は好きになる人とそうでない人が真っ二つに分かれると言われているらしく、「最初の十ページで挫折する人とハマる人が決まる」「合う人にだけ深く刺さり、そうでない人はそれなりにすら楽しめない」と評されているのだとか。ハマらなかった側にはかつて「砂漠に3年も埋まっていた飛行機が飛ぶはずがない…」と呟いた大御所作家がいたそうなのですが、“患者”の過去は半分くらい嘘や脚色なのではないかと疑っています。積極的な嘘ではないにしても、過去を美化しているというか。それがあの美しい文章に現れているのでは。まあリアリティという点では冒頭から重症熱傷の患者が補液も抗生剤もなしに横たわって口きいてる時点でリアルではないので、リアリティを求める人は確かに最初の10ページも読めないかもしれない。しかし私は深く刺さりもしなかったけど多少は楽しめたので、いずれにせよ本質が理解できていないというかよい読者ではないと思いました。

 4人の人物がいて、男性3人と女性1人、白人3人と有色人種1人が登場し、皆それぞれ違う立場で出会い過去を語り、それぞれのストーリーが相対化されます。正直、恋愛に関係ない部分の方が面白くて、特にキップのパートが一番読みやすかったです。しかしラストの原爆のくだりは、本当にこんなこと思ってくれるインド人がいるのだろうかと思った。作者はスリランカ生まれのカナダ人らしいので、生まれも育ちも植民地国です。でも見た目白人だし、宗主国側の人間としてスリランカに生まれ育ったのではないのだろうか?原爆に関しては、連合国側の立場から、例えばオーウェルヴォネガットが激しく批判しています。しかし植民地側の立場から批判した作品を読んだ記憶はなくて、だって日本は有色人種であっても帝国側じゃないですか。爆弾を扱う職業人として原爆への激しい嫌悪があったとしても、それが当時の日本への憎悪を上回るだろうか?「茶色い肌の人間に爆弾を落とすのは皆イギリス人だ」と言って激昂しますが、インド人が日本人と人種的な意味で連帯するとは思えないし…(なんなら日本人も、自分たちが「茶色い肌の人間」だとは思っていない)。これはむしろ白色人種側から見れば皆同じでしかない解像度の低さなのでは?ドイツ人もユダヤ人も白人だから同じだろ、と言うくらい乱暴では?

 しかし、この部分がこの作品の本質なのかというと多分そうではないのだと思う。でも本質、核となる部分は美しい文章で覆い隠されていて読み解くのがとても難しいです。むしろこの美文は何らかの目くらましなのではないかと感じます。だって過去の不倫を美化することそれ自体はとても陳腐ではないですか。残念ながら今のところこの文章を読み解いて本質を見抜く力は私にはないので、とりあえず読んだ…って感じでした。

 

・M・W・クレイヴン(東野さやか訳)『ボタニストの殺人』上下

 新刊出ていたのに気づくのも遅れたしその後しばらく積んでいて読むのも遅れたのですがポー刑事シリーズの日本では最新作です。前回までの内容を完全に忘れていたのですが面白かったです。ジェフリー・ディーヴァー並みの勢いとどんでん返しが楽しめます。ただ、あらゆるトリックが全く現実的ではないし動機も意味不明だしミステリとしては正直いまいちで、面白かったのは世間の嫌われ者を派手に殺す、SNSで殺す相手を選ぶ、という現代的な過激さでしょうか。解説にもある通り、振り切ったエンタメだと思う。

 日本人として突っ込むとしたら、西表島漢民族を10人も連れて白人が上陸したら目立ちまくるし記憶にも記録にも残りまくるのでは…。どこからどうやって漢民族を拉致しどうやって西表島に渡りどうやってそんな長時間滞在ししかも日本の記録にどうやって残らなかったのか全く触れられておらず、アジアは未開の地だからその辺は適当でもどうにかなるやろ☆みたいな感が…。しかもそこでそんなに死体が見つかったら日本中大騒ぎだし、死体は冒頭で発見されているので、イギリスで事件が起きてる頃には西表島事件を世界中が知っているのでは…。日本が江戸時代なみに鎖国しているとしか思えないほど情報が伝わっておらず、これほど現代技術をふんだんに取り入れたエンタメでその辺無視されてるのが謎でした。あと日本にどれほどたくさんフグ料理店があろうとも、フグの毒はそんな簡単に手に入りません。アジア舐めてんのか?とりあえず現実的なツッコミどころを完全に無視すればとても面白いので、せめて無理に自分のテリトリーから出ず欧米圏だけで話進めてくれ…と思った。