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04x20 - Terra Incognita 感想

 POI感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

 何度も観て、そのたびに胸を衝かれるエピソードでした。

 

 冒頭、いつものナレーションなしで銃声と呻き声が響き、その後S2前半くらいかな?と思われるシーンが挟まります。リースはフィンチと車に乗っています。後部座席のフィンチはベアーのことをまだ「君が連れて来た野獣」と呼んでいて、希少な本を噛まれることに愚痴を言っている。「弁償する」と言ったリースにフィンチはこう返します。「君は分かっていない。世の中には代わりがないものもある」

 そしてカーターが車に乗り込んできて、「代わりがないもの」とは何なのか分かったところでストーリーが始まります。

 

 この後しばらく、「車の中でカーターと張り込みをする回想シーン」と「現実」、それに「今のリースの対象者をかつてカーターが追っていた過去のシーン」が混じり合って展開します。

 

 現実に起きているのは2つの事件です。1つ目はイライアスの手下とブラザーフッドが衝突して死者が出た事件。単純な殺人事件として処理されていたのですが、問題はマシンが番号を出さなかったこと。偶発的な事件だったのか、それともマシンに不具合が起きているのか?もう1つはギャングとは関係のない「番号」で、かつてカーターが捜査していた殺人事件の容疑者、チェイス・パターソン。チェイスが外国へ逃亡したため事件は未解決のままでした。

 リースはカーターの私物ボックスから、パターソン事件のファイルと自分宛ての封筒を見つけます。封筒の中にジェシカと自分の写真を発見し、自分ひとりで事件と向き合うため、ファスコとフィンチにギャング事件の捜査を任せて単独でチェイスを追うことを決意します。警察署、パターソン一家が所持していた高級アパートメントのペントハウス、そしてチェイスが薬物を吸うのに使っていた山小屋と、リースが事件を追うたびに、同じ場所を捜査する過去のカーターのシーンが重なります(そういえばこの時カーターの上司はターニーだった。後でカーターを嵌めるHRの一員です。まともな警官風だったのになー…)。

 携帯の電波も届かないような山小屋で、カーターは人の気配を感じる。「チェイス?」と呼びかけますが、その時辛うじてターニーから通信が入り、「チェイスは外国だ、すぐ戻れ」と別の事件に呼び出されます。携帯はすぐに圏外に。カーターはそれ以上の捜索を諦めて帰ります。リースもチェイスを追って同じ山小屋に辿り着きます。そこにはチェイスがいました。でも、「ここにあるものは僕の物じゃない」と彼は言う。そして突然、背後から銃撃されます。右肩を撃ち抜かれて倒れるリース。犯人はパターソン父の非嫡出子だった。母親と自分を捨てた父親を恨んで一家を皆殺しにし、外国から戻ってきたチェイスを最後の標的と定めて追っていたのです。

「あの時は警官を殺せなかった、でもあの女刑事は結局撃たれて死んだらしいな」と笑う犯人。「死ぬまで見守る」と言ってチェイスには薬物を飲ませます。リースは風雪吹きすさぶ山小屋の外に引きずり出されるのですが、最後の力を振り絞って犯人を射殺します。

 

 これらのシーンと入り混じるように、「車の中でカーターと張り込みをする回想シーン」が挟まります。最初は完全に「回想シーン」と思って見ていたのですが、後から考えると様子がおかしい。やたらと「寒い」と言ってリースは暖房の温度を上げたがり、音楽をかけようとするとカーターが「眠くなるから」とラジオを止めます。監視していたはずの対象者の姿が見えなくなっても会話を止めない2人。そのうちバーの電気も消え、あたりは真っ暗になります。会話の途中にファスコが乱入してくるのですがすぐに出て行ってしまい、カーターとリース2人の会話が延々と続く。

 会話の内容も、最初は「人が死ぬ前に呼び出されるのは慣れない」とか「書類を書くのが大変」といった当たり障りない内容かと思われたのですが、ところどころでもっと核心に触れるようなやり取りがなされます。

 

「たくさんの死体を見てきた。みんな、死ぬなんて思わなかったって顔してた」

「軍で何が得意になったの?」「命令に従うことだ。得意になりすぎたよ」

「引退後何がしたい?」「あたしはビーチに行きたい」「なぜ今行かない?」「気が狂うから。テイラーもいるし。あなたは?引退したらどうするの?」「俺たちみたいな存在には“後”なんてない。君はビーチへ行かないし、俺に将来はない。俺たちはそういう人間なんだ」

「君はなぜここへ来た?」「あなたに呼び出されたからよ」

「色々あって変わったの」「人は変われない。はじめから君はこういう道を歩む人間だったんだ」「人は変われない?最初出会った時あなたは飲んだくれのホームレスだった。あなたはどんな道を歩く人間なの?」

 

 ここでファスコが乱入してきます。「メガネに頼まれてディナー持ってきたぞ」2人の微妙な雰囲気を察し、また「ホットドッグはディナーじゃない」とあしらわれ、すぐに出て行きます。

 

「物事はなるようにしかならないんだ」「へえ、で、あたしとはどう付き合うの?」「どういうことだ?」「友達には2種類いる。楽しく話す友達と、心の中を分け合う友達。あたしをどっちにするかはあなた次第。でもあたしは尋問官だよ、嘘ついても分かるからね」

 

 何かがおかしい。実際に話したことを思い返しているようでもあるし、こんな話をしていたはずがない、後付けならばあまりにもひどい、と違和感が増していきます。

 そして現実でリースが撃たれ、犯人を撃ち殺した後で、また車のシーンに戻る。

 

「寒くないか?」

 

 しきりに寒さを気にするリース。カーターは苛立ったように、「今天気の話をしてた?」と返す。

 

「何の話がしたいんだ?」「話がしたいのはそっちの方でしょ。初めて出会った日、午前3時に、地下鉄でどこへ行くところだった?ブルックリンブリッジじゃなかったの?」

 

 死ぬつもりだっただろうとほのめかすカーター。リースは懐から写真を取り出して差し出します。

 

ジェシカだ」

 

 ここで気づいた。これは全部、回想シーンなんかじゃなかった。リースの見ている幻です。だってジェシカの写真はずっとカーターが持っていた。リースが持っているはずがない。カーターに見せたはずがないんです。

 

 この後の会話、リースとカーターの絆を強く感じて何度も何度も見返してしまう。

 

She liked the rain, sleeping in.

彼女は雨が好きだった。朝寝坊が好きだった

She told really bad jokes and called me out when I pretended to enjoy them.

彼女のジョークは本当に下手くそで、俺がそれを楽しんでいる振りをすると責めるんだ

And her laugh--

そして彼女の笑い声…

God, I loved her laugh.

俺は彼女が笑うのが本当に好きだった

You can't blame yourself for what happened to her, John.

彼女に起こったことで自分を責めるのはやめるのよ、ジョン

It's not a question of blame. It's a fact.

責任の所在は明らかに俺だ。疑いようのない事実だ

She needed me, and I left her behind.

彼女は俺を必要としていた。そして俺は彼女を置き去りにした

Can I ask why?

どうしてか教えてくれる?

I thought I wasn't gonna make it back alive.

俺は自分が生きて帰れないだろうと思ったんだ

She deserved a better life than waiting to become a widow.

彼女はただ未亡人になるのを待つよりももっと良い人生がふさわしい

She deserved happiness.

幸福がふさわしかった

Not quite how it worked out, though.

思ったようにはならなかったが

Sorry, John.

かわいそうなジョン

But I'm not buying it.

でもそんな話は嘘だね

You may be able to fool your police shrink with that version, maybe even yourself.

あなたはそのヴァージョンのお話で警察のカウンセラーは騙せるのかもしれないし、自分自身さえ騙せるのかも

But not you, huh?

でも君は騙せないと?

No, you're forgetting, I was over there too.

そう。あなたは忘れてる。あたしも戦地にいたの

You'd already been deployed once when you broke things off.

彼女と別れたのは、一度軍に配属された後のことね

Hell, you were already active military when you met, so you want to tell me what really happened?

彼女と出会った時のあなたはすでに訓練された軍人だったじゃないの。本当は何が起こったか話したくないの?

What does it matter now?

今それが問題か?

It matters because I'm afraid you're gonna use this poor woman to shut everybody out right until the bitter end, because whatever it is you're not telling me, that's the real reason why you're alone, John.

そうよ。だってあなたは苦い結末を迎えるまで全員を心から締め出すために、このかわいそうな女性を利用してる。あなたがあたしに話さない何かが、それこそがあなたが独りぼっちな本当の理由なの、ジョン

 

ジェシカは雨が好きだった。朝寝坊が好きだった。ジョークが下手で、楽しんでるふりをするとすぐに見抜いて責めるんだ。そして笑う…。彼女が笑うのが本当に好きだった…」

 

 リースとジェシカのフラッシュバックシーンはほとんどが辛いシーンばかりだった。メキシコのホテルのベッドで恋人同士の時間を過ごしているあの一瞬だけが幸せな時間で、そのほかは9.11を一緒に見たこと、空港での決定的な別れとジェシカの婚約、そして死の前の電話と辛いシーンばかりが描写され、幸せな恋人同士だった時間をずっと知らなかった。でもこのリースの言葉で初めて、ジェシカがどんな人だったのか、あの笑顔がどれほどかけがえのないものだったのかがひしひしと伝わってきて胸が痛みました。アイリスとのカウンセリングシーンでは「リースの内面を雑に言葉で描かないでくれ」って思ってたけど、たった数行の台詞だけでこれほどリースとジェシカのことが伝わってきてすごいと思ったし、リースの口から出た言葉だからこそ意味があるんだと初めて感じました。そして、これは相手がカーターだったからこそ引き出せた言葉だったと思います。彼女と別れた理由について「嘘だね」と断言するカーター。「ジェシカと別れたから孤独になったんじゃない。人を心から締め出す言い訳にジェシカを使ってる」と。

 

 S1からS4まで観ていて、S2S3ではジェシカの回想シーン出てこないんですよね。で、リースはカーターを愛していると感じたし、ジェシカを思い出にして先に進もうとしているのかなって感じてた。S2のラストで、ジェシカの番号が出ていたことをリースが知るシーンと、フィンチがジェシカのことも含めてリースの人生に深く関わっており、それを深く後悔し謝罪するシーンがある。リースはそれを許して、S3では先に進もうとしているのかなと私は思っていました。でもS4で再び、アイリスと向き合う過程でジェシカの話が出てくる。「前に進むには悲しまなくちゃダメ」と言うアイリスに、「悲しみ方が分からない」と答えるリース。

 このシーンを見た時は、結局「恋愛」をベースに物事を考えた時、次の「恋愛」をする時になってようやくジェシカを吹っ切るというストーリーにするつもりなのか、って思った。でも、この回見て自分の考えは間違っていたと思いました。カーターとの間でまだジェシカのことを語っていなかったから、S4で再びジェシカの話が出てきたんだ。アイリスは関係ない、S1E21の伏線が回収されていなかったからです。ジェシカの件にけりをつけるのは、アイリスの役目じゃない。カーターの役割だった。そしてそれはなぜかと言うと、「恋愛」の終わりを悲しんで吹っ切るという単純な話ではないから。「彼女を思って別れた、そして彼女は亡くなった、後悔している」ってことじゃない。「もともと心が閉じていた、だから彼女を捨て、幸せや愛に自ら背を向け、孤独になった」ということで、それは彼の生き方そのものの問題です。

 

 このシーン何度も見たし、そしてPOI見返して気付いたんですが、リースが「ジェシカ」と人前で名前を口にしたの、この回が最初で最後じゃないかな。S1E21では「彼女」と言っていた。S2ラストでは「知ってる人?」と尋ねたショウに「ああ」と答えただけで名前を出してはいないし、フィンチにも「空港で口を閉ざした時」としか言ってない。S4ではアイリスに「ある女性がいた。俺の全てだった」とは言ったけど、名前を出しているシーンはなかった。全編通じてリースが初めてジェシカのことを誰かに語るシーン、その相手がカーターだったこと、何もかもが切なかったけど、でも相手がカーターでよかったって心底思いました。

 カーターはここで、「時間がないよ、ジョン」と言います。リースには意味が分からない。「何が?フィンチが朝食を運んでくるまでしばらくあるだろう」「違うの。あなたは死にかけてる」

 運転席のガラスには穴が開いている。風が吹きすさんでいて、肩の銃創から腹まで血塗れです。

 冒頭の銃声と呻き声、それはリースが現実世界で撃たれた時のもの(もしくは犯人を射殺した時のもの?)で、その直後に始まった「車で張り込み」のシーンは最初から全てが幻だったことが分かる。

 

「大丈夫、助けが来るまで失血死はしないだろう」と言うリースに、「助けって?」とカーター。「ファスコにフィンチ、もしかしたらルート」と返すリースですが、カーターは笑います。

「誰にもここに来ること言ってない。いつもの単独行動じゃない。ここにいるのはあたしとあなただけ。それに確かに、失血死はしないね。その前に凍死する」

 

 フィンチとファスコはリースを気にかけています。ギャングの殺人事件は偶発的なもので、マシンの故障ではなかった。でも逆に言うと、偶発的な事件に巻き込まれてしまえば「番号」は出ず、リースがピンチなのかどうかさえ分からないということです。リースとの通信は途切れ、行方は知れません。食事も手に付かずそわそわと落ち着きなくモニターを見つめるフィンチを気遣うルート。「大丈夫よ、彼ならどうにかするわ」。

 正直、チェイス・パターソンのことを追っていると分かれば「ペントハウス」「山小屋」はすぐにつかめるだろうし「山小屋」へ行く道の途中でシグナルロストしていることもすぐに分かるだろうし途中の監視カメラにも映っているので、フィンチはすぐに見つけられるんじゃねーの?って思いましたけどまあそれ言っちゃうとこのストーリー成り立たないんでそこは突っ込まないことに…。

 フィンチはもともとリースに「これは俺一人でやる」と言われた時から違和感を持っていた。エマーソンさんが繊細な演技をしてくれるので、ちょっとした表情や仕草からそれが分かります。リースは何らかの理由で自分とファスコをこの事件から遠ざけたがっていた。そして連絡が取れなくなった。偶発的な事件に巻き込まれて命が危ないのではないか、という心配が9割くらいで、残りの1割くらいは、この事件との間に何らかの個人的な事情があって自ら姿を消したのではないか、という心配もしていたんじゃないのかなあって思う。前回「俺は永遠にそばにいるわけじゃない」って言ってたし、自分の意思でフィンチから離れていったんじゃないかと。ルートに言います。

「彼は距離を置きたがる傾向にはあるが、さすがに何かがおかしい」

 ルートは「I’m sorry, Harry」と返すのですが、字幕では「残念ね」、吹替では「それは心配ね」となっていてニュアンスの違いが気になる…。さすがに「もう死んじゃってるかも、残念ね」じゃあんまりなんで(ショウがいなくなる前のルートはそんな感じでしたけど)、「心配ね」って感じだろうか。

 

 それにしてもこの人たち、地下鉄でモニター見ながらおしゃべりする以外にもやることあるんじゃねーの?本気出せばすぐに分かんだろなんで急に「どうしようもない」モードになってんだよって思うんですけど、3人が速攻駆けつけてきてリースとカーターの会話が邪魔されるのを見たいわけじゃないので複雑すぎる。この辺のストーリーの整合性、もっとどうにかならなかったんですかね?

 でもフィンチも他の事件にかかり切りとか自分もピンチな状況にいるとか緊迫した事件が同時並行するようなエピソードじゃないのがよかったんだし、フィンチが真剣にリースを思いやっているシーンはとてもよかったので、話の流れ上こうするしかなかったかなーって思うことにします。

 

 再び車中のシーン。カーターはリースを激励し、車の鍵を取りに行かせます。

 

「あなたは過酷な状況を生き延びてきた。こんなところでイカレたサイコ野郎にたまたま撃たれて死ぬわけ?違うでしょ?」「尋問官なんて嘘だろう。鬼軍曹だ」「命令に従うのは得意でしょ。さ、車に戻るのよ」

 

 一緒にいたのがカーターじゃなかったら死んだだろうな…。リースは車に戻るのですが、なぜか車を走らせるでもなく音楽をかけます。そして「会いたかった」と呟く。カーターは笑う。「そう言ってもらえてよかった。誰かに何か残せたってことでしょ?」

「私もよ、ジョン…」みたいな空気に一切ならないのがほんとに好きだった。カーターは最後までかっこよくて、センチメンタルさを一切抜きにしてリースに寄り添ってくれた。この回のカーターは完璧だったと思います。リースの頭の中の都合のいい幻には見えなかった。本物だった。

「今は警察なんでしょ?」「偽物だ」「そうかな。バッジは本物だし、悪党も倒した。パートナーもいるんだって?かわいそうなファスコ」

 リースは車を運転して戻ろうとするのですが、カーターは「分かってるんでしょ」と言います。いつの間にか音楽は消えている。音楽すら幻だったことが分かります。寒さのせいでエンジンはかかりません。リースは低体温症を起こしていて、しきりと暑がったり車から降りたがったりし始める。カーターは「あなたは低体温の末期症状、正常な判断ができなくなってる」とそれを止めます。そして、「なぜジェシカと別れたの?」と再び尋ねます。

 リースは答える。「戦地で敵の部隊と味方の部隊が戦って全滅したところに出くわした。持ち物を探ってタグや所属を確認している時、気が付いた。全員が写真を持っている。妻、恋人、子供…。敵も味方も全員が」「みんな誰かのために戦うの」「誰かのために死ぬんだ。だから思った。写真なんか持たない方がいい。大切な人などいない方がいい。だから俺はジェシカと別れた」それを聞いてカーターは言います。「だったらあなたの言ったことは正しかった。初めからあなたはこういう道を歩む運命だった。誰のことも遠ざけ締め出して」

 

Not everyone.

全員じゃない

What?

そう?

I didn't shut you out. We had a connection.

俺は君のことは締め出さなかった。俺たちには繋がりがあった

I could talk with you about important things, the things that really mattered.

君とは大切なことを話せた。本当に大切なことを

But, John, you never did.

でも、ジョン。あなたは決して話さなかった

What? Of course I did.

何だって?もちろん話した

That night we were staking out the bar. We talked.

バーの外で張り込みをしていた夜に、話しただろう

Yes, we talked about music. Our jobs.

そうね、あたしたちは音楽や仕事の話をした

And Jessica.

ジェシカのことも

No, John.

いいえ、ジョン

Yes, I told you about her, how she liked the rain and sleeping in.

いや、彼女のことを話した。彼女がどれほど、雨や朝寝坊が好きだったか

I wish we'd had that conversation, but we never did.

そんな会話があったらよかったんだけど、しなかったわ

Here, this picture. Remember?

ほら、これが写真だ。覚えてるか?

You kept this, and you gave it to me when we talked about her that night.

君がこれを持っていた。そしてあの夜、彼女のことについて話した時に君がそれを返してくれた

I kept the photo, but I never gave it to you.

あたしはその写真を持ってたわ、でもあなたに返したことはない

You were talking about a path you were on.

あなたは辿ってきた道のりについて話していた

I asked if you wanted to talk about it, and you didn't.

そのことについて話したいか聞いたの、でもあなたは話さなかった

I did.

話した

You cracked a couple jokes. Then you turned the radio up, and that was it.

あなたはちょっとジョークを言って、ラジオをつけて、それで終わり

We never got to Jessica.

ジェシカのことは話してない

I kept that photo to give to you at the right moment, when you were willing to share that part of yourself with me, but you never were, John.

私がこの写真を持っていたのは、正しい時に返そうと思っていたから。あなたがあなた自身の一部を私と分け合いたいと思ってくれている時に。でもあなたはそうはならなかった、ジョン

It's like you said. You're here because you were always headed here.

あなたが言っていたように、あなたはずっとここに向かい続けていたから今ここにいるの

I wanted to talk to you about her. I just wish we had more time.

俺は彼女について君に話したかった。ただ、もっと時間があったなら

Yeah, well, that's something we never get enough of.

ええ。そうね。それは私たちが決して十分にあるとは思わないものよ

You're right. I don't let people in.

君は正しい。俺は人々を心の中に入れない

That's not why I didn't tell anyone about the case.

でもこの件を誰にも言わなかったのはそのためじゃない

I wanted to close this one myself. Just me.

この件は自分自身でカタをつけたかった。俺だけで

It was a chance to be close to you again.

君にもう一度近づくチャンスだったんだ

And I didn't want to share that with anyone else.

この件を誰とも分け合いたくなかった

There's another reason why I kept that photo.

この写真を持っていたのはもう一つ理由があるの

It was a side of you I hadn't seen.

ここには私が見ることのなかったあなたの一面があった

Happy, hopeful. In love.

幸せで、希望と愛に満ちて

You can feel that way again, John.

あなたはそれを再び感じることができるわ、ジョン

You just got to hold on.

ただ努力をしてよ

There are people who care about you, who can love you.

あなたのことを思っている人たちがいる。あなたを愛している人たちが

Just got to let them in.

彼らのことを受け入れて

It's like what you told me before-- whether I liked it or not, I wasn't alone.

あなたが私に以前言ったことよ…私が望むと望むまいと、一人じゃないって

Neither are you.

あなたもそう

Will you stay with me just for a little bit?

もう少しだけそばにいてくれるか?

Yes, of course. Just hold on, John.

ええ、もちろん。がんばって、ジョン

 

 車の中のシーン、どこまでが本物の回想シーンでどこからが幻なんだろう、ってずっと思ってたんです。「あなたは辿ってきた道のりについて話していた。でもジェシカのことは話さなかった」という言葉からは、「あなたはどんな道を辿ってここに来たの? あたしを本当の友達にする覚悟はあるの?」というあたりまでは本物の回想シーンなのかな、とも思えます。

 だけど、ここまでが本物だったらそれはそれで受け入れがたいと思う私もいる。S2冒頭に2人がそこまで深い話をしていたとは思えない。したのはS2E12の尋問の回が最初で、カーターの死の直前、モルグで話したのが最後です。私はこの2人が極限状態の中で打ち明け話をし合うS2E12とS3E9が好きなので、それ以前(しかもS2冒頭)に重大なことを実は打ち明け合っていた、って思いたくないんだよね。。

 リースとルートがフィンチを挟んで対極にあるように、フィンチとカーターもリースを挟んで対極にいる存在だったと思う。リースとフィンチはたびたび極限状態を2人でくぐり抜けてきてるけど、言葉で語り合ったりはしてない。それはフィンチは男性でカーターは女性ということに由来する関わり方の違いとか、フィンチは闇の人でカーターは一般人とか色々な理由があるでしょうが、ストーリーの中ではフィンチがリースの過去をほぼ知っているからわざわざ語り合わないというのもある。一方カーターにとってリースは未知の人物で、視聴者的にもカーターと同じ目線でリースの過去を徐々に知っていくかたちになります。だからリースがカーターに過去を打ち明けるシーンはずっと特別なシーンとして描かれてきたと思う。それを、「実はこんなことを語ってた」って後付けで言われたくないんだよ。

 それにそこまでの会話がもし実際の回想だったなら、「あたしを本当の友達にする覚悟はあるの?」とまで言われてジョークを言って終わりにしていたとしたら、「君とは絆があった」なんて言えないのでは。

 

 カーターは「(実際の張り込みの時は)仕事や音楽の話をした」と言っている。最初は確かに仕事の話をしていた。でもすぐにリースは車の温度を上げたがったし、カーターは音楽がかかるとすぐに消してしまっていた。途中で見張っている相手がいなくなってもバーの電気が消えても会話は終わらなかった。絶対におかしいと思う。カーターと2人きりになってからは全てが幻なのではないかという気もする。多分、実際に2人で張り込みをした事実を思い出しながら、実際とは違った会話、あったかもしれなかった会話を思い描いているということなんじゃないだろうか。でも、そしたら、最初フィンチが車にいたシーンは本当の回想?

 これについては答えが出ないんですが、これも含めて全てが幻なんじゃないかと思ってます。ベアーを「野獣」と呼んでいた時期のフィンチが、夜中一人でうろつきまわったりするだろうか。そんなのS2のE3E4あたりのごく短い時期に限られるし、その頃はルートに誘拐されたPTSDで一人で外に出ることも難しかった。それに、フィンチの「世の中には代わりがないものもある」という意味深な台詞。カーターが現れるのはその直後です。冒頭から全てが幻と考えた方が辻褄が合う。

 フィンチ、カーター、ファスコの3人が登場するのも示唆的です。最初にフィンチが現れ、「この件は君たちに任せる」と言う。これはチェイス・パターソンの「番号」の件であると捉えることもできる。途中でファスコが現れて、「メガネに頼まれて夕食を持ってきた」と言う。これも、パターソン事件についてファスコが「手伝おうか?」と話したこの回のやり取りと符合します。幻の中で次々に登場する3人は、全てリースが大切に思っている人。そのうち、愛を伝えられないまま失ってしまった彼女のことを悔やんでいる。命を救えなかったカーターがリースの命を救ってくれる。

 

 リースは「写真」の話をします。皆大切な人のために死んだ、大切なものはない方がいいと。一方、カーターも「写真」の話をします。あなたは幸せと希望と愛に満ちていた。自分でそれを捨て、自ら孤独になった。そしてここに辿り着いた。一人ぼっちで死ぬのね、と。

 リースがジェシカと別れたのが「生きて帰れないと思ったから」ではないだろうというのは、S2E12の「尋問」の回で感じていました。この時のジョン・ウォーレン氏は恋人との未来を夢見て軍を辞めるも、結局恋人とは別れてしまってた。つまり、軍や危険な任務とは関係のない理由でリースは人を締め出してるんだと感じた。でも今回、「危険な任務に向かう時に大切な人はいない方がいい。その人のために死ぬことになるから」とリースは答えている。つまりジェシカの写真を持って死ぬのが嫌だったから別れたの?違うんじゃないの?そうじゃない、元々心が閉じていたからジェシカの写真を持って行くことができなかったんじゃないの?

 この答えはS5のラストに明らかになります。お父さんが火事から人を助けて英雄として死んだこと。そして幼い自分が取り残されたこと。つまり、「大切な人のために死ぬのが嫌だ」というわけじゃなく、リースはもともと英雄として死ぬことを望んでた。そもそも生きて帰る気がなかったから、一人で生きることを選んだ。もともと誰かが自分の人生に寄り添ってくれることを望んでいなかった、ということがS5E3でも語られる。

 

 この回で、リースは「君には心を開けた。話しただろう」と言います。そしてカーターは「話さなかった。心を開いてくれるのを待っていたけど、その日は来なかった」と言う。そして「あなたを大切に思っている人を心から締め出さないで。受け入れて心を開いて。あなたは変われる。また幸せになれる」と言います。リースはこの後徐々にファスコをはじめ周りの人に心を開くようになってきますが、でも、最後は大切な人のために死んだ。大切な人を遠ざけ、その人のために戦うことができなかったかつての彼とは違う、大切な人を大切だと認めてその人のために戦ったという点で、確かにリースは変わったのかもしれない。でも、カーターが言ってるのはそういうことじゃないよね。「大切な人に愛されていることを認めて、その人を心に入れて。そして一緒に生きて幸せになって」って言っているのでは?

 戦場で生きるか死ぬかは選べないだろう。でも、「その人のために生きたい」と思うのと「その人のために死にたい」と思うのじゃ全然違うよ。生きたいと思ってほしかった。そのためにアイリスを出したのかもしれないけど、フィンチやファスコのために生きたいと思ってほしかった。カーターとの友情、愛情をこれほど深く描けるんだから、待っている人が恋人でなくてもいいじゃないですか。フィンチだってグレースじゃなく、リースとの「仕事」が待っている終わり方になってほしかった。サマリタンを倒してもまだ「番号」は出る、人間が人間として生きる限りそれは続く。だからまた続けよう。生きて続けよう。そういう終わり方であってほしかった。

 

 S4ラストでアイリスに「必ず生きて戻ってくる、その時全て伝える」と話してる。つまりアイリスはリースが「この人のために生きたい」と思える未来のために登場したキャラクターなのかもしれないとは思ったのですが、それにしてはあまりにもモブすぎるし、結局アイリスの存在意義が分からなかった。今回のエピソードで更に分からなくなった。

 かつてカウンセリングで「タフな質問もする。そろそろ習慣を変える時。人に心を開いて話してみて」と言っていたアイリスですが、その内容ははっきりしないながら、リースは明らかに真実を話していない。ここでカーターに言われます。「その話で警察のカウンセラーも騙したのかもしれないけど、あたしは騙されない」。そしてリースは初めてジェシカがどんな女性だったのかを語り、「君になら心を開けた」と言う。ジェシカを愛してた、カーターを愛してたことが痛いほど伝わってきた。そしてそれほど愛している人にさえ心を開けなかったリースの孤独も。

 彼の孤独にずっと寄り添っていてくれたのはフィンチとファスコです。その2人を差し置いてアイリスに心を開いて全てを打ち明ける?いや、実際打ち明けてないけどさ、それにしても、それほどの恋だった?そんなに恋愛至上主義なの??「生きて戻ってくる、一緒に生きたい」と思う相手は恋愛の相手だけじゃないのでは?

 

 S5冒頭でアイリスと別れたのはリースの死が決まっていたからなのかもしれないんですが、逆に生存ルートだったら「待ってろ」エンドになってたんだろうか。恋愛なしでも「誰かのために生きたい」エンドはなかったんだろうか。そんな風に変われなかったんだろうか。ずっと「ヒーロー願望の元軍人」と揶揄され続けて、なぜ「ヒーロー願望の元軍人」のままで死なせてしまったんだろう。そうじゃない、英雄として死ぬよりも大切な人と生きたい、このエピソードはそういうメッセージなんじゃなかったの?結局リースにそんな生き方は合わないということ?フィンチのために死んだのは「この道しかなかった」ということ?それは結局「人は変わらない」ってことなんじゃないの?それとも、ジェシカを締め出しカーターに愛を伝えられなかったリースが、フィンチへの愛を自分に認め受け入れたという意味で「変わった」と言いたいのか?

 

 最終話を見て、リースが死に、ショウがルートの仇を討って人を殺した時、つまり「人は変わらない」ってことが言いたいのかと感じてしまったんです。もしカーターがいたら違っていたのかもしれない。心を開いて全てを打ち明け、「待っててほしい」と伝えて生き残る道があったのかもしれない。でもそれがどうしてフィンチやファスコじゃダメだったのかって思うと、結局「それは恋の相手(女性)の役割だから」っていう思い込みなんじゃないの?って思ってしまって。フィンチがグレースのところに戻ったのも、「それが幸せ」っていう思い込みなんじゃないのか?

 この回のカーターは一切湿っぽいところを見せません。「会いたかった」と言われても「それはよかった」と。「君には心を開けた、話しただろう」と言われても、「話してない。待っていたけどその時は来なかった。いつだって時間はないのよ」と。2人の間には深い愛と絆があったけど、恋愛ではなかった(少なくともカーターが死んだ時点では)。男女の性愛、恋愛以外の絆をこれほど深く描けるのになぜ、待ってくれている女性がいるフィンチは生き残り、そうでないリースは死ぬという手垢のついた結末にしたのだろう。「2人ともいずれ死ぬ、すでに死んでいるがね」と死人同士として出会ったリースとフィンチが、最後はお互いのために生きようとする結末ではなぜいけなかったのか。「(男女の)性愛」あるいは「恋愛」に囚われない形の愛をeverlastingなものとして描ききるには時代が追いついていなかったのかもしれないと思ってはいるのですが。

 

 最後車のヘッドライトが見え、リースは呟く。

 

「見ろよ、やったぞ、ジョス」

 

 そこにはもうカーターの姿はなかった。

 

 迎えに来たのはファスコだったのかな、ってなんとなく思ってます。通信のない場所でリースを探し出すことができるのは結局刑事であるファスコだったのかなと(フィンチにだってもっと早くできただろってのは上にも散々書いたので置いといて)。で、対象者チェイスは助かったのか気になりますね…。「8時間後に死ぬ」って言われてたから間に合ったのだと信じたい…。

 

 この後リースはファスコにちょっと優しくなりますが、S4半ばからリースとフィンチとの距離をなんとなく感じてたのはこのエピソードの前振りだったのか?前にも何度か書いたんですが、S2S3でリースとフィンチの距離は友人・同僚としてはすでに極限まで近づいてしまっていて、正直これ以上どう心を開いて距離が近付くのを描写するのかよく分かんない面があって(だってフィンチと、今回カーターとしたみたいにジェシカのことを語り合うのはちょっと違う)、だからいったん離したの??とか思ってしまった。2人はずっとお互いのプライベートの話はしなかったかもしれないけど、「大切なこと」は人助けを通じてお互いに打ち明け合ってきたと私は思ってる。人を愛すること、愛する人を失った後どう向き合ってきたか、何に幸せを感じ、どう生きたいのか。

 複雑に絡まり合った運命の末に、フィンチはリースの手を取った。そしてその手を、人の命を守ることに使わせた。そのことでリースは救われた。そして最後はフィンチの命を守って死んだ。そういうシンプルな話でいいのかもしれない、とも思った。

 これに関しては自分でもずっと結論が出ないのですが、少なくとも自分の脳内ではフィナーレ後もリースは生きてることになってるんで…。

 

 それにしても、この回は傑作すぎて何度見ても泣くわ。最後助かったリースは「写真」を持った状態で発見されるんだな、って思いました。大切な人の「写真」を持って。きっとあれを見るたび、そこには写っていないカーターを思うんだろう。そう感じました。

 

yuifall.hatenablog.com

 

POI:チェイス・パターソン(被害者)

本編:2015年

E17が3月2日頃でE21が5月5日頃なのでE18~E20はその間

フラッシュバック:

カーター(刑事になった直後だから2008年頃か?)

リースは、フラッシュバックなのか幻なのか分かりませんが、2012年の5月~6月頃?