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 POI感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

 この回は、

フィンチがIce-9ウイルスを拡散するためのソフトウェアを盗み出す

NSAに侵入

→インストールしたところで実行前にサマリタンに捕捉される

→グリアもろとも殺されそうになる

→マシンの指示で動いていたリース&ショウのサポートで脱出

→リース&ショウを逃がしウイルスソフトを実行

という感じです。

 

 その合間合間にマシンとフィンチの会話が挟まり、そしてマシンはフィンチに「マシンがなかった世界のシミュレーション」を見せます。

 

 シミュレーションの内容はこんな感じ。

 

フィンチ→IFTの重役っぽいことをしている。ネイサンは生きていて、「国防総省の仕事を受けず、CIAと関わらなくてよかった」「政府から5億ドルの仕事を受けた」みたいなことを話します。2人は「いつか誰かがシステムを完成させるかも、もしくはもう持っているのかも」と語り合いますが、それはもう終わったことになっている。フィンチは独身で恋人もおらず、ネイサンが女性を紹介しようとしますが「仕事だけで幸せだ」と断り、複雑な表情を浮かべます。

ネイサンは生きているけど、グレースとは出会えていない、という人生でした。

*ところでネイサンは離婚してませんでした。てことはマシンを作るために何年もこそこそしてたから奥さんとの関係がこじれたって感じだったんでしょうね。大学院生との不倫みたいなエピソードあったんで、浮気とか色々あったのかなぁって思ってたのですが、基本的にはやっぱりマシンとフィンチが原因の離婚だったと思われます。

 

ファスコ→HRから手を切れず悪徳警官のままでしたが、真っ先に自白したので逮捕は免れています。警察はクビになったけど働き口はあるもよう。シマンスキーが生きていて、「殺人は減って失踪は増えている」と話す(サマリタンが存在することが暗示される)。カーターは昇進して警部補になっている。

カーター、シマンスキーは生きている。ファスコは生きているけど、警察はクビになっている。

 

ショウ→政府のエージェントとして働いている。S1E22で登場したヘンリー・ペックが「巨大な監視システムがある」と訴え(やはりサマリタンがいる)、それを聞いてショウはペックを射殺する。コールも生きていて、一緒に仕事を続けている。つまり“リサーチ”(サマリタン)の下で働いている状況です。

ショウ、コールは生きている。ペックは殺される。

 

リース→ジェシカの夫と対決し、ジェシカを助け出す。しかしジェシカはリースの恐ろしい一面を見て逃げ出し、リースは自殺。身元不明の遺体として発見され無縁墓地に埋葬されている。

ジェシカは生きている。リースは死ぬ。ピーターの生死は分からん。ジェシカがドン引きするくらいだから死んだのかもしれないし、かろうじて生きてはいるのかもしれん。

 

ルート→サマリタンのエージェントとして働いている。全然違和感ないわ…。

ルート、グリアは生きている。ギャリソン議員は殺される。

 

 フィンチは、最後のルートのシミュレーションを見るまでは「マシンがいなくても世界は悪いとは言えない。ただ今とは違うだけだ」と言うのですが、ルートのシミュレーションを見て「マシンがいなくてもサマリタンはいる…」と気付きます。

 いやいや、ファスコとショウの時点で気づけよ…。明らかにおかしいじゃん…。ペックが「大規模監視システムがある」って言ってるじゃん…。ジーニアス、寝ぼけたこと言わないでくれ。

 

 そしてこのシミュレーションは全体的に詰めが甘いと思うんですけどどうですかね。

 そもそも、フィンチの時点で何かおかしい。フィンチが隠れて生きることになったのはマシンのせいじゃありません。1974年に反逆罪で追われる身になったからで、その原因はお父さんの認知症です。お父さんが記憶を失い始めたから、記憶を保持する装置を作ろうとした。お父さんが一人で生活できないから田舎に留まらざるを得ず、ネットワークに侵入して学問を身につけようとした。そして結果的にはハッキングをして罪に問われることになる。だからフィンチの運命を決定づけたのはお父さんの存在そのものです。マシンを作らなかったとしても、あんなに堂々とIFTの重役ルームにいることはありえない。ネイサンの影のままでしょう。

 

 一見、この「マシンがいない世界」は悪くないようにも思えます。リースは死んでいるけど彼の望みはある程度叶っている(世界と自分を結び付けてくれるたった一人の人、ジェシカを救うことはできている)。カーター、ネイサン、ルートは生きてるし、ショウとコールも元の仕事してる。シマンスキーも生きていてHRは逮捕されてる。ファスコはクビになってるけど、まあ生きていればどうにかなるだろう。ネイサンは離婚してないし、グレースだって、出会えていないだけで死んではいないのでは?

 でも、サマリタンがいることを前提に考えれば、それぞれの「マシンがいない世界のシミュレーション」には続きがある。フィンチは絶対にそれに気づいたはず。

 

フィンチ→S4で、サマリタンがIT企業を潰したり、スキャンダルを起こさせて買収したりする様子が描かれてきた。IFTも絶対にターゲットにされるだろう。特に、IFTはもともと国防総省からプロジェクトを持ちかけられていたわけで、サマリタンにとってはかなり優先度の高い標的です。2人は馬鹿じゃないし、「政府はシステムを手に入れたかも」と話しているから、それに気づくのは時間の問題。気付けば真っ先にネイサンは殺される。シミュレーションのようにフィンチがあんなにがっつり顔出ししてるなら、2人とも殺されるだろう。マシンがなくても、おそらくはフェリー爆破にあって2人とも死ぬ運命だったはず。実際、シミュレーションでは「あれ(同時爆破テロ)以降の悲劇も防げたかもしれない」と言っているから、サマリタン起動以降にもテロ事件が複数起きていたことが示唆されています。つまり、テロに見せかけてサマリタンにとって都合の悪い人材を殺していたということだろう。

 

ファスコ→ファスコは警察を辞めたので生き残るかもしれない。でも、シマンスキーが言うように「失踪」が増えている世界なら、カーターは必ずそれを突き止めようとする。現実に、カーターの遺志を継いだファスコがそれをやってピンチになっているからそれは明らか。そしていずれ必ず陰謀に気付き、殺される。おそらく今回ファスコがそうなっているように、サマリタンの息がかかったFBIに撃たれて殺されると思う。正義感から考えて、カーターだけじゃなくシマンスキーも危ないと思う。

 

ショウ→ヘンリー・ペックが大規模監視に気付いたのだから、マシンの時と同様コールが“リサーチ”を疑い始めるのは時間の問題。コールが調べ始めれば、S4のグライスと同じ運命を辿ってサマリタンの「粛清」にあう。現実では政府に2人とも狙われたように、おそらくはショウも「粛清」のターゲットになる。リース&フィンチのサポートがないので殺されるか、よくてサマリタン陣営に捕まって洗脳され、サマリタンのエージェントにされる。

 

リース、ルートはそのまま。

(ただ、サマリタンに捕まったショウとサマリタンの工作員のルートが禁断の恋に落ち、ショウのためにルートはサマリタンを裏切り…みたいな展開はあるかもね。で、2人とも死ぬ)

 

 つまり、マシンがなければ事実上全滅に近いと思います。リースは死んでるけどみんな生きててよかったね、にはならないよ。

 そして私はずっと、ルートはもともとはマシンよりサマリタンに共感するタイプだろうと書いてきたのですが、実際シミュレーション内で「サマリタンの価値に気付かないなんてBad Code(欠陥品)なんです」とグリアに語る彼女はS2のルートそのものだった。ルートは最後まで「マシンに世界の支配権を与えるべき」って思ってたよね。ルートに関しては、マシンがある世界かない世界かっていうよりも、単に出会った順番の問題ではないかという気がしないでもなく…。マシンがある世界でも、サマリタンに先に出会っていたら多分そっちについてたと思うわ。先にマシンに出会って肩入れしたからこそ生き方を変えたんだろうと思います。

 

 ずっと迷っていたフィンチは最後のシミュレーションを見て、マシンに「マシンがいなくてもサマリタンはいる。マシンがいないから対抗手段がなく、ただ世界が変わっていくのを許すしかない」と言われ、マシンもろともサマリタンを滅ぼす決意を固めます。

 でも、私はこれを「世界を救う戦い」だと安易に思いたくないんだよね。これは(ビーチャーを殺されたから)HRを潰そうとしたカーターの戦いと同じく、「腐敗した組織との戦い」であると同時に、あるいはそれ以上に個人的な戦いでもあるはず。世界を救うとかどうこうじゃなくて、フィンチは、リースが生きていて、グレースに出会えた世界を愛したのでは?最後のルートのシミュレーションを見て、ルートの「私にこんな生き方をさせないで」って呼びかける声を聞いたのでは?ルートは、「あなたが私を光に導いてくれるまで、ずっと闇の中を歩いていた」と言っていた。あなたに会えずに死にたくない、という、リースとルートの共通の願いに応えたかったのでは?

 

 正直このシミュレーションの提示の仕方にはちょっとうーんってなってるけど…。さっきも書いたけど、マシンがなくてもサマリタンがいるってことはルートのシミュレーション見なくても気付くし、気づかなくても当然想定はできます。だからルートのシミュレーションを最後に持ってくる展開はどうかなあ、って思った。リースの方が大変なことになってんじゃん。リースのシミュレーションを見て、フィンチが「マシンを作ってよかった」って思う展開だったらよかったのになぁ。

 リースの運命もフィンチと同様生い立ちから割と決められてて、軍人だったお父さんが英雄として早くに死んだこと、その後育ての親も失って一人きりになったこと、大切なものを持ちたくないからジェシカともうまくいかなかったこと…はマシンがあろうがなかろうが現実と変わらないだろう。その過程で政府の工作員として闇に生きる人間になって(あるいは闇そのものになって)しまう。で、マシンがないからダニエル・ケーシーを追い回したりオルドスに送られたりはしなくて、DVに遭っているジェシカがリースにSOSの電話をかける→ジェシカのもとにかけつける→ピーターと対決→ジェシカを救うが、ジェシカは「こいつやべー」ってドン引き、みたいな流れかと思われます。

 リースは「あの空港で彼女に何も言えなかったとき俺の運命は変わったんだ」と言ってましたが、それ以前に彼女と一緒に生きられなかったのは生い立ちが理由だし、結局どの道を辿ってもジェシカとはうまくいかなかったということが分かりとても切ないです。何度か書いたけど、リースがあの日ブルックリンブリッジから身を投げて死ななかったのはフィンチがいたからだよね。フィンチとの出会いがなければ彼は死んでた。ずっと、リースはフィンチと出会う前からマシンに運命を翻弄されていたと思っていたのですが、でもそもそもマシンがなければあの時死んでいたことがここで分かる。

 

 リースのシミュレーションの前、マシンはフィンチにこう言います。

 

And you've always known, John has been on borrowed time.

そしてあなたはずっと知っていたでしょうけど、ジョンはずっと、いつ終わってもおかしくない生き方をしてる

 

borrowed timeは直訳すると「借り物の時間」ですが、on borrowed timeで調べると

 

《be ~》(もう)いつ終わって[駄目になって]もおかしくない、〔主語の〕終わりは時間の問題である◆【直訳】借りてきた(おまけのような)時間上にいる

 

となっている。「死期を過ぎている」「残された時間は長くない」等の意味もあるそうです。

 字幕では「彼はいつも綱渡りの人生でしょ」、吹替では「おまけの人生を生きてる」になってましたが、つまりは「あなたが彼を生き長らえさせた」とマシンはフィンチに言っています。あの日拾ったことを言っているようでもあるし、リースの生き方があまりにも刹那的であることを言っているのかもしれない。ネイティブでないので正確なニュアンスが分かりませんが、いずれにせよ、今のリースにはフィンチがいない人生は存在しなかったことが分かる。

 S1E1から、マシンのリースに対する顔認識は黄枠でした。(基本的には)どの時点でのフラッシュバックでも常に黄枠で、マシンはリースがフィンチと出会うよりもはるかに前から、リースを「primary asset」と認識していることが分かる。「人の運命を予測する」マシンは、リースがどういう生き方を選ぶのか、選ばざるを得ないのかをはるか昔から知っていたのかもしれない。マシンがなければ存在しない運命も、フィンチのために生きることになることも。初めから黄枠として登場するキャラクターは(マシンを作ったフィンチとネイサンを除けば)リースとルートの2人で、リースとルートがフィンチとマシンの運命と固く結びついていることが登場時から示唆されていました。

 ある意味リースと運命共同体であったマシンは命懸けで戦い勝ったのだから、リースにも生きててほしかったな…。しつこいけど…。そしてフィンチには「少なくともリース君が生きているのだからマシンを作ってよかった」と一瞬でも思ってほしかったです。

 

 ちなみにマシンが見せるこれらのシミュレーションは、It’s a Wonderful Life(素晴らしきかな人生)という1946年のアメリカ映画のオマージュだそうです。Wikiには

 

Like George Bailey did when Clarence, the guardian angel found him, in the pilot's original script, Reese was contemplating suicide when Finch found him.

 

と書いてあり、フィンチはリースをこの世にとどめるための「守護天使」的な存在であると指摘されています。ただ、このシミュレーションにおいては“マシンがない世界”が描かれているので、ジョージ・ベイリーはリースであると同時にマシンでもあるのかなと思いました。フィンチはマシンにとってもリースにとっても守護天使だったのかもしれない。

 

 シミュレーションの内容だけで長くなったので本編の感想は次回に続く…。

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