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05x08 - Reassortment 感想

 POI感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

  Reassortmentとは遺伝子再集合のことで、2つの類似のウイルスが同じ細胞に感染した際に起こる遺伝物質の混合現象のことだそうです。

 

 この回もポカーンだったなー。DNA情報ゲットのためにパンデミック(未遂)ってなんじゃそりゃ。COVID-19のパンデミック後に見るとより茶番感が強く、しんどいですね。近未来モノSFは10年後に見るとうーんってなっちゃうのある程度は仕方ないんですが、サマリタン関係に関しては近未来関係なくうーんってなってるので…。

 ただ情報集めるだけならまだ分からなくもないですが、「進化の壁を越える」というのは…。これはナチス・ドイツ時代にヒトラーが主張した「人種衛生」(人間の品種改良を行うべきという思想)では?S4E10 Cold War に引き続き、サマリタンの20世紀的な独裁者の発想が顔を出すんですが、これって結局のところASIの思考は今までの人類の叡智の集積からなる以上、ここが限界ということなのか?それともメタ的に、人間の発想の限界なんだろうか。どうして1世紀分も考え方が逆行するの?

 

 遺伝的にある病気に強かったり弱かったりする個体があることはまあ事実でしょうが、例えば鎌状赤血球症の患者はマラリア耐性があるなど、体質の良悪は一概には決めつけられません。特に今後気候変動の影響で、ある地域に従来とは異なる感染症の流行などが起きた場合、今までは必ずしも生存に有利とはいえなかった個体が耐性を持つことも十分考えられる。うーん、まあ、単純に、「選別」「進化の壁を超える」という発想の行きつく先がよく分からない。

 

 というより、それを信じちゃって「これが人類のため」とか言い出す人間が気持ち悪いっていうか…。サマリタンのエージェントって一体何なんですかね?

 でも、傍から見るとそう思っちゃうけど、自分がそうならないと断言することは誰にもできないですよね。ナチスとか全体主義に取り込まれていくときの人間心理ってこういう感じだったんだろうか、って感じる。その中で特にジェフ・ブラックウェルは、自分のやらされていることに疑問を抱きながらも引き返せずどんどん取り込まれてしまう…という、一般人っぽさが出ていて、見ているととても切ない気分にさせられます。自分もこの人と同じ立場になったかもしれない、って思う。途中で、「進化って何だ。腐ったものを切り捨てるって、それは何個あるんだ。一体誰が決めているんだ」って尋ねるの聞いて、苦しくなった。この人の存在で対サマリタン戦争に心情的な意味で深みが増したように感じます。この人がいなかったら本当に機械と戦ってるみたいだもん…。エージェントも含めて…。

 今回も元カノとよりを戻したがったり、そのためにまともな生活をしたいけど他に雇ってくれる場所もないからサマリタンの仕事がやめられなくて、でも仕事内容がどんどんやばくなっていていつかは仕事のために刑務所に戻されるんじゃ、って恐れていたり、脅されて従うしかなかったり、敵ながらとても悲しいな。やってることは同情できないんですが…。

 マシンがE2で番号を出していた1人だったので、もしあの時番号対象者であることにちゃんと気づいていたらもしかしたら…、って気持ちもあるんですけど、結局クレアみたいにサマリタンこそ救いだと信じて取り込まれてしまった可能性もあったわけだし、分からない。フィンチが大富豪のままだったらなー、ちゃんとした仕事あげられて、違った結末になったかもしれないのに…。

 

 今回はストーリー的にはなんかうーんって感じでしたが、リースの危機にフィンチがかけつけて自分がピンチになったり、そこをルート(マシン)が助けてくれたり、時々リースのとぼけた発言があったり、ルートの身分詐称が役立ったりと基本を踏まえた展開だったので、そこはよかったです。

 でも今回は対象者3人中1人は失い、またサマリタンの目標も達成されちゃってるし(それに気づいてないし)っていうファイナルシーズン折り返しを過ぎているのに相変わらず全然戦えてないですね…。

 

 今回ルートが「オープンシステムだから直接聞けて役に立った」って言うんですけど、そうかなあ。。サマリタンの本当の意図を知らせてくれるくらいじゃないと役に立ったと言えないのでは?正直、マシンがなかったらマシンに頼らずフィンチかルートが自力で調べられた程度の情報しか教えてくれてないように感じる。5兆分の1の確率を計算できるのはマシンとサマリタンだけ、って言ってるけど、計算だけなら普通のスパコンでもできると思う。「実際にウイルスAに感染している海外渡航者BをC病院へ誘導し、抗ウイルス薬に見せかけてウイルスDを投与し、結果として5兆分の1の確率で生み出されるウイルスEを作り出す」という行動が可能なのがサマリタンというだけじゃない?

 もしこれがS4までのクローズドシステム状態であったとしても、

 

番号が出て対象者を追う

→リースとショウorファスコが病院へ行き現場の状況に対処

→フィンチが地下鉄で色々調べた結果「これほど感染力、致死率が高いウイルスは5兆分の1の確率でしか生み出せない。首謀者はサマリタンに違いない」と同定

→ルートが「今日の私の身分はCDC職員よ。理由は分からないけど、彼女がある研究所から治験中の薬を受け取って病院へ届けろと言うの」

 

みたいになって、全く同じ展開になるとしか思えないのですが…。

 

 フィンチとルートはマシンを巡って、「オープンシステムにすべきか」「武器を持たせるべきか」で対立するのですが、S5始まってから今までの間に「マシンがオープンシステムだったからめちゃくちゃ役に立って、フィンチとルートのハッキング能力では絶対に分からなかったことを短時間で教えてくれた」とか、「サマリタンの意図を先読みして知らせ、阻止させた」みたいなシーンはまるでなく、逆に「トンネルで死んでいた人たちのことすら検知できなかった」「人助けもわりと失敗してる」「サマリタンの意図は知らせてくれないか、超遠回しに伝えてくるのみ(詩とかね…)」「対象者は今まで通り電話で番号を知らせてくる」って結果なので、オープンシステムだから強くて役立つ、っていうルートの意見にどうも同調しかねるんですよね。逆に前回みたいに、オープンにしていることでルートの意見に引きずられてマシンの発想が「戦争」>「人助け」になっているという面が明らかになっているので、武器を持たせたら危ないとしか思えん。

 フィンチとルートの思う「目的」が違う以上、取るべき「手段」に対してスタンスが違うことはいつまでも平行線であるように思えます。オープンシステムであるメリットを強調したいなら、「人助けもできるし、それが戦争にとっても役立つ」という部分を示さなくてはいけなかったのでは?

 

 この2人のマシンに対するスタンスの違いは、「手段」の違いじゃない。そもそも「目的」が違いますよね。フィンチは「人助け」にマシンを使おうというスタンスを崩しておらず、ルートは「戦争に勝つ」ことをプライオリティにしている。

 言い換えれば、ルートがマシンに世界をジャッジさせるべきと考えている一方で、フィンチは常に、自分自身も、それにAIも世界をジャッジする立場ではないという姿勢を崩そうとしていない。それはマシンを作った時からずっとです。世界は「あるべきもの」で、ただテロだけを防ぎたかった。それがマシンのデザインだった。ネイサンの死によって「凶悪犯罪に巻き込まれて死ぬ人を救いたい」というあたりまでは「防ぎたい悲劇」の範囲が拡大したのですが、それでも「自分は世界を変える神ではない」という立場は守り続けていたと思う。だからマシンにも、「AIは世界をジャッジする立場ではない」というスタンスを一貫して守らせている。

 一方で、サマリタンは「自分は世界をジャッジする立場である」というスタンスを明確にしています。だから私はもともとルートはサマリタン寄りの思想を持ってるしサマリタンに寝返ってもおかしくなかったと思っているんですが、多分マシンの「人を愛する」というfirst principleに共感してしまったんでしょうね。ルートはマシンこそが「正しい」AIだから世界の運命を委ねるべき、と考えてる。でもフィンチはどのようなAIであれ、世界の運命を委ねるべきではないと考えてる。2人ともサマリタンを潰そうとしているのですが、その意図は全く違います。この議論が平行線な理由はそこにある。

 

 フィンチは最後まで「AIに世界の運命を委ねるべきではない」という姿勢を崩さなかった。だから、自分自身が「神」になってサマリタンと戦ったんだと思います。マシンに「あなたが望むなら何でもできる」と言われた時、マシンに対して「お前に全ての権限を与えるから、全力でサマリタンを潰せ」と言うことだってできた。でも、フィンチはそれをせず、自ら神の力を振るうことを選んだ。これは、「人の運命を背負う重大な場面では、人間的な要素があるべきだ。人間には自由意志がある。そしてそこには大きな責任が伴う」という自分の言葉への責任だった。あくまで自分自身のためにサマリタンと戦うというスタンスを崩さなかった。

 フィンチは自分が修羅になるトリガーを自分で知っていたと思います。ネイサンが殺された時アリシアを殺そうとした。リースが死にかけた時ルートを解放し、マシンの力に頼った。グレースを奪われた時に「全員殺せ」と言い、イライアスとルートが殺されて神の力を振るう道を選んだ。全て、自分にとって大切な人が傷つけられたタイミングです。フィンチとリースは初めから最後まで、「自分たちがやっていることは自分のためだ」ということに自覚的だった。フィンチはもともと「世界のためにマシンを作った」という自己欺瞞で全てを奪われたから、「人助けは自分のため」というスタンスを守り続けたんだと思う。「世界を守るため」なんて思わなかった。フィンチはルートを奪われたからサマリタンと戦い、リースはフィンチを守るために死んだ。

 

 この回でイライアスとフィンチは象徴的な会話を交わします。

 

But a little advice: a leader enlists all his resources in war, not just his favorites.

だが、一つアドバイスがある。戦争においてリーダーは、彼のお気に入りだけでなく、彼の持つ全ての資源を動員すべきだ

This is a battle best fought alone.

これは少数精鋭で戦うべき闘いです

John and I can handle it, and I'd appreciate it in the future if you would leave Detective Fusco out of this.

ジョンと私でどうにかできますよ、だが、もしあなたがファスコ刑事をこの件から遠ざけてくれるなら感謝します

Some time ago, you gave me a book, advice for these troubled times.

少し前、君は私に本をくれた。この困難な時代への忠告として

I would like to return the favor.

君にお返しをしたい

War requires sacrifices.

戦争は犠牲を要求する

I'll bear that in mind.

心に留め置きましょう

You know what your problem is, Harold?

君は自分の問題が何か分かるか、ハロルド

No, tell me.

いいえ、教えてください

Underneath all that intellect, you're the darkest of all of us.

その知性の下に、君は私たちの誰よりも深い闇を持っている

It's always the quiet ones we need to be afraid of.

常に、私たちが恐れなくてはならないのは静かな人間なのだ

I just hope I'm not around the day that pot finally boils over.

その鍋がついに噴きこぼれる日、そこにはいたくないものだ

I'm afraid you're mistaken.

あなたは勘違いしていますよ

 

 最後フィンチはごく個人的な理由で神の力をふるい、世界を滅ぼすほどのことをするわけで、イライアスの言ったことは正しいのかもしれない。でも私は、それこそがフィンチの誠実だと思いました。自分の作ったものの力を自分の大切なもののために自分で使ったのだから。AIに世界の運命を委ねたり、力を使うのは世界を守るためなんて言わなかった。

 

 まああともう一点、メタなこと言いますけど、マシンがオープンシステムだと単純にストーリーがつまんないですよね…。S5E10を見ると、フィンチが監視カメラ越しにマシンに話しかけた時点でマシンが結末までを予測していたことがなんとなく分かるのですが、「人を良く知り予測する」マシンがオープンだったら、先に起こることが全部分かっちゃうことになります。そうなると、必然的に「こうするとこうなる」→「じゃあこうすればこうなる」みたいなシミュレーションの繰り返しだけのストーリーになっちゃうもん。

「POIの全てはマシンのシミュレーションである」というオチがあり得るのは誰にでも予測できるし、そして誰もそんなつまらないオチは求めてない。マシンはクローズドにしておバカなサマリタンのキャラ崩壊シミュレーション見てるくらいがちょうどいいのかもしれん。

 

 この回は本筋の合間にショウの脱出劇も進行します。研究所から脱出したショウがパイプを伝って辿り着いた場所はなぜか南アフリカの刑務所…。つまり最初から南アフリカにいたってこと??グリアは時々様子見に行ってたわけ?あれはリモートか?よーわからん。サマリタンの電波通信は南アフリカまで届いてんの??電波ってもっと通信範囲狭くない??南アフリカにいるんだったらNYにいる体で進行するシミュレーションの意味は何だった??

 せっかく現実感をあやふやにしたところでこれじゃあ、脱出された瞬間にシミュレーションか現実かはっきりするじゃん…。いやー、理解できん…。でも突き詰めて考える気も起きない…。とりあえずランバートを射殺したショウはかっこよかった。「どうせ夢かも。でも夢くらい好きにさせて。大げさな演技はやめてよ、どうせもうすぐグリアが来て再起動してくれる。でも、それまでは楽しまなきゃ」ってよかったです。

 

 あとこの回のハイライトはファスコがついにリースに見切りをつける瞬間ですかね…。前回フィンチに「もう抜ける」と言いましたが、今回はリースに「新しい相棒を探せ」と言って去っていきます。ファスコ…。S1E1からずっと協力してくれていたファスコがいなくなるなんて、めっちゃ寂しい…。カーターが死んでリースがフィンチのもとを去った時も、フィンチがリースとショウの前から姿を消した時もファスコだけはずっといてくれたのに…。リースとフィンチにとってファスコはめちゃくちゃ大切な人になってたんだなぁと感慨深いですが、いないとめっちゃ寂しいよー。

 それにしてもファスコの台詞、

 

Time I work with somebody who appreciates me.

俺を正当に評価する奴と仕事をする時が来た

Shares information instead of keeping secrets.

秘密を守り続ける代わりに、情報を分け合ってくれる奴と

 

ってすごく気持ち分かるんですが、S1のリースとファスコの関係を考えるとちょっと面白いな…。あの時めっちゃオレ様だったもんね、リース君。今じゃまさにラノベで言うところの「ざまあ展開」になっちゃってます。あとS1のリースも「秘密を守り続ける奴」と一緒に仕事してましたよね。

 リースとファスコの関係とても好き。リース君に初めてできたまっとうな友達って感じ。ファスコの普通で健全な感じがめちゃくちゃ好きです。

 

POI:ジェームス・コー(被害者)

本編:2015年(Wikiによれば10月1日~2日らしい)

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