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03x10 - The Devil's Share 感想

 POI感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

 色々と考えさせられる回で、自分の感じ方が正しいのか分からないのですがつらつらと書く。

 

 最初、しばらく台詞とかはなくてJohnny CashのHurtに合わせてシーンが次々と移り変わります。

yuifall.hatenablog.com

 リースの心電図、致命傷を抱えたまま横になる意識のないリース、カーターの葬式、リースもショウも去って一人になるフィンチ、かかってくる電話、上がったのはシモンズの番号。シモンズを狙う人は少なくないでしょうが、フィンチがここで思い浮かべたのはおそらくリースとショウのこと。シモンズを殺すつもりだ、と分かる。2人は別々に行動しているけど、色々なところで手段を選ばず(酒場で人を殴りつけたり、人を車ごと燃やしたり、屋上から人を投げ落としたり、人を天井から吊るしたりして)シモンズの行方を追っている。

 

 フィンチのフラッシュバックを挟んで、フィンチとルートが会話します。「もう遅すぎるとは思わないか」そう聞いたフィンチに、「ジョンにとってはまだ遅くないし、それにもっと重大なことが起こる」とルート。その後フィンチはファスコに「問題発生だ」と犯罪現場に呼び出されます。

 

Witnesses put our pal, the psychopathic vigilante, at the scene.

目撃者はここで、俺たちの友人のイカレた自警団員を見たとよ

Which one?

どちらだ?

You mean both your stray dogs are off the leash?

つまり、あんたの野良犬たちは両方ともリードが付いていない状態なのか?

This was the handiwork of tall, dark, and deranged.

これは背が高くて、暗くて、精神が錯乱した方の仕業だ

And I shudder to think what the other one's up to.

もう一人の奴が何をしてるか考えると震えあがるよ

I have reason to believe that one or both of them are looking to track down and kill Simmons.

私には、2人のうちのどちらか、あるいは両方がシモンズを追跡して殺そうとしていると信じるだけの理由がある

We all want Simmons.

俺たちはみんなシモンズを追ってる

Piece of crap killed my partner, then went after my kid.

あのクソ野郎は俺の相棒を殺し、俺の息子を殺そうとした

But the scorched earth campaign is only gonna make Simmons harder to find, not easier.

でもこの焦土作戦はシモンズを見つけづらくするだけだ、簡単にはしない

 

 フィンチはルートを野放しにすることを不安がっていましたが、結果的に狂犬が2匹とも野放し状態になってしまうという…。こんな緊迫した状況なのにファスコのしゃべり方聞いてると笑えます。Your stray dogsにscorched earth campaignだもん。アメリカ人っぽい。

 そしておそらくは携帯の追跡でショウの居場所を発見(リースは携帯捨てて逃走中と思われる)。

 

Did you see Reese?

リースを見たのか?

Gone by the time I got here.

あたしがここに来た時はもういなかった

We have to stop him.

彼を止めなくては…

Why? One less dirty cop-killing cop sounds good to me.

なぜ?警察を殺す悪徳警官が減るっていいことみたいに聞こえるけど

Setting aside your somewhat... binary moral compass, Ms. Shaw, you should know that Mr. Reese's injuries are life-threatening.

君のいくぶん…二分法的な道徳の測り方は置いておくとして、ショウさん、リース君の怪我は致命傷であると知る必要がある

All right, Harold. We'll play it your way.

分かった、ハロルド。あなたのやり方でやろう

 

 フィンチは当然、カーターを殺されてシモンズを憎んでいるとは思う。でも、リースが彼を殺すことは決して望んでいない。それに、それよりももっと大事なことがあるんですよね。リースが怪我してる。撃たれて死にかけているのにシモンズを追って動き回っている。早く止めないとリースは死ぬだろう。ショウはそれを聞いて「分かった」と気持ちを変え、フィンチに従います。リースをこのまま放っておいては駄目だと。

 

 シモンズの居場所を知るのはクインだけでした。でもクインの居場所を知るたった一人の人物が殺されているのが分かり、ショウは「ルートを出せ」とフィンチに迫ります。ショウはチームでただ1人、ルートを恐れていないから。

 

John isn't gonna make it if he winds up in a crossfire between a bunch of feds and organized criminals in his current state.

今の状態でFBIやマフィアの集団と銃器を持ってやり合ったらジョンは死ぬよ

I know this is our only option, Ms. Shaw.

これが我々のたった一つの選択肢だということは分かっているよ、ショウさん

I just wanna make sure we're prepared for what may happen.

私はただ、我々がこれから起こることに準備ができていると確かめたいんだ

I'm in.

あたしはできてる

Are you?

あなたは?

 

 まあ、ショウはルートのこと、何でも知ってるけどいざとなればぶん殴ればいいくらいにしか思ってなさそうですが…。ついにフィンチがルートを檻から出し、こうしてマシンチームが結成されていきます。

 今まで頑なにルートを出さなかったのは、ルートそのものが危険だからというのもあるだろうけど、マシンの力を私的に使うことにフィンチは強い抵抗感を持っていたからだと思う。これは開発中からずっとです。今まで一度も自分の意思でそうしたことはなかったはず。それが今、初めて、マシンの力を頼ります。リースのためにフィンチが初めて自分の信念を曲げてそうしたのだと思うとめっちゃときめくな…。こんな緊迫した状況なのにときめいていて申し訳ないのですが…。

 

 車で移動中ファスコがぶつくさ言うの好き。隣に座るルートを不気味そうに見ながら、「相乗りだって教えてくれよ。自分で運転していったのに」「眼鏡を誘拐したイカレ女の言うことを何で聞くんだよ」。で、ルートになんでもかんでも言い当てられて、「お前らといて俺の人生は十分おかしいことになってるのに、次のレベルに行ったぞ」だって。

 ルートはクインが保護されているビルの向かいの建物にチームを連れて行きます。「本当にリースがそこにいるのか?」とファスコが聞いた直後、庭で車が爆発。「ほんとみたいね」とショウ。

 

 この後のリース無双のシーンめちゃくちゃかっこいいんだけど、シャツの血がすごくて、早く助けないと死んじゃうよ、って思ってしまい何度見ても気持ちが先走ってしまう。リースは12人の精鋭部隊を1人で壊滅させます(殺してはいない)。音楽もかっこいいし手口の鮮やかさもかっこいい。この時の音楽、DigitalismのMiami Showdownです。調べて聴いたけど癖になりますね…。

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 リースが停電させたので、この後はずっと暗い中で話が進行します。リースはクインの居場所を突き止め、2人きりになると、シモンズの居場所を教えるように迫ります。

 

I'll be damned if I repay that loyalty by breaking it now. Even if you threaten to kill me.

もし今忠誠心を裏切ったなら、私は報いを受けるだろう。お前に殺すと脅されたとしても

You see? That's why you and I understand each other.

そうか。それこそが、俺たちがお互いに分かり合える理由だ

Now, everything you do is an abomination.

お前のやったことは全て最低のことだ

But your word...Your word is your bond.

しかしお前の言葉は…、お前の言葉は誓いだ

To your godson. To Carter.

お前の名付け子にしたことも。カーターにしたことも

You do what you say.

お前は言ったことは必ずやる

So do I.

俺もだ

I'm not gonna threaten to kill you.

俺はお前を殺すと脅しているんじゃない

I'm going to kill you... whether you tell me or not.

俺はお前を殺すんだ…お前が言おうが言うまいが

No bargaining.

交渉はしない

In three minutes... you're dead.

3分以内に、お前は死体になる

I've killed many people.

俺は何人もの人を殺してきた

Never bothered me much.

大して悩まされたことはない

That's why I was good at it.

それが、俺がそれが上手かった理由だ

I didn't like them suffering, though.

だが、彼らが苦しむのは好きではなかった

Took me years to figure out how to do it quickly, painlessly.

素早く、苦痛なしにするやり方を学ぶには何年かかかった

But if you don't tell me, I'm gonna forget all of that. Understand?

だがお前が話さないなら、俺はその全てを忘れるだろう。分かるか?

And I'll make the last three minutes of your life last forever.

お前の人生最後の3分間を永遠に続くようにするだろう

 

 クインはシモンズの居場所をメモに書いてリースに渡し、それを確かめたリースは時間を待ちます。

 

Time's up.

時間だ

 

 銃を構えたところで、ドアが開いてフィンチの囁き声が聞こえてくる。

 

Mr. Reese.

リース君…

You know what Joss sacrificed to bring this man down on her terms. Legal terms.

ジョスが、彼女の、合法的なやり方でこの男を捕まえるのに何を犠牲にしたか君は知っているだろう

Everything.

全てだ

So if you're going to kill Mr. Quinn, don't imagine that you're doing it in her name.

そう、だから、もし君がクイン氏を殺すなら、それを彼女の名のもとに行うなどと思わないでくれ

That's not what she would have wanted.

それが彼女が望んだことであったはずがない

We should have killed him in the first place.

俺たちは初めから彼を殺しておくべきだった

Why didn't we, Finch?

どうしてしなかったんだ、フィンチ

That's not our purpose.

それは我々の目的ではない

We save lives. You save lives.

我々は命を救う。君は命を助けるんだ

Not all of them.

全てではない

You're dying, John.

君は死にかけている、ジョン

Let us help you.

君を助けさせてくれ

No...!

嫌だ…

Let's get him outta here.

彼をここから連れ出そう

I'll stay and make sure the feds take this piece of garbage back into custody.

俺はここに残ってFBIがこのゴミクズを留置所に戻すのを確かめる

 

 このシーンとても好きで…。フィンチの囁くような話し方、それを聞いてリースが崩れ落ちる。クインを殺してシモンズを追ってさらに殺すつもりでここまで来たのに、フィンチの声を聞いて張り詰めていたものが切れてしまいます。「ジョスはこんなことを望んでいない」。そうだよね。カーターには何度もクインを殺すチャンスがあった。でも、しなかった。正しい場所で、彼の全ての罪が明らかになることをこそ望んだから。殺しても全てが闇に葬られるだけで終わってしまう。それはカーターの望みではない。

 リースは「殺しておくべきだったんだ…。どうして俺たちはそうしなかったんだ、フィンチ」そう問いかけます。We save lives, と言った後でYou save lives, と言い換えるフィンチ。君は命を奪う人ではない、救う人ではないか、と。でもリースは「全員じゃなかった」と答えます。一番助けたかった、絶対に失えなかった人の命を救えなかった。「君を助けたいんだ」と言うフィンチに、「嫌だ」と言ってクインに向けた引き金を引くリース。何度も引き金を引くのですが、弾が出ません。何が起こったか分からないような寄る辺ない顔でフィンチを見た後、意識を失います。

 

 どうして弾が出なかったんだろう、と何度も思いました。血塗れだったから銃がうまく動かなかったんだろうか。弾が切れていたんだろうか。それとも、はじめから空砲だったんだろうか。

 

 この回、フィンチ、ショウ、リース、ファスコのフラッシュバックシーンが挿入されます。それぞれ、何らかの形で死と向き合った経験を誰かに語るシーンなのですが、最初、フィンチ→ショウ、と見た段階では、過去の死にまつわる挫折の経験を振り返っているんだと思っていたんですよね。でもリースとファスコは明らかに違う。で、もう一度考えてみたんですが。

 

 フィンチのフラッシュバックは2010年。ネイサンの死後、悲しみと向き合うことについてカウンセリングで話します。この時カウンセラーはごく一般的な「友人を失った人」の「サバイバーズ・ギルティ」に対するコメントとして、「自分が何か違う行動をしていたら彼を救えたのではないかという考えは、より辛い現実からの逃避だ。つまり、自分は神ではなく、人の生死を左右することはできないという現実からの逃避にすぎない。人は誰かの生死を左右することはできず、だからあなたに彼の死の責任はない。生存者罪悪感はいずれ消える」と告げます。それに対してフィンチは、「起きたことの全てがもし本当に自分の責任だったとしても、生存者罪悪感は消えるのか」と尋ねます。

 マシンはフィンチにとって愛しい我が子であると同時に、引き渡すべきただのシステムでもあった。だからマシンの自我も記憶も殺し、ただの「テロ関係者の社会保障番号をピックアップするシステム」として引き渡した。言ってみれば、フィンチがしたのはそれだけのことです。誰かの生死に対して責任のある立場ではない、ただの技術者だった。でもそれは、人の生死を左右する技術でもあった。

 

大量虐殺せよせよと二十世紀ありフォン・ブラウンありわれら末裔

(坂井修一)

 

という短歌があります。アメリカ宇宙開発の父と言われたヴェルナー・フォン・ブラウンは同時に「悪魔に魂を売り渡した男」とも呼ばれました。ロケット開発とミサイル開発の技術が同じだったからです。二十世紀の大量破壊兵器を用いた世界戦争における大量虐殺の責任はヴェルナー・フォン・ブラウンにあるのか?ノーベルはダイナマイトの開発でも知られていますが、爆薬で死んだ人に対する責任は?原爆を開発した技術者は、今でも苦しむ原爆症の人たちに道義的責任を負うべきか?「科学の世紀」十九世紀以降、科学技術とそれに伴う結果に対する責任は誰が負うべきか、という倫理的問題は常に存在していました。ではマシンが引き起こす、あるいは予測しうる全ての事態の責任をフィンチは負うべきなんだろうか。

 ネイサンの死に関して、直接的な責任があるのはハーシュです。S2E22のフラッシュバックシーンからそれは明らかです。でも一方で、「マシン開発を知るもの」としてネイサンが狙われたこと、マシンがそれを「無用」の番号として知っていたことも分かります。フィンチがマシンを作り、「無用」番号を無視したがためにネイサンは死んだ。そういう見方もできるだろう。フィンチはおそらくそれ以降、マシンが引き渡してくる「無用」番号の全てに対して責任感を持っている。今回は特に、自分自身の友人であったカーターが死んだこと、番号へのアクセスが間に合わなかったこと、ルートを頼らなかったこと、その全てにおいて自分を責めていると思う。

 

 元々、フィンチはマシンに「人の命を救え」「全員を平等に扱え」と教えているところからして、人間そのものを「有用」「無用」に分類する人格でない。「テロを防ぐ」デザインのマシンからそれ以外の機能を削ぎ落そうとしたのも、彼の誠実さだと思う。そもそも自分が人の生死を左右する立場にあるとは考えていなかったはず。実際マシンは検知するだけで運命を動かしたりはしないわけですし。むしろ、自分がマシンの開発者だからといって人の生死を左右できるだなんておこがましいと思っていたのではないか。「無用」番号を守ろうとしたネイサンにも「神にでもなったつもりか」と発言しています。でもフィンチは、ネイサンの死をきっかけに、「知りうるのに何もしない」ことを罪だと捉えます。

 この時、フィンチはカウンセラーに「大それたことをするつもりだ。彼の思い出に捧げるために」と話します。この時は、「ネイサンの遺志を継いでマシンの番号に対処すること」を言っているのだと思っていたのですが、S4E14を見ると、「ネイサンのために政府に復讐すること」を言っているような気がする。ですが、少なくともここで提示されるフラッシュバックからは、(ネイサンの死をきっかけとした)彼の自罰的な死生観が読み取れます。つまりフィンチの「死」に対するスタンスは、「罪悪感」です。

 

 次にショウ。ショウは医師であるにも関わらず全く人の死に頓着しないことで、「どんなに技術が素晴らしくても君は医者にはなれない」と職を追われます。ショウは、無罰的です。人が死ぬのは仕方ない。それだけです。彼女は「他の医者も人の生死を気にしていない」と言い、話し相手は「そのふりをしているだけだ」と答える。普通の医者は、人の死に対して全く頓着しないということはないでしょう。こうしていたら助かったのでは、もっとこうすべきだっただろうか、と考え、いずれ「自分は神ではない、どんなに手を尽くしても限界はある。人の生死を本当の意味で決めることはできない」と悟ったとしても、遺族には言葉を選んで語るでしょう。でもショウはそれを「人の生死を気にしていない」状態と区別できない。

 ショウは怒りを感じるキャラクターとして今まで描写されていて、コールやルートを失った時怒りを表すことで弔うシーンがあったし、今現在カーターを失った後のショウの状態も“怒り”ではないかと感じるのですが、このフラッシュバックで描写されるショウの「死」に対するスタンスは、「無」です。父親の時と同じですね。

 ただこれは今回のエピソードとはうまく重ならないし(カーターの死には“怒り”を感じていると思うし、シモンズやクインの生死については「無」というよりもむしろ積極的に死を願っているように感じるし、リースの死は望んでいない)、どういう意図でこのシーンを入れたのかはよく分かりません。

 ちなみになんですが、このフラッシュバック2005年です。1年目のレジデントみたいに見えるのですが、そうなると27歳くらいで1978年くらいの生まれってこと?それだとS3E5の1993年のフラッシュバックで15歳ってことになっちゃうけど、あのシーンは明らかに15歳ではないな…。飛び級してるのかな。もしくは、「ドクター」って呼ばれてるけどメディカルスクール在学中の可能性もありますね。3年生だとすると25歳くらいだから、1980年生まれ。サラ・シャヒさん本人と一緒ですね。それならまだ理解できるかも…。1993年に13歳、2013年現在33歳です。

 

 次にリース。リースのフラッシュバックシーンの後でクインとの会話シーンが入るのですが、クインに「俺は人を殺しても何も感じない」と話します。実際、フラッシュバックでのリースは、命令であればためらいなく人を殺す人間として描写されます。子供の目の前であっても人を撃てると言い、自分が今まで普通に会話していた相手を無造作に殺します。そこにあまり感情の揺れは見えません。一方で、「君は情に篤すぎる」とも言われている。

 リースのフラッシュバックシーンの意味を正しく解釈できているか、私は正直よく分からない。リースはもともと情に篤い人だと思う。CIA時代も、ダニエル・ケーシーのこともカーラのことも殺せなかったし、「3人も殺したのに平然としていられるはずはない」とカーラに言うシーンもあった。カーラと違って何度も「本当に対象者は悪人なのか」と疑問を呈するシーンもあった。でも、ここでは「人を殺しても何も感じない」と言う。これは何を意味しているんだろう。

 リース本人の言い分に反して、「死」に対するスタンスがショウと同じ「無」であるとは思えない。悪人であれば死んでも仕方がない、という、次のファスコと同じ立場なんだろうか。あるいは、リースは本当は胸に痛みを抱えていても、「自分がこれをやらなくてはならない」と思って実行してきた人なんじゃないんだろうか。今までも今後も何度も言われるように、「自己犠牲」「ヒーロー願望」です。だから今回、自分ではなくカーターが犠牲になったことで、リースが最も怒りを覚えている相手はおそらく自分自身なのではないかと感じます。

 

 フィンチはネイサンの死後、起こり得る全ての死に対して罪悪感を抱いている。そしてリースは、自分以外の全ての人間を自分が救うべき(あるいは悪人を自分が倒すべき)と感じている。2人とも、誰かの「死」を自分の責任だと認識しています。だからこそ番号の仕事に最適だったのかもしれない。でもそれは諸刃の剣でもあり、今2人ともカーターの死に際して自分を強く責めていることが分かる。

 でもフィンチはその罪悪感が(アリシアを殺し損ねて以来)自罰に向かっていますが、リースは他罰に向かいます。シモンズとクインを殺さなくては、という衝動に突き動かされている。

 

 ちなみにここでもリースの監視カメラの顔認識は黄枠になってました。2007年なのでリースはすでにCIAエージェントで、S1E8から考えるとマシンの情報に基づいて国家のために人殺しをしているから、本来ならショウと同じ「青枠」のはずです。でもリースは(基本的には)フラッシュバックシーンでも常に「黄枠」。マシンは徹頭徹尾リースを「こちら(フィンチ)側」と認識してる。多分、マシンが生まれた瞬間から「黄枠」として認識したの、フィンチ、リース、ネイサン、ルートの4人だけだったんじゃないかなと思います。

 

 最後にファスコが出てきます。正直、ファスコが一番驚いた。最初は「撃ちあいになって初めて人を殺してしまった警官のカウンセリング」の風景で、フィンチの「生存者罪悪感」と似たような状況で始まるのですが、「ここで言うことは外には漏れないよな?」と確認してから流れが一変します。「憎しみで撃った」とファスコは言います。「あいつは、24歳と若く、もうすぐ父親になるはずだった俺の同僚を殺した。だから俺はあいつを尾行し、チャンスを狙って、胸に2発撃ちこんだ。これは悪魔の分け前だ。悪人は報いを受ける。すっきりしたよ」そう言って立ち去ります。

 思えば、ファスコが悪徳警官になったきっかけも、スティルスに協力を迫られたからではありましたが、「どうせヤクの売人は街のゴミだ。そいつらから奪うのは仕方ない」という考えが根底にありました。つまりファスコは、「やったらやられても仕方ない」という立場です。それを「悪魔の分け前」と言っている。ファスコは、やったことの報いを受けるのは当然、むしろ爽快であると感じているように思えます。

 

 でも、後から見直して分からなくなったのですが、このフラッシュバックは2005年で、ファスコは「初めて人を撃ち殺した警官」としてカウンセリングを受けてます。一方、S2E20のフラッシュバックでファスコがスティルスに呼び出されて麻薬の売人を撃ち殺してしまうシーンは、2005年の3月25日だった。これについては隠蔽したのかもしれませんが、でも、このフラッシュバックはこの事件よりも前?後?

 もしかしたらここでのファスコの発言は全て嘘なのかもしれない、って後で見直してみて思ったんですよね。「殺したくて殺した」っていうのも、「すっきりしたよ」って言うのも。そんなこと思ってはいないのでは。カウンセリングを受けて自分の心に踏み込まれたくなくて嘘をついたのでは、とも感じました。

 

 正直その辺は全然分からないんですけど(単にメタ的に時系列が適当なだけかもしれないし)この回で、ファスコは最後、自分はカーターのおかげで変われた、と言う。クインを殺さずにFBIに引き渡し、最後はシモンズをも殺さずに逮捕して連れ帰ります。もともと「悪人は死んでも仕方ない、悪魔の分け前だ」と言っていた彼が変われたのはカーターのおかげだった。これはすごく分かったし、カーターがE8で「あなたは今までで最高の相棒だった」と言ったことに誠実に答えたんだと思った。

 だから私は、この回「悪魔の分け前」はファスコとカーターのストーリーだと感じました。2人はあくまで警察官という立場で向き合って、一緒に仕事をして、リース&フィンチと人助けをして、ファスコは悪徳警官からカーターのパートナーになって変わったんだと。代わる代わる提示される4人のフラッシュバックの最後がリースではなくファスコだったのも、それを示唆しているように思えます。

 

 その一方で、リースはどうだったんだろう。リースがどうするつもりだったのか、実ははっきりとは描写されません。シモンズの番号が出たのはリースかショウがシモンズを殺そうとしているからだ、とフィンチは思っているけど、はっきりとそうだと2人がフィンチに言ったわけじゃない。他にもシモンズの命を狙っている奴はいるんだろうし。

 でもやっぱり、私はリースはシモンズを殺そうとして探し回ったんだと思うし、当然クインのことも殺すつもりだったんだと思う。リースはファスコのようには変わっていないのではないか。ジェシカを殺されピーターに復讐した男のままなのではないか?

 ずっとあの銃から弾が発射されなかった理由を考えてたんですけど、やっぱりあの銃はもともと空砲だったわけじゃない、と思う。ていうかあれだけガチでクインに「言おうが言うまいが殺す。俺も言ったことは必ずやる。お前がカーターを殺したように」と告げておいて、「空砲だ。脅しただけだ。カーターに出会って俺は変わった。彼女の望み通り殺しはしない」なんてなるわけなくないよね。もしそうだったらフィンチが来た時そう言うはず。「ジョスの気持ちは分かってる、本当に撃つつもりはなかったんだ」って。

 まあ、本当のところは分かりません。カーターに出会って変わったから空砲にしていたんだと思う人もいると思う。ただ私は個人的にはそうじゃないと思ってて、単に弾切れだったのか血で濡れすぎて銃が壊れたかちょっと理由は分かりませんがともかく弾が出なかっただけだと思う。「君を助けたい」そう言ったフィンチに「嫌だ」と子供のように言い、まるでおもちゃみたいになった銃の引き金を何度も引いて、「どうして、」とでも言いたげな、まるでおもちゃが壊れた子供みたいな目でフィンチを見て、リースは意識を失います。

 

 変な話だけど、私は、フィンチがそこにいたから弾が出なかったんだ、と思った。

 S5のファイナルでショウがルートを殺した男を射殺するシーンがありました。「あたしはみんなに出会って変わった。前のあたしだったらあんたを躊躇わず撃ってた」そう言った後、「でもみんな死んだ」そう言って撃ち殺します。ショウは大切な人を奪われ、止めてくれる人ももういなかった。フィンチがいて、「ショウさん、やめなさい」と言っていたら殺さなかったんじゃないか?

 

 あの4人のフラッシュバックシーン、「死」に対して全員が屈折した思いを抱えていて、光の下を歩くカーターと対比するような構造なのかな、と最初は思ったのですが、でもやっぱりフィンチはもともとカーターと同じ側の人だったんじゃないかと感じます。ショウ、リース、ファスコは闇の住民だったかもしれないけど、フィンチは違う。マシンだって自分だけのために使うことがいくらでもできたはずだし、ネイサンが殺された後ネイサンの死に責任のある人を片っ端から探し出して殺すことだってできたはず(この記事最初書いた時は全然知らなかったけど、実際やろうとしてたエピソードありましたしね…)。フィンチの能力は、使おうと思えば凶器になり得ます。ルートがそうだったように。でもフィンチとカーターは命を助ける人で、リースとファスコは(必要とあらば)奪う側だった。ショウはフラッシュバックでは救う側だったけど、自分でも言うように、「救うよりも奪う方が向いてた」。

 この回の最後で、ファスコはカーターに出会ったことで変わり、命を助ける側の人間になったことが分かります。でもリースは違ってた。カーターを殺したクインは殺しておくべきだったと言い、シモンズも殺すべきだと(多分)思ってる。それでも、ここでフィンチは「やめなさい。君は命を救う人間だ」と言います。リースを「命を救う側」の人間にしたのはフィンチだった。だから、弾が出なかったんだ、って、そう思った。

 フィンチはネイサンの死とグレースとの別れと共に、闇を歩く人になった。多分リースにとってフィンチは、一緒に闇を歩きながら道を照らしてくれる人です。懐中電灯を持って一緒に歩いてくれる人。そしてカーターは、光の射す道にいて、そこから進むべき方向を示してくれる人だったんだと思う。カーターが差し伸べてくれた手をとって、光の道に出て行ったのはリースではなくファスコだった。リースは彼女をどんなに愛していてもその手を取ることができなかった。闇からは出られない人だからです。あるいは、闇そのものだから。

 もし殺されたのがフィンチで、そばにいて「やめなさい」って言うのがカーターだったら、リースはクインを殺さなかっただろうか、と考えます。私は、殺したと思う。だってフィンチがいなければ、リースは闇の中に一人きりで取り残されるから。カーターがいてもそれは変わらない。だってカーターは一緒に闇を歩いてくれる人ではないし、リースがそんなことを望むはずがないよ。

 

 何か考えちゃったんですが、リースはジェシカとカーターを失ったけどフィンチだけは助けることができた。ジェシカの時はピーターを殺し(多分)、カーターの時はクインとシモンズを殺そうとした。もしフィンチを救えなかったらこの人どうしてたんだろうって思ってしまった。もしあのままの流れでフィンチが死んでたら、サマリタンごと世界を滅ぼす!みたいな感じになってたのではと…。リースの人格を考えると、あの終わり方は必然だったのかもしれん。

 

 最後、リースができず、ファスコがやらなかったことをイライアスがやります。シモンズを殺すこと、「悪魔の分け前」です。「カーターにはできない、文明人にはできないが、私にはできる。私もお前も野蛮人だ。文明人のルールは通用しない」

 イライアス、最近ずっとBLヤクザみたいだったけど本領発揮ですね。こういう残忍なとこがイライアスだよな。ずっとシモンズのこと虫けらだと思ってたしね。個人的にはクインもシモンズも法で裁かれればそれでいいと思っていましたが、このオチの付け方は秀逸だなとも思いました。世間のルールを無視して自分のルールを貫けば、他人のルールで裁かれるのだと。それが「悪魔の分け前」かなと思いました。

 

yuifall.hatenablog.com

 この回は多分見る人によって全然解釈が変わるのではと思うので自分の考えが正解だとは思ってないけど、フラッシュバックを効果的に入れながらカーターの弔い合戦をまとめ上げ、ファスコの救済を描く、心に残るエピソードでした。

 「今でもあなたは私の光」(米津玄師『Lemon』)だよね、リース君。

 

POI:パトリック・シモンズ(被害者)

本編:2013年11月

フラッシュバック:

2010年、フィンチ(ネイサンを失った後、カウンセリング)

2005年、ショウ(レジデント? 病院での面談)

2007年、リース(CIA時代の潜入捜査)

2005年、ファスコ(警察のカウンセリング)