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枡野浩一『ショートソング』 感想1

 枡野浩一『ショートソング』の感想ですが、長くなったので数回に分けて載せます。

 

 ずーーっと昔に読んだことがある本です。当時はぱっと見チャラい感じの話かと思いきや面白かったし短歌もよかった、みたいな感想を抱いたっきり長いこと忘れていました。思い出したのは『短歌タイムカプセル』で再び枡野浩一に出会ってからで、

短歌タイムカプセル-枡野浩一 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

それから書棚を漁ったのですが何度かの引っ越しで処分してしまっていたみたいで、最近買い直して(ついでに漫画版も買って)読みました。

 

 以下はWikipediaから引用のあらすじですが、

 

 美男子だがチェリーボーイの大学生・国友克夫は、憧れの先輩・須之内舞子に訳も分からず連れて来られた歌会で、眼鏡が似合うプレイボーイの天才歌人・伊賀寛介と出会う。国友が生まれて初めて作った短歌に、その才能を見出した伊賀。伊賀に才能があるからと勧められ、短歌を始めた国友。短歌を通じて知り合った、対照的な2人の騒々しい日々が始まった。

 

です。

 

 ちなみにWikipediaを読んで初めて知ったのですが、登場キャラクターの名前は全て実在の有名歌人の名前のアナグラムになっているとか。いやー、これはびっくりしました…。当時全く知らなかったです。

 

 読み返して最初、こんなBLっぽい話だったっけ、と困惑した。。伊賀が国友に執着していて、舞子や瞳といった女子キャラを介して国友を翻弄したいといういわゆるホモエロチックな展開です。BLだった記憶全然なかったのでちょっとびっくりしました。でも、読むにつれて、国友が伊賀を評しているように

 

 ほんとうは伊賀さんは、伊賀さん自身にしか興味がないんだと思った。でもそんなことを言ったら、だれもが同じかもしれないから、僕は黙ってしまった。

 

っていうのが正しいのかな、って思った。国友への執着は、「童貞性」への執着だ、と本文中にも書かれています。

 

 最近自覚したのだが、俺はたぶん、国友克夫の「童貞性」に興奮してしまうのだ。人の言葉にいちいち動揺したり、赤面したりする素直さ。俺もこの年齢にしては異様にまっすぐな男だと思うけれども、さすがに未成年の童貞には負ける。

(中略)

 もう俺は、胸がひじに当たる程度のことでは、動じなくなってしまっている。国友はいつか俺のように、すれっからしになることもできるだろう。しかし俺のほうは、国友の頃に戻ることは絶対にできないのだ。

 

という記載や、

 

「おまえ何言ってんの。あとから短歌を始めたやつのほうが、勝てるに決まってんじゃん。すでに五百田案山子も伊賀寛介もいて、その上で歌つくるんだよ? はっきり言って、あとだしジャンケンだよ? 俺がおまえなら、伊賀寛介なんかに絶対負けないね」

 

という記載を読んで、伊賀は、自分自身の短歌と童貞の頃に出会って衝撃を受けて伊賀を超える短歌を詠みたかったのだろう、と思いました。だからそれをまさに今している国友がうらやましくて執着していたのだろうと。

 

 それにしても男性キャラはみんなそれぞれ魅力的なのに、女性キャラは全員つまらない女でしたね。ヒロインの舞子は物分かりのいい女っつーか「わきまえた」女だし、瞳は歌集出版のためにAV出演までするガッツがありながら田舎に引っ込んだ後は特に何をするわけでもなく、更紗が一番地雷っぽさを漂わせてはきていましたが、それでも数回(人づても含めて)ウザいメールを送ってきたくらいでノーダメージですし。

 伊賀が頭おかしくなって舞子にプロポーズしたとき、舞子は「私たちそういうんじゃないよね」と都合よくお断りしてましたけど、そこで「うん♡」ってなって勝手に結婚式から新婚旅行から何から全部決めてしまい、伊賀が正気に返って「やっぱりなかったことに…」ってなった頃にはもう遅くて超地雷女化するみたいな展開だったら笑えたんですが。そういう押しの強さゼロだから短歌も「そこそこ」止まりなんじゃねーの、と思ってしまった(*短歌の実作者ディスではなく、作中での評価がそうなっている)。

 

 結局伊賀は国友や笹伊藤の短歌には嫉妬するけど舞子や更紗の歌はちょっと下に見てる感じするし、

 

「伊賀さんは、そもそも、舞子先輩のどこが好きなんですか?」

「好きなとこ……自己評価が低いところ、かな」

 わりと即答だった。

「舞子は、短歌もまあまあだしな。俺、才能に惚れるタイプなんだ」

「……そのくせ、『才能が自分より上の女には、たたない』とかって、いけしゃーしゃーと言うのよ。ひどい差別!」

「しょうがないだろ、下半身の問題なんだから。格が上の与謝野晶子とやり続けた与謝野鉄幹、まじで偉いと思うよ。鉄幹て、マゾだったのかもな……」

 

というシーンもあります。

 

 ですけど、なんか腹立たないのはなんでかなーって考えてて、やっぱ作者が枡野浩一だからかなあ、って思っちゃいました。枡野浩一って売れっ子漫画家の南Q太と結婚して(離婚してますけど)確か苗字も女性側に変えていたはずで、本当に自分に自信あったら恋人がめちゃくちゃ売れっ子でも気にならないし、多分女性に対してわりとフラットな目線の人なのかなーって勝手に思ってて。だからこのシーンは逆に伊賀が実は自分に自信がないっていうことを暗に示唆しているのかなと思いました。

 物語の最後で伊賀は今まで付き合ってきた女性全員に捨てられ、自信も粉々になってから再出発という流れになりますが、もしかしたらこの人、ストーリー終わった後に付き合う女性は自分より格上だったりするのかもなって思った。

 

 続きます。

枡野浩一『ショートソング』 感想2

枡野浩一『ショートソング』 感想3

枡野浩一『ショートソング』 感想4

枡野浩一『ショートソング』 感想5