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「一首鑑賞」-40

「一首鑑賞」の注意書きです。

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40.逆光の鴉のからだがくっきりと見えた日、君を夏空と呼ぶ

 (澤村斉美)

 

 山田航『桜前線開架宣言』で知った歌です。その時から澤村斉美の歌が好きでしたが、今回砂子屋書房「一首鑑賞」で吉田隼人が面白い読み方をしていたのでとりあげてみました。

sunagoya.com

 まず、冒頭にこうあります。

 

短歌で君が出てきたら恋人のことだよ、と早稲田短歌会に入って割とすぐの頃に教えられて、何か釈然としないものを感じたのを覚えているが、それはいまでも続いている。この歌で言えば「夏空」と呼ばれた「君」は逆光の鴉のことだと読みたくなってしまう。なので、今回もそのように読ませていただく。

 

 本当に短歌会では「短歌で君が出てきたら恋人のことだ」って教えるのか??これってどうなんでしょう。和歌の読み方なのかな。「君」「背」「妹」いずれも「恋人」あるいは「夫」「妻」だよ、っていうのは何となく古代和歌的な感覚な気がします。現代短歌を読むときに、「君」=「恋人」という読み方ってあまりしないんじゃないかなー。「君」は恋人かもしれないし友達や家族や自分や誰でもない誰かや人間以外の生き物や無生物かもしれない。吉田隼人は「鴉」に対して「君」と呼びかけている、としてこの歌を鑑賞しています。

 実際の鑑賞文は引用元をご覧いただくとして、最後に

 

「くっきりと見えた日、」と区切られているから本当は鴉ではなく誰か別の人間を夏空と呼んでいるのであろうことは承知しているのだが、敢えて今回は「鴉読み」で通させていただいた。

 

と閉めています。

 

 この「君」は誰なんだろうか。当然、「恋人」あるいはそれに準ずる誰かとも読めるでしょう。もしかしたら歌集の前後の歌を読めばはっきりと誰かが分かるのかもしれない。「鴉」と読むのも面白いと思ったのですが、確かに「くっきりと見えた日、」と区切りがあり、「逆光の鴉」と「君」は違う存在のような気がします。

 

 私は単純に、「君を夏空と呼ぶ」んだから、「君」は「空」のことだと思って読みました。季節の移り変わりがはっきりと意識される瞬間ってありますよね。

 

秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる (藤原敏行

 

なんてすごい好きなんですが、この歌では、「逆光の鴉のからだがくっきりと見えた日」に、ああ、夏だ、ってはっきりと意識したんじゃないかな。だから、それまではただの「空」だった「君」が、「夏空」になったんです。

 

 自分の読み方が正しいか分からないんですが、こういう「季節の移り変わり」を詠んだ歌が好きです。やっぱり「季節感」って日本の詩歌には欠かせないファクターだと思うし、季節の変わり目にそういう歌をふと思い出してはちょっと幸せな気持ちになります。

 

 

夕闇を口を閉ざして飛ぶきみが冬のにおいを引き連れてくる (yuifall)

 

 

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