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「一首鑑賞」-39

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

39.各々が干支の獣を抱きしめて保健所へ行くこの昼下がり

 (小田原知保)

 

 砂子屋書房「一首鑑賞」で吉田隼人が紹介していた歌です。

sunagoya.com

 以前も書きましたが、この「一首鑑賞」のコーナーでは一覧表示の時は歌だけが表示されていて、そこから気になった歌をクリックして作者名や解説を読む、という感じになってます。この歌を目にして、とっさに、乳児健診をイメージしました。「干支の獣」「抱きしめて」「保健所」という言葉の連なりからの連想かと思うのですが…。まだ干支が変わる前、1歳になる前の子供をそれぞれが抱きしめて保健所へ向かうのかなって。

 

 そんなイメージでページを見てみると、吉田隼人の解説にはこうあります。

 

保健所というと今は新型コロナウイルス対策の最前線という感じだが、世の中がこんなに変わってしまうまでは、野良犬や野良猫を殺処分する場所というイメージが強かった。だからこの歌も、各人が自分の干支の獣を抱きしめて保健所に処分してもらいに連れていくような情景を想像して読んだ。

 

 まず、コラムの掲載された日付が2020年12月31日でした。確かにこれほど保健所が注目されたのは結核が死因の上位から転落して以来初なのではないだろうか。「保健所」のイメージがコロナ禍以前とは変わってしまいましたよね。そして私が連想した「乳児健診」とは大きく異なり、吉田隼人は「野良犬や野良猫の殺処分」をイメージしています。「獣」を処分しにいくんですね。

 保健所で処分されるのは野良の獣とかもう家で飼うことのできない獣なはずで、みんなが自分の「干支の獣」を処分しに保健所に行く、というのはどういう状況なのか…。しかも「抱きしめて」だから、大切に思いながらも殺すわけです。夜逃げ??なんか、すごいのっぴきならないことが多くの家庭に起きているということが想像され、戦争とかを連想しました。

 歌集のタイトルが「新興住宅地S」であることからすると、乳児健診説はそれほど悪くないのではないかと思ったりもしますが、初出が『早稲田短歌』ですから、学生がそんなテーマの歌を詠むかなぁ、って気もして分かりません。もっと全然違う心象風景なのかもしれないです。

 

 それにしても、「保健所」から連想されるものが大きく異なることが面白いなと思いました。保健所の業務は多岐にわたっているわけで、違う職種で保健所に関わっている人や実際に業務に関わっている人が読んだらまた違うイメージが浮かぶのかもしれません。

 

 

まなざしに竜を滲ませ、きみだけが選ばれた子と思う、馬鹿だな (yuifall)