山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
魚村晋太郎
去年とは月の模様が違ふ、とか あまい誤謬を信じたくなる
こういう文体ときめくなー(笑)。「あまい誤謬」って♡「ねえ、去年とは月の模様が違ってるんだよ」って言われて、うっかり「そうだね」って言っちゃうような感じ。よく分かんないけどすんなり信じちゃうの。まあ嘘でもいいかって。この歌に出会ってから、時々「あまい誤謬」という言い回しが頭に蘇り、そのたびにときめくわ♡
でも「誤謬」って言葉からとっさに京極夏彦の『姑獲鳥の夏』連想してしまう自分もいます(笑)。
ふゆの樹の体温だつた抱きしめてくれるとき背にまはす両手は
これなんかもさー。ちょっとつめたいのかな。でも両手の体温、しかも冷たさ(多分)を感じるんだから、背中はむき出しのはずなんですよ。てことはセックスするときの歌なのかな。恋人が抱きしめてくれて、でも身体の温度じゃなくて両手の温度を背中で感じてて。身体は温かいのに手はちょっと冷たいのかもしれないな。で、身体じゃなくて手の方を、「樹の体温」って思ってるの。
まあー、ほんとぜんっぜん違う情景も想像可能です。負けたスポーツの試合後とかで上半身裸の状態で誰かに慰められてるみたいな…。この場合相手は服着てる。で、手だけがむき出しだから肌が触れ合ってて、その温度だけぼんやり意識してる状態。
これ以上くづしたら誤字になりさうな具合に偏と旁 抱きあふ
解説には「隠す文体」「巧みなレトリシャン」とあります。比喩表現が美しいですよね。短歌の、「見せる」ことも「隠す」ことも可能な自由さが好きです。
スタッカートで泣くきみの抱かれたきものはここにはないと知りつつ (yuifall)