山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
我妻俊樹
おはようおはよう、さいごのドアをたたくとき 背後のドアは叩かれている
この人は怪談作家としても活動していて、歌葉新人賞には2003年の第2回から2006年の最終回まで最終候補に残り続けたそうです。歌葉新人賞といえば笹井宏之や齋藤斉藤の名前を思い浮かべますが、角川短歌賞とはまた毛色が違っていて面白いですね。
この歌は自分の前にあると思っていたものが一周して後ろにあるってことなのか、自分の後ろから常についてきている存在があるってことなのか、どっちなんだろう。「さいご」と「はいご」の語呂がいいなぁと思って好きな歌です。
逃れないあなたになったおめでとう朝までつづく廊下おめでとう
これなんかはどうしてもアニメ版新世紀エヴァンゲリオンの最終回を連想してしまうよね(笑)。おめでとう!僕は僕でいいんだ!って。解説に「笑いと恐怖は紙一重」って書いてあって笑いました。
椅子に置く花束でしたともだちが生まれ変わると向日葵になる
これとかは怪談っていうよりかリアルな死って感じしますけど、「ともだち」「向日葵」って言葉からはなんか明るい雰囲気すら漂っていて不思議です。病気とかで亡くなったともだちなのかな。長い時間をかけて花になってしまった、笑顔の明るかった人みたいな。
解説には
歪んだ狂気の世界が描かれているが、しかし不思議とぬめぬめした暗さがない。真っ白な壁に囲まれた何もない部屋のように、のっぺりとした明るい不気味さが世界を覆っている。(中略)全体として人間をあえて細かく書き込まず、漫画的な印象を与えるように操作している傾向がある。
と書かれていますが、ライトで明るい漫画っぽい文体だから、ホラーなんだけどさらっとずっと読んでいられる感じです。
「先生、吉田君が風船です」椅子の背中にむすばれている
「泳げないから慎重にふんだのに横断歩道が氷だったの」
なんて好きです。
個人サイト全盛期だった頃、精神病の人のサイトを巡回してたことを何だか思いだしてしまいました。Webringとかあった頃…。「白い天井リング」だったかな…。今ググっても出て来ません。入院体験記みたいな感じだったのですが、書いてる人も患者さんだからちょっと文章がおかしくて、現実なのか妄想なのかよく分からないんだよね。それがネット黎明期のアングラな雰囲気と相まって、サブカル的な読み物として(不謹慎かもしれないけど)面白かった記憶があります。
ああいう文章、もっと読んでおけばよかったなぁ。商業に出せないような文体って本ではほとんど読むことができないし、二次小説なんか読んでいてもあまり見ません(時々、サリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』(ただし日本語訳版)みたいな文体の人いてすごいなって思いますけど…)。もしかしたらそういう可能性が短歌にはあるのかもしれないと思いながら読みました(現代詩にもあるのかもしれない)。
ノイズしか聴こえてこないチューナーを大事に回す きみは砂漠で (yuifall)