いろいろ感想を書いてみるブログ

短歌と洋楽和訳メインのブログで、海外ドラマ感想もあります

現代歌人ファイル その58-江畑實 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

江畑實 

bokutachi.hatenadiary.jp

てのひらに秋のをはりの驟雨沁むいまこの傷を聖痕と呼ぶ

 

鍵をかけ部屋にひとりの夜はきみのかはりに薔薇を磔刑に処す

 

 塚本邦雄に師事した、とプロフィールにあります。短歌史とか短歌論とか全然分からんのですが、塚本邦雄の影響を受けた、とする歌人の歌を読むと、力強く男性的な耽美というイメージを受けます。

 

下宿までいだく袋の底にして発火点いま過ぎたり檸檬

 

陽溜りに重ねし書物そこに置くわが曝涼の不発の檸檬

 

という梶井基次郎檸檬』へのトリビュート的な歌もあります。最初、「発火点いま過ぎたり」なんだから、まさに今自分の手元で爆発した、と読んでいたのですが、「不発の檸檬」みたいです。結局下宿に持って帰ってきて書物と一緒に置いてしまっているんですね。解説には

 

不全まみれの青春はきらめきと隣りあわせなのだ。鬱屈した青春もまた輝かしいものなのである。これは、死の香りたちこめる戦時中に青春を過ごした塚本では得られなかった世界である。

 

こうあり、塚本邦雄よりも青春性の高い作風と評しています。

 

うつむきし瞬時踏絵のイエス見ゆ色盲検査紙の極彩に

 

はつなつの少女が展翅板上に置く蝶類のごときてのひら

 

 これらの歌の共通点は、「漢字三文字以上の熟語が詠み込まれている」ことである。中でもK音とG音が含まれるものが多い。漢語を積極的に取り入れることで韻律の改革を果たしたのが塚本邦雄であるが、江畑はそのDNAをよく引き継いでいる。硬い響きであるK音とG音から湧き出す世界観は、緊張と耽美のせめぎあいである。

 

 と、解説にあります。確かに『ぼくの短歌ノート』で紹介されていた塚本邦雄の「漢字の歌」すごいなと思いましたし、平仮名よりも漢字を効果的に使った歌って難易度が高い印象があります。

 ただ、山田航はかなり傾倒して「魅力と感染力が強い文体」と書いてますが、私にはこの文体を模写するのはかなり難しいです…。魅力はともかく感染力はどうかな…。耽美的な世界との相性にもよるのかも…。自分にはそういう言葉の使いこなし力ないですね…。

 

 

囚はるるまゑに投じよ手榴弾幾何学模様の胸の裡より (yuifall)