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現代歌人ファイル その122-富小路禎子 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

富小路禎子 

bokutachi.hatenadiary.jp

生るべき稚魚のいくつをかなしめば眼ふとつむりイクラを噛みき

 

 この人は、もともと俵万智の『あなたと読む恋の歌百首』で紹介されていた

 

処女(をとめ)にて身に深く持つ浄き卵秋の日吾の心熱くす

 

という歌で知っていて、ずっと夫を持つこともなく独り身だった、ということは知っていたので、

 

未婚の吾の夫のにあらずや海に向き白き墓碑ありて薄日あたれる

 

という、まだ見ぬ夫はもう亡くなってしまっているのではないか、という歌を読んで寂しい気持ちになりました。

 プロフィールを知らなかったのですが元華族なのですね。確かお母さんから「結婚を急ぐな」みたいに言われた歌もあった気がする。

 

急ぎ嫁くな(いくな)と臨終(いまは)に吾に言ひましき如何にかなしき母なりしかも

 

ですね。

 狩野聡子の時に「もてないことを上品に詠っている」と書かれていましたが、

現代歌人ファイル その114-狩野聡子 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

この人の方がより高貴な感じですね。元華族という背景も相まってか、箱入り娘な感じがします。といっても子供部屋おばさんって感じではなく、自分の生き方に対してかなり厳しい目線というか、

 

女にて生まざることも罪の如し秘かにものの種乾く季(とき)

 

というふうに詠んでいます。

 

男にて生ませざること男にて生みたしと思ふこと罪なりや (栗原寛)

 

も悲しかったけど、これも辛いですね。

現代歌人ファイル その113-栗原寛 感想 - いろいろ感想を書いてみるブログ

 ですが、こういう歌って、自分に向けて詠んでるんだろうって思うから、ああ、この人は未婚であることを十字架のように背負って苦しんでいるんだな、って分かるけど、他人にこう言えるかな。未婚の女性に、「女にて生まざることも罪の如し」って言えるだろうか。私だったら絶対に言えない。だから逆にそのことが、この人の生きた時代とか背負った背景を深く考えさせます。

 

何も写さぬ一瞬などもあらんかと一枚の鏡拭きつつ怖る

 

自動エレベーターのボタン押す手がふと迷ふ真実ゆきたき階などあらず

 

 こういう歌を読んでると、多分生きたかった人生じゃなかったんだろうと感じて苦しくなる。主体的に何かを選び取れる時代でも立場でもなかったんだろう。もしかしたら唯一の出口が結婚だったのかもしれないし、そこもまた出口ではなかったのかもしれないと思いました。

 

 

飛ぶことも食ふこともなく死ぬといふ蚕真白き翅を羽ばたく (yuifall)