山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。
岡部桂一郎
オムレツは卵を掻きて塩・胡椒紡錘形に焼いたお料理
ずーっとページ読んできて、最後の一首に笑ってしまいました。「お料理」ってかわいすぎでしょ。最初に1915年生まれ、というプロフィールが紹介され、戦争経験があること、「老いと死」をテーマに歌を詠み続けてきたことが解説され、なんとなくしんみりした気持ちで読んでいたのですが、最後の最後に笑いました。
長く生きた人間はとくに肉体の制約をひょいっと超えて精神の自由人になってしまうようなところがある。
解説にはこうあり、長く生きて多くのことを見聞きしたからこそ、「オムレツ」のシンプルさに戻るのかな、って思ったりもしました。それにしても「お料理」かわいいわー。
大正のマッチのラベルかなしいぞ球に乗る象日の丸をもつ
冒頭に紹介されるのがこの一首です。この歌、戦争絵本の『そしてトンキーもしんだ』(『かわいそうなぞう』でしたっけ、タイトル?)思い出しました…。上野動物園の動物を殺すやつ…。この歌はこの人のわりと後期の歌らしく、「もう帰らない」「逝きたる春」など、無常観漂う歌が多く紹介されています。とはいえ初期の歌も明るいかと言えばそうでもなく、
幻燈に青く雪ふる山見えてわれに言問うかえらざる声
という感じで、全体的にどうも寂しいです。
うつし身はあらわとなりてまかがやく夕焼空にあがる遮断機
あかあかとじゅず玉の実のしずまれる辺照の道 身を捨てる道
といった、「夕陽」をテーマにした歌も多数紹介されています。
こう読んできて最後の「オムレツ」の歌が強烈な光を放ってますね。なんか、変な話ですが、「老いと死」を突き詰めて考え続ける人生の中でもきっと些細なことに喜びを見ていたのではないか、と思わせるような歌だなと感じました。
指差して吾を笑いたし手探りに歩む五蘊盛苦のさなか (yuifall)