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「一首鑑賞」-198

「一首鑑賞」の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

198.不思議なる音して去年の雪が降るきょーん、きゃーん、きゃーん、きょーん

 (岡部桂一郎)

 

砂子屋書房「一首鑑賞」で永井祐が取り上げていました。

sunagoya.com

 もともとは

 

海の音しずかになれる春の夜の浜辺に出でて泣く砂を踏む

 

という歌の「一首鑑賞」ページで、冒頭の歌はそのページ内で引用されていました。面白くて目にとまりました。

 「去年の雪が降る」も分からないし、「きょーん、きゃーん、きゃーん、きょーん」がすごい。「去年の雪」そのものは「残雪」という意味の季語らしいのですが、「降る」なんだから多分「残雪」ではないだろう。そしてこの擬音。

 

下句すごいですが、最初に「不思議なる」と自ら言っているところもタガが外れている感じがします。作品をきちんと額縁にはめようとして作ると、このあまりに率直な「不思議なる」って絶対出て来ないと思うんですよね。

 

砂が泣いて、雪は不思議な音がして、わたしのタガは外れかけている。そんな感じで好きな歌集でした。

 

とあります。確かに、「きょーん、きゃーん、きゃーん、きょーん」が造語というか恣意的な言葉だったら、冒頭に「不思議なる」とは言わないような気がする。本当にそう聞こえているんだ、と言っているように見えます。

 

去年今年貫く棒の如きもの (高浜虚子

 

を何となく連想させ、今まさに年が変わる瞬間なのかな。鐘の音?「去年」は「こぞ」と読みますが、「きょーん」は「きょねん」の音にも聞こえる。「きゃーん」は「ことし」「きょう」?

 

 でもそんなつべこべ言わずに不思議さを楽しんでね、って感じも受けます。

 

 

あの店はコンビニだった 地吹雪を走る市バスは錆びついている (yuifall)

 

 

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