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現代歌人ファイル その55-辻井竜一 感想

山田航 「現代歌人ファイル」 感想の注意書きです。

yuifall.hatenablog.com

辻井竜一 

bokutachi.hatenadiary.jp

失敗を一つもせずに終わる日は生きていたのか疑わしいな

 

 なんか笑えます。「疑わしいな」って(笑)。解説には

 

 辻井の短歌の特徴は「過度な定型感」にある。完全な口語短歌であるが、五七五七七の定型をかたくなに遵守し、基本的には詩的飛躍も排している。(中略)こうした歌を読むと、短歌独特の詩性を形作っているのは定型ではないことに改めて気づかされる。辻井の短歌はどの歌も詩情のタイプが一定であり、奇妙なまでに均質な印象を抱かされる。

 

とあります。

 

翌朝の後悔なんてまやかしだ今の僕だけ常に正しい

 

って言いつつも、

 

経験上午前三時の絶望は基本的には気のせいである

 

ってどっちやねん(笑)。午前三時現在の僕は正しいのか正しくないのかどっちなんじゃ(笑)。この刹那的な感じ、全体的に笑えます。

 

 なんというか、五七五七七の間に一文字開け入れたくなるような短歌ですね。

 

失敗を 一つもせずに 終わる日は 生きていたのか 疑わしいな

 

みたいな…。詩的飛躍なしで、メタファーなしで、定型遵守で、区切れと音切れ同時、ってかなり厳しい縛りだなー。でも極めると面白いだろうな。飛躍が多すぎる歌って立て続けに読んでるとちょっと疲れるし…。

 

 とはいえ、

 

新製品「お汁粉ゼリー」の考案者「水羊羹」の存在に泣く

 

月一で開催される盲目のふりした子供たちのパレード

 

のような歌もあり、ひとえに詩的飛躍なし、メタファーなし、ともいえないような気がします。

 

 それにしてもどの歌もなんだか読みやすくてほっとします。短歌独特の詩性を形作っているのは定型ではないかもしれないし、この人の作風は古典的な「和歌」とは全然違うのですが、それでも定型遵守の歌、変なところで区切れしない歌っていいなって改めて思いました。ていうか、定型外の歌って、その作り方自体に「読み」を求められてる気がして(この「字足らず」はなぜなのか、「字余り」にはどういう心情があるのか、「区またがり」で崩したリズムが意味と響き合っているか、などなど)、ちょっとめんどうになってしまうことがあり…。多少無理ある言葉遣いでも、定型を守るためだよね、って思うと愛おしい感じがする。

 

 

ミステリーよりもホラーは理不尽でリアルはもっと理不尽である (yuifall)

 

 

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