書肆侃侃房 出版 東直子・佐藤弓生・千葉聡編著 「短歌タイムカプセル」 感想の注意書きです。
春日井建
またの日といふはあらずもきさらぎは塩ふるほどの光を撒きて
塩ふるほどの光、という表現に心惹かれました。2月だからまだ空気は冷たくて、その冷たさが明るく澄んでいて、塩の結晶が輝くような光が差していて、という光景を連想しました。またの日といふはあらずって、どういうことなんだろうな。もう会えない人のことなんだろうか。
一瞬を捨つれば生涯を捨つること易からむ風に鳴る夜の河
これはなんだか自殺を連想させられますよね。夜の河を見ていて、ここに一瞬飛び込んだら一生終わりだな、って考えているみたいな。自分自身のことなんだろうか、それとも、誰か亡くなった人を思っているのだろうか、と考えました。でも本当は、夜流れていく河みたいに、人生ってただ流れていくだけなんだといった諦念も感じさせます。笠井潔の『サマー・アポカリプス』思い出した。
すべてを承認することだ。無辜の子供たちが限りなく虐殺されて行くこの世界のすべてを、肯定することだ。ほんとうは善も悪もありはしない。百五十億年を貫いて流れ行く轟々たる原子の大河だけがある。この流れだけを凝視するその時、人は、歓びと安らぎに満ちて呟くだろう。<tout est bien>と。
少女らのこゑのひびきに未ださむきやよひの窓を閉められずゐる (yuifall)
殺戮も疫病も飢餓も知らぬ吾がこの世の何を受容するらむ (yuifall)